Moon Light

たける

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5.

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まもなくケリーを迎えてから、1時間が経過しようとしていた。
クルー達はそれぞれ持ち場につき、出発の時を待っている。ジョシュは司令席に座り、本部との通信を終えたところだった。
最初、本部から救助に来て貰おうと考えていたが、システムも回復し、ワープ機能も問題なさそうな為、軌道が反れた原因の報告だけに留めておいた。

「艦長、いつ出発しますか?」

戦術士のミューズが尋ねる。その隣では、操舵士のデルマが、発進準備の為のシステム点検をしていた。

「そうだなぁ……浮上するのはマズイから、海底でのワープを決行しよう」
「では、艦隊全域にシールドを張ります」

デルマが言い、ジョシュは頷いた。

「艦長、御呼びですか?」

ケリーを伴い、ファイがメインルームへと入ってくる。その表情はいつもと変わらず、淋しがっている訳でも、別れを惜しみあったある種の覚悟すらも見て取れない。
だが、敢えてそこを追求する必要はない。

「時間だ。ケリーさんを送り届けて来てくれ。戻り次第ワープする」

そう言いながらケリーを見遣った。相変わらずの困り顔だが、それはここへ連れて来た時の、不安を抱いていたものに似ている。
ファイがリフトから下りて、ケリーを振り返った。

「どうして、そんなに不安を感じておられるのです?フィックス。まだ無事に戻れないと、お思いなんですか?」

そうファイが尋ねると、ケリーは首を左右に振った。赤毛が揺れ、長い睫毛が青い瞳を半分程隠している。

「無事に戻れないなんて、そんな事はもう思っていません。ただ、私は……」
「分かりました。ではフィックス、こちらへ」

ファイが転送装置まで歩く。その後を、ケリーとミューズが着いて行く。だが、不意にケリーが立ち止まり、ジョシュを振り返った。危うくぶつかりそうになったミューズは、そっと脇に退いた。

「デビットさん、短い間でしたがお世話になりました。どうかご無事で旅を続けて下さい」

司令席から立ち上がり、ジョシュはケリーの前へ歩いた。

「世話をした覚えはないけど、貴方も頑張ってくれ。あと、くれぐれも、我々の事は内密に。上には問題なかった、とでも言って、うまくごまかしてくれ」

差し出されるケリーの手を握り返し、ジョシュは笑った。ケリーもつられるように苦笑すると、任せて下さい、と答えた。




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