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たける

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第二章:クラウド

2.

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「う……ん……」

あれから2時間ばかりして、娘が目を覚ました。クラウドは聖書を閉じて立ち上がると、娘を見下ろした。

「寒いかね?」
「いえ……大丈夫です。あの……」

困惑する娘に笑みを見せると、ここはソレニティ大聖堂だと教えた。それでも娘は戸惑っていたので、クラウドは尋ねてみる事にした。

「余所の街から来たのかね?」
「私……あの、覚えていないの。気が付いたら酷く寒くて、建物が見えたから、歩いて行ったのだけれど、それから……」

クラウドは首を傾げた。自分がいた街を覚えていないと言うのだろうか?

「この先にある、タッスルから来たのではないのかね?」

タッスルは、アーツ河のちょうど中流にある街だ。このササランは、その下流に位置する。

「覚えてないんです。何処から来たのか……私の名前も……」
「記憶がない、と言うのだな?気の毒に……」

クラウドは胸の前で十字をきると、娘を心底哀れんだ。

そんな娘にクラウドは、大天使から名前を取ってガブリエルと名付けた。ガブリエルは、聖母マリアに受胎告知をした天使だ。
そして自身の部屋で暮らす事を許可する変わりに、彼女に身の回りの世話をするよう頼んだ。するとガブリエルはそれを苦もなく引き受け、今寝食を共にしている。
ただ問題なのは、彼女の為のベッドを買ってやれない事だ。だからと言って、ガブリエルを床やソファに寝かせる訳にはいかず、クラウドは彼女にベッドを譲ると申し出た。だが彼女は、クラウドも一緒に、と言った。これにクラウドは大層面食らったし、聖職者である以上、女性とベッドに入る事はよくない、と断った。

「疚しい気持ちがないのなら、いいじゃありませんか。それに私、貴方がソファで寝ていると思うと、きっと眠れません」

ガブリエルは記憶が無くてくよくよするタイプの人間ではなかった。無くした事を嘆くより、今を大切にする女性であり、意見をきちんと述べられる娘だった。

「君が眠れないと困る。だが……だからと言ってベッドを共にするのは、疚しい気持ちが無くとも躊躇うものなのだよ。何せ君は若い娘だ……私にとっては、孫程も歳が放れておる」

一緒に寝ても、彼女がソファで寝ても、クラウドにとっては眠れない事に変わりはない。だがガブリエルは引かなかった。

「私を孫だと思うのなら、眠れるはずです」

こうしてクラウドは、ガブリエルとベッドを共にする事になった。そして今、背中に彼女の体温を感じている。
クラウドは若くして聖職者の道を選んだ。だから、女性との経験はなかった。まだキスさえした事がない。それなのに、この歳になってこんな若い娘と一緒に寝る事になるとは、夢にも思わなかった事態だった。
体が緊張の為に硬直しているのが分かる。
振り返りたい衝動に駆られながらも、クラウドはどうにかして眠るよう努めた。だが酷い緊張状態にある体や頭は、眠る事をそう易々と許しはしなかった。


──聖母マリア、お許し下さい……


とても罪深い気持ちになる。だがこれは、神が与えた試練なのだと思い、クラウドは必死に戦った。
もう、すでに捨てた筈の欲望が戻ってこない事を祈った。
そして1日目が過ぎた。




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