arkⅢ

たける

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3人が降りたのは、木も草もない禿げた丘の頂上だった。辺りには人気もなく、ファイの報告を後押しするようでもある。

「何もないな」

そう言い、ワイズは目を細めて辺りを見回した。ジョシュも少し歩いて辺りを警戒したが、廃墟はおろか、石や岩などしか目に映らなかった。
荒れた大地はずっと続き、地平線が砂埃に霞んで見える。

「何か聞こえるぞ……」

同じように辺りを見回していたノッドが呟き、2人は彼を見遣った。集中している顔は端整ながらも鋭敏で、触れたら切れそうな雰囲気を醸し出している。

「何が聞こえる?」
「機械音……このずっと下から鳴ってる」
「足元から?と言う事は、地下帝国でもあるって事か?」

ワイズは怪訝な顔をし、ドシドシと足を踏み鳴らした。ジョシュも自身の足元を見遣ると、首を傾げた。

「何処かに地下帝国への入り口があるのかな?」
「多分な。でも、何処かまでは分からないぜ」

そうノッドは言い、再び辺りを見回した。

「俺達はそれを探さなければならないんだ」

地下であろうが、誰かが助けを求めているのには変わりはないのだ。ジョシュは通信器を取り出すと、ホップスへ連絡を入れた。

「こちらジョシュ・デビット。ホップス、何人か警護の者を転送降下させてくれ」
『どうかしましたか?』
「ノッドの調査によると、この惑星には地下帝国があるようなんだ。そこへ向かう為の入り口を見つけなければならない」

そう説明すると、ファイの声が聞こえてきた。

『艦長、たった今ドラモッグを再走査したところ、ノッドが言ったような巨大な空間が、地下にある事が判明しました』
「どうしてさっきは分からなかったんだ?」
『分かりません。しかし、今はそれを感知しています』

そこでジョシュは少し考え、やがて言った。

「そこへ通信は出来るか?」
『先程の救難信号へ、送信する事は可能です』

それなら、入り口のある場所を聞いてみればいい。ジョシュは警護の転送降下命令を中断させると、そこにメッセージを送るように言った。

「私は宇宙連邦軍、アルテミス号の艦長ジョシュ・デビットだ。先程そちらの救難信号を受信した。現在当惑星に転送降下しているが、そちらへ向かう手段が見当たらない。出来れば誰かを寄越して下さるか、入り口を教えて頂きたい。以上」

長々とメッセージを伝えると、ほどなくしてからホップスの声がした。

『メッセージ送信しました。何か入り次第、こちらから連絡します』
「ありがとう、頼むよ。以上』

そう言って通信器を閉じると、ジョシュは2人を見遣った。

「暫く時間がかかるみたいだ」
「だろうね。ジョシュ、向こうから連絡があると思うか?」

腕組みをし、ワイズが言った。ノッドはまた欠伸を噛み殺している。

「さぁね、分からないよ。もし無かったら、俺達にはこれ以上どうしようもないからね」

立ち去るより仕方ないだろう。

「で、どのぐらい待つつもりなんだ?」
「うーん……どのぐらい待てばいいのかな?」

そう言って笑うジョシュを、ワイズは厳しい目で見ていた。

「なぁ、おい。機械音が大きくなったぞ」

ノッドが目を丸くした。だがジョシュには聞こえない。

「これは、連絡があった、と考えてもいいんじゃないかな?」

そう言って通信器に手を伸ばすと、ビービーと音を立てた。

「こちらデビット。連絡があったのか?」
『はい。たった今入りました。読み上げます』

ホップスの声がした途端、それまで平穏だった大地が大きく震動し始めた。

「地震か?」

ワイズは慌てているが、ノッドは落ち着いていた。

『迎えをそちらに送るので、その者について来て頂きたい、との事です』

やがて震動が落ち着くと、ノッドが声を上げた。

「あそこ!誰かいる!」

そちらに目を向けると、200メートル程放れた場所に、ポッカリと口を開ける洞窟が出現していて、その前に誰か立っていた。

「ありがとう、どうやら迎えが到着したみたいだ。またこちらから状況を報告する、以上」

通信器を閉じて目をこらすと、それは女性の姿だった。スルスルとこちらにやって来る。ジョシュも2人に合図し、そちらへ近付いた。

「アルテミス号の方ですか?」

先に口を開いたのは女性の方だった。異様に肌が白く、濡れ羽色の髪が長く垂れ下がり、真珠色のドレスを身に纏っている。

「はい、私が艦長のジョシュ・デビットです」

前に立ち名乗ると、女性はマーゴと言った。

あるじよりあなた方をお連れするよう、言われております。どうぞ私についてきて下さい」

そう言うと、マーゴは洞窟の中へ入って行った。続いてジョシュが入ろうとすると、ワイズが引き留めた。

「危なくないか?」
「え?どうかな。多分大丈夫だよ。相手は女性なんだし」

それでもワイズは不安げだ。

「俺が後ろから行くよ。何かあったら、対処出来るようにな」

そうノッドが言い、ワイズの背中を押した。




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