arkⅢ

たける

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洞窟の中は暗かったが、自動感知器でもあるのか、すぐに明かりが灯された。
長く奥へと明かりが続いている。通路は岩で歩きにくかったが、マーゴはスルスルと進んで行く。

「あの、救難信号の事でお聞きしてもいいですか?」

マーゴの後を追いながら、ジョシュは話しかけた。

「我々は、絶滅の危機に瀕しているのです。どうか助力をお貸し下さい」

振り返らずにマーゴが言った。

「絶滅の危機?そりゃただ事じゃないですね。で、原因は?」
「あなた方のお言葉で表すのなら、老いです。我々は機械で出来ているのですが、老朽化が進み、また直せる技師がおりません」

徐々に通路の空間が大きく開いて来る。それと同じくして、通路の向こうから明かりが差し込むのが見え始めた。

「技師がいない?貴方達を作った人はどうしたんです?」

ジョシュの後ろを歩くワイズが尋ねた。

「随分前に亡くなりました。我々はもう、その方がいなくなってから50年間、修繕も施す事が出来ずに暮らしてまいりました。ですが、主の調子が悪くなりましたので……」

明かりがマーゴを包んだ。目映いランプが岩壁のあちこちに垂れ下がり、広々とした洞窟内の街を照らしている。ちょっと見ただけでは、皆が機械で出来ているとは思えないほど、人間のようだ。街並みも、地球のものと変わらない。
太い道を進み街の中心へと向かう。途中、何人かがジョシュ達を振り返った。

「機械の修理は俺には無理だ」

そうワイズがジョシュの耳に囁いた。それに頷いて返すと、巨大なレンガ造りの建物が見えてきた。

「あそこは街の裁判所になっていて、主もそこにいらっしゃいます」

マーゴがそう説明した。機械の帝国に、果たして裁判所が必要なのだろうか、とも思ったが、ジョシュは口にしなかった。この帝国の統制がどうやってとられているのか、まだ分からない。

「失礼な事をお聞きしますが、その主がこの街を支配しているんですか?」

裁判所は堅牢で、どっしりとした造り──見た目には鉄のようだ──になっている。その前でマーゴは足を止め、漸くジョシュ達を振り返った。

「支配、と言う言葉が我々に相応しいかどうか分かりません。ですが、規律を守るようにデータを登録されている主が、何かの不都合によって危険因子となった者達を、ここで処分しています。規律を守っている間は、私達は自由です」

中へ、とマーゴに促され、ジョシュ達は裁判所に足を踏み入れた。するとすぐに傍聴席がいくつも並び、奥に古めかしいタイプのコンピュータがあるのが分かった。あちこちで青の電飾が瞬き、膨大な情報を処理しているように見える。

「主、アルテミス号の方々をお連れしました」

コンピュータの前へ出たマーゴは、恭しく頭を下げた。長い髪が肩から滑り落ち、胸元でゆったりと揺れている。

「「私はこのドラモッグ星を統括している、バラムだ」」

機械的な音声が、そう挨拶をした。ジョシュは呆気にとられながらもバラムを見上げると、真面目な顔で名乗った。

「私はアルテミス号の艦長、ジョシュ・デビットです。彼は船医長のワイズ・キルトンで、彼は科学士官のノッドです」

そう紹介すると、2人はジョシュの左右に立ち、軽く会釈をした。再び電飾がきらめき、あの機械的な音声がした。

「「既にマーゴから聞いていると思うが、私は老朽化し、もう幾ばくも持たないのだ。どうか君達に私を直して頂きたい」」
「その件ですが、ここにいる3人では、貴方を直す事が出来ないのです。ですが、私の艦に機関士がいるので、彼なら多分、貴方を直す事が出来ると思います。彼をここに呼んでも構いませんか?」

ここに必要なのは医師でも科学士官でもなく、機関士だ。カールならきっと、彼を修理出来るだろう。

「「構わない。だが、君達に1つ言っておきたい事がある。この街では、君達の所持している機器は、申し訳ないが使用出来ない」」

試しにジョシュは通信器を取り出し、ボタンを押した。

「こちらデビット。アルテミス号応答せよ。アルテミス号?」

全く反応がない。

「「私が彼等をうまく統括する為に、強力な電磁波を飛ばしているからだ」」

バラムは説明した。これでは、もし何かあった時に双方の連絡が取れない。

「じゃあ、貴方から、私の艦に連絡を入れて下さい」

諦めて通信器を閉じると、ジョシュはバラムを見上げた。ワイズは不安げな顔をし、ノッドはずっと黙っている。

「「了解した。デビット艦長、メッセージを……」」

電飾が瞬いた。

「こちらはデビット。ここでは通信器が使用出来ないので、ドラモッグ星の統括者、バラムの通信器を借りている。至急ディックに修繕の支度をし、転送降下するよう命じる。到着したら、マーゴと言う女性が我々の元へ連れてきてくれるだろう、以上」




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