arkⅡ

たける

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2.

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和やかな陽射しが庭園に光を微かに降らせている。
サカリアは太陽から離れている為、地球で言うところの夕方のような暗さが日常だ。
そんなサカリアへ2年前に嫁いで来たレイ・アナシアは、夫であるサドゥールが、いつものように数人の部下を従えて狩りに行くのを見送った。
サドゥールと出会ったのは、実戦訓練も兼ねた宇宙パトロールで、サカリア惑星にやって来た時だ。彼に見初められたレイは──王の命令に背ける筈もなく──そのままサカリアに留まり結婚する事になった。賛成した両親は式に出たものの、やはり住み慣れた地球がいいから、と言って離れて暮らしている。淋しいと言えば淋しいが、無理にこっちへ住まわせる訳にもいかない。
好きも嫌いもないままに結婚したが、サドゥールは優しく堅実な男だった。なかなか子供が出来ない事に関しても、レイを責める事はせず慰め、励ましてくれた。また、突然サカリアの王女になり戸惑うレイに、丁寧に王族のしきたりや政治等も説明してくれた。
サカリア惑星については、以前卒業課題として図書室で調べていた為、ある程度の知識はあったが、実際暮らしてみると、書物には書かれていない事も沢山あった。
だが、優しい夫や側近。そして仲の良い村の人々に支えられ、今こうして自分は幸福に暮らしていられる。
それは決して忘れてはいけない事だ。
城に残ったレイは、いつものように夫の帰りを待ちながら読書をしたり、お茶を飲んでいた。
だが、夫はいつもの時間になっても帰ってはこなかった。

「どうしたのかしら?」

部屋の中をうろうろと回りながら、レイは側近のララに呟いた。
夫と共に森へ入った部下達も戻らない。
何かあったに違いない。そう感じたレイは、捜索隊として部下を森に向かわせた。

「大丈夫ですよ、レイ様。きっとご無事で戻られます」

そう言ってくれるララの言葉を信じて待つが、またしても誰も戻らなかった。
辺りは本格的に暗闇に変わり、捜索は困難だとされた為、新たな捜索は夜が明けてからとなった。
その夜、1人でベッドに入ったレイは眠れなかった。


──サドゥールの身に、一体何が起こったのだろう?また、一緒に向かった部下達は?そして捜索隊達は?


不安ばかりが胸を締め付け、ついにレイはベッドから這い出た。そして天井に届きそうなぐらいに大きな窓に寄りカーテンを開くと、空に瞬く星に祈り始めた。


──どうかみんな無事で戻って来ますように。


強く瞳を閉じ、手を握りながら何度も呟いた。
やがて目を開くと、切り開いた森の向こうにある──村人達が住んでいる──第1区画にあたるところから、幾筋も煙が上がっているのが見え、レイは目を凝らした。
炎も見え、村が襲撃されている事が分かると、レイは慌てて部屋を飛び出した。

「誰か……!誰か来て!」

そう叫ぶと1階が騒がしくなり、ララが血相を変えて階段を駆け上がって来た。

「どうなさいました?」
「大変なの!第1区画の村から炎が上がってるわ!何者かに襲撃されているのかも……!」
「早急に誰かを向かわせますから、レイ様はお部屋にお戻り下さい」

新たに階段を上がって来た部下にララが指示を出すと、彼は急いで階段を駆け降りて行った。

「一体誰が?」

部屋に戻り、再び窓から村を見遣る。と、新たに第2区画からも火の手が上がった。

「ララ、第2区画からも火が見えるわ……!」

こんな時にサドゥールがいないなんて、と唇を噛む。

「今部下達が向かいましたから、どうか落ち着いて下さい」

そう言われ、レイは冷静になろうと努めた。王であるサドゥールが不在の今、部下達や村人が頼れるのは自分なのだ。
怖いと言えず、部下達の報告を待っている間にも、不安は募る一方だった。

「報告をくれるにしては遅いわ」

景色が僅かな明かりを取り戻しつつあるにも関わらず、誰1人として戻ってはこない。


──おかしすぎる。


だが、何が起こっているのか分からないレイは、ただ待つしか出来ないでいた。

「レイ様……!サドゥール様から通信が入りました!」

ララが早口に言いながら部屋に飛び込んで来た。

「サドゥールから?」

急いでララと共に部屋を出たレイは、通信モニターがある大広間へと駆け付けた。

「繋いで……!」

そう言うと、ララはスイッチを繋いだ。すぐに画面へサドゥールの姿が映ると、レイは今まで押さえていた涙を零した。

「アナタ……!今どこにいらっしゃるの?大変なの。第1、2区画が何者かに襲撃されているみたいで……」
『襲撃……?』

画面に映るサドゥールは、狩りに出掛けた時と同じ服を纏い、口髭を指先で摘んだ。いつもと変わらない姿の筈なのに、その目は真っ赤に染まっている。

「ア……ナタ……?サドゥールなの?」

彼はレイと同じ緑色の瞳をしていた筈だ。

『クク……娘、勘が鋭いのも考えものだぞ』

急にサドゥールの声が変わった。まるで2人同時に喋っているように、高低の声が二重になって聞こえる。

「誰なの?どうしてサドゥールの姿をしているの?貴方が村を襲撃したの?」

そう矢継ぎ早に質問すると、サドゥールの姿をした誰かはニタリと笑った。

『俺はサドゥールだ。村を襲撃したのも俺達だ。いいか、レイ。この惑星は住民が多過ぎる。せめて半分にしようと思わないか?』

何を言っているのか理解出来ない。第一、目の前に映る男がサドゥールの筈はない。彼は心優しく、村人思いな男だ。どう間違っても住民を半分にしよう、なんて言う筈がない。

「貴方はサドゥールじゃないわ!彼はどこなの?返して!」

涙でモニターが滲む。

『何度も言わせるな。俺がサドゥールだ。いいかレイ。俺達は女を殺し尽くすつもりだ。現に2ヶ所の女共は死んだ』

そう言った誰かは、モニターに女の生首を晒した。
一瞬、目の前が真っ暗になった。が、気を失う訳にはいかない。

『男共は俺の仲間だ。レイ、降伏しろ。そうしたら苦しませないで殺してやる』
「降伏しろですって……?」

レイは拳を握りしめた。


──この男が夫だと言うのなら、サドゥールは気が狂ってしまったのか。


だとしたら、自分が何とかしなければならない。
レイは振り返った。するとララを筆頭に、部下達が不安な眼差しを向けていた。

「降伏はしません……!私は貴方と戦います」




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