arkⅡ

たける

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やはり、と言うべきか。
メットを脱いで深呼吸をしても、ジョシュの体や精神に何等変貌は見られなかった。

「大丈夫みたいだ」

そう言うと、ノッドは呆れた顔をした。

「お前……馬鹿だろ?よくもまぁそんな無茶を……!」

怒っている。が、すぐにその表情は安堵へと変わった。

「何もないならいいが、これからは相談しろよ?」
「うん、分かった」

ジョシュが頷くと、ノッドもメットを脱いだ。

「空気感染じゃないって事か……」
「そうみたいだ。多分、サドゥールか一緒に狩りへ行った部下達に接触しない限りは、凶暴化はしない」

ジョシュはレイを見遣ると、そっと歩み寄った。

「現在私の部下が原因を調査中です。必ず助けますから……!」

レイは小さく震えている。

「貴方しか……もう……」

弱々しい声に、ジョシュは胸が締め付けられるようだった。

『艦長、ホップスです』

突然の通信に一瞬ビクリと驚いたジョシュは、慌ててどうした、と尋ねた。

『キルトン船医長が原因を究明されたそうです。そちらのモニターに通信を繋ぎます』
「よし、頼む……!」

そう答えモニターを見遣ると、険しい顔をした船医長が映し出された。

「ワイズ……!原因が分かったんだって?」
『あぁ。ジョシュ、この事は評議会にも報告しなければならない問題だよ』

そう言い、ワイズは後ろを振り返って何かを手に取った。

「何?評議会に報告しなければならない程の事って?」

そうでなくても、この大惨事は報告に値する程の事件だ。
ジョシュに向き直ったワイズは、更に険しい顔をしてそれを画面へと映した。

『彼等が凶暴化した原因は、アングリュードが体内に住み着いたせいだ』

アングリュードとは、宇宙に生存する生命体の中でも、さして凶暴な人種ではない。その全長は30センチと小さく──地球で言うところの蛙を引き延ばしたような外見を持つ──サカリアより離れたアングリュード惑星で暮らしている筈である。


──何故彼等は、サカリア人達の体内に住み着いたのか?


「彼等はどうして住み着いたりなんかしたんだ?」

そうジョシュが尋ねるが、ワイズは首を左右に振った。

『その理由は分からん。こいつが入っていた体が死んでしまい、こいつも同時に死んでしまったからな』

とにかく、凶暴化した原因は分かった。だが、体内から無理矢理出そうとすれば、宿主も死んでしまう。となると、現在アングリュード達に寄生されている大多数の村人は、死んでしまう事になる。

「どうにかして、サカリアの人達を助ける方法はないのか?」

レイ達の視線を気にしながらも、ジョシュは船医長にその方法はないか尋ねた。

『方法を探るには、また実験をしなけりゃいかん』
「それは……!」

レイが声を張り上げた。ジョシュは振り返り、王女を見つめた。

『こう言っちゃなんだがね、王女様。今のままじゃ、誰1人として私には救えない。だが、実験をすれば、何人かは駄目だろうが、成功すれば大半は助かる見込みはある』

ワイズが言う事は最もだったが、それはレイにとっては苦汁の選択を強いられている事になる。

「俺は実験に賛成だ。嫌だろうが助かる可能性のある命は、少数の犠牲を払ってでも救うべきじゃないのか?」

そうノッドは言った。


──他に方法はないのか?犠牲を払わなくて済む、確実な方法は?


「ワイズ、他の方法を探ってくれないか?」

ジョシュがそう言うと、ワイズは目を丸くした。

『おいジョシュ……!時間がないんだろ?あまりもたもたしてたら、その城は古拠されちまうんじゃ……』
「大丈夫さ」

真っ直ぐにワイズを見つめながら、ジョシュは胸を張って笑って見せた。

「城は俺達が守る。だからワイズ、頼むよ」

そう言うと、友人は長いため息を吐いた後、分かった、と呟いた。

『分かったよ、艦長。探すさ。探してみせるよ』
「頼んだよ、ワイズ」

そう言って通信を切ると、ジョシュは改めてレイ達を振り返った。皆不安を顔に浮かべている。

「ジョシュ、あんな事言って本当に大丈夫なのか?」

ノッドも半ば呆れているようだが、笑っている。

「俺と君。そしてみんなが力を合わせれば、きっと大丈夫さ……!」

そう、きっと大丈夫だ。ジョシュは自身へと言い聞かせた。




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