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無人の医務室に入ったジョシュは、ゆっくりとサドゥールの体を診察台の上へ寝かせた。ワイズは医療キットをその側に置き、解剖の準備を始めている。
「俺、サドゥールの顔、忘れないよ」
口髭を生やし、ふっさりとした茶色の髪。少し年齢を感じさせる皺。
「俺もさ」
ゴム手袋をし、電気メスを握ったワイズは呟いた。
沈黙の中、船医長はメスで遺体を丁寧に解剖していく。それを見つめながら、込み上げる吐き気を我慢していた。
「無理しなくていいんだぞ」
胸部を開き──溢れる血液の量からして、それが既に機能を停止している事が伺えた──肋骨に手をかける。
「いや、いいんだ。俺は見なくちゃいけない」
自分の手で死なせた男の最期を。
「ジョシュ……いいんだ」
外した助骨の向こうに、血に濡れた小さな紐のようなものが幾つも見える。ワイズはそれを電気メスで順番に切ると、続いて喉、顎へとメスを滑らせた。
「辛い選択だったな、ジョシュ。だがな、自分を責めるんじゃないよ。もし君が彼女の立場だったら?俺が君の立場だったら、やっぱりそうしたよ」
頭蓋骨があらわになる。それをノミで丁寧に割るワイズの背中に、ジョシュはそっともたれた。振動と鼓動が伝わってくる。
──もし自分がレイの立場なら?
大切な人はもう戻らない。
その人をそうしたのは体の中。
殺してやりたい。そう思うだろう。だけど、それ以上に、束縛された人を自由にしてやりたい。体が戻らないのなら、せめてその魂だけでも。
「ありがとう、ワイズ。君が来てくれて嬉しいよ」
そっと離れると、サドゥールの脳にしがみつくアングリュード人の、小さな体があった。その体から、幾本もの細い糸を伸ばしている。
「俺が思うに、この細い糸が操り人形みたいな役割を果たしていたんじゃないかな」
糸は全身に及び、ワイズはそれをまた電気メスで切って行く。
「もし無理に剥がそうとしたら、この糸があらゆる臓器、神経を一緒に引きちぎる事になるんだろう」
糸を全て切り終えて電気メスを置いたワイズは、アングリュード人を取り除いた。
「どうやって入り込むんだろうな?」
ジョシュが尋ねると、ワイズはさぁな、と答えた。
「俺、サドゥールの顔、忘れないよ」
口髭を生やし、ふっさりとした茶色の髪。少し年齢を感じさせる皺。
「俺もさ」
ゴム手袋をし、電気メスを握ったワイズは呟いた。
沈黙の中、船医長はメスで遺体を丁寧に解剖していく。それを見つめながら、込み上げる吐き気を我慢していた。
「無理しなくていいんだぞ」
胸部を開き──溢れる血液の量からして、それが既に機能を停止している事が伺えた──肋骨に手をかける。
「いや、いいんだ。俺は見なくちゃいけない」
自分の手で死なせた男の最期を。
「ジョシュ……いいんだ」
外した助骨の向こうに、血に濡れた小さな紐のようなものが幾つも見える。ワイズはそれを電気メスで順番に切ると、続いて喉、顎へとメスを滑らせた。
「辛い選択だったな、ジョシュ。だがな、自分を責めるんじゃないよ。もし君が彼女の立場だったら?俺が君の立場だったら、やっぱりそうしたよ」
頭蓋骨があらわになる。それをノミで丁寧に割るワイズの背中に、ジョシュはそっともたれた。振動と鼓動が伝わってくる。
──もし自分がレイの立場なら?
大切な人はもう戻らない。
その人をそうしたのは体の中。
殺してやりたい。そう思うだろう。だけど、それ以上に、束縛された人を自由にしてやりたい。体が戻らないのなら、せめてその魂だけでも。
「ありがとう、ワイズ。君が来てくれて嬉しいよ」
そっと離れると、サドゥールの脳にしがみつくアングリュード人の、小さな体があった。その体から、幾本もの細い糸を伸ばしている。
「俺が思うに、この細い糸が操り人形みたいな役割を果たしていたんじゃないかな」
糸は全身に及び、ワイズはそれをまた電気メスで切って行く。
「もし無理に剥がそうとしたら、この糸があらゆる臓器、神経を一緒に引きちぎる事になるんだろう」
糸を全て切り終えて電気メスを置いたワイズは、アングリュード人を取り除いた。
「どうやって入り込むんだろうな?」
ジョシュが尋ねると、ワイズはさぁな、と答えた。
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