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たける

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艦長席に着いているピサロ・メイソンは、この1年間の候補生達の成績が記されたデータに目を通していた。名目は処女航海だが、実際は実戦を積ませる為のパトロールだ。
地球にある宇宙アカデミーで3年間学んだ候補生達は優秀だった。だが1人、飛び抜けてピサロが目をかけている者がいる。それは決して、成績が抜きん出ているから、と言う理由ではない。彼の成績は上の中で──なかなかのものだったが──それなら他にもいる。

「艦長、また彼の事を?」

艦内点検を終えた副艦長が、静かにメインブリッジへ入ってきた。

「ファイ……彼は、どうだい?」

現在彼のグループは就寝中だ。あと5時間もすれば、現在任務についているグループと交代しなければならない。だが彼はこの1年間、就寝時間を守った事はない。

「いつもと同じです。図書室に引きこもり、書物を読んでいます」

表情が全く変わらないファイは、クールな眼差しをピサロに向けている。最初、この無表情さが気になって仕方がなかったが、今は慣れた、と言うより、彼がリタルド人の血を引いているのだと思えば、何もおかしな事ではない。ただ、見た目が地球人と変わらないから、初対面の相手や彼をよく知らない者には、誤解されるだけだ。

「またか……早く寝るように言いなさい。じゃなきゃ、また実戦訓練の時に居眠りしかねないからな」

そう言って笑うと、ファイも僅かに口角を引き攣らせた。

「分かりました、艦長。ただちに」

姿勢正しくピサロに敬礼したファイは、すぐにメインブリッジを出て行った。
再びピサロはデータに目を走らせた。あと1年航海したら、地球に戻らなければならない。それまでに候補生を一人前にし、卒業試験を受けさせなければならない。卒業試験と言っても難しい事はない。ただ筆記試験をするだけだ。実戦的な試験はもう始まっている。
ピサロの判断が、その試験をクリアさせるかどうかを左右する。
厳しく審査しなければならない。彼等の未来がかかっているのだから。




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