ark

たける

文字の大きさ
上 下
11 / 30
3.

しおりを挟む
モニターに映るルドルフ号は激しく船体を破損し、大きく揺れている。それをただ見ているだけしか出来ないでいるリチャード・ムーアは、あまりの事に涙さえ流れてこなかった。
次々と命中する光子魚雷が爆風を伴い、ラナフ号までも揺らしている。


──何故ルドルフ号のシールドが解除されたのか。


「もう1度聞くわよ、リチャード。フラムと別れて」

悠々と司令席に着くタルトは、唇を噛み締めながら床へ押し付けられているリチャードを見遣った。

「い……嫌だ……!こんなの間違ってる!」

そう反論するが、タルトは冷静だった。

「あら、そう。それなら仕方ないわね」

そう言って副艦長のロンへと視線を向けると、タルトは最終命令を出した。

「とどめをさしなさい」
「丁解、艦長」

ロンがそう返事をすると、突如ラナフ号が大きな衝撃を受けた。

「艦長!レーダーにアルテミス号を探知しました。彼等はこちらに攻撃照準を合わせ、光子魚雷を発射させてきました!」

戦術士の報告を受けたタルトは、首を傾げながらモニターヘアルテミス号を映させた。

「まぁ、厄介ね。ロン、アルテミス号のシールドを解除してちょうだい。解除コードは……よ」
「き……君、何故解除コードを知ってるんだ?」

リチャードがそう質問すると、タルトはニッコリと笑った。

「アタシだって宇宙連邦に所属する宇宙艦隊の一員よ」

いくつもある航宙艦の中で優秀とされる艦の艦長は、全航宙艦のシールドコードや地球の防衛コードを知っていると聞いた事がある。忘れていたが、このラナフ号はその優秀な艦の1つだ。
だからルドルフ号もシールドが解除されたのだと、リチャードは漸く思い知らされた。

「シールド解除、直ちに攻撃照準をアルテミス号に合わせ直します」

コンソールを叩きながら報告するロンは、リチャードと同じ地球人だ。それなのに無意味な攻撃を容認している。いくら艦長命令だとは言え、間違っているなら質してやるのが副艦長としての勤めではないだろうか。

「ソンシ副艦長、貴方はどうして艦長に意見しないんです?こんな攻撃、間違ってると思わないんですか?」

リチャードがそう声を上げると、ロンは一瞬だけこちらに視線を向けた。

「艦長命令は絶対ですから」

それだけ答えると、スクリーンに映るアルテミス号に照準が合った事を報告した。
ルドルフ号はほぼ全壊している。多分、もう誰も生きてはいないだろう。

「攻撃開始……!」

意気揚々と命令を降すタルトは、司令席のコンソールを撫でた。
再び船体が大きく揺れ、爆音が響き渡る。が、ルドルフ号の時と違い、アルテミス号はラナフ号からの攻撃を避けながら反撃してくる。余程操舵士の腕がいいのだろう。

「第1魚雷外れました!第2魚雷は追撃されましたが、第3魚雷はアルテミス号船尾に命中しました!」

戦術士官がそう報告すると、タルトは拳を握った。

「船尾じゃたいしたダメージは与えられないじゃない!」

そう言ったものの、アルテミス号は航宙艦の中で1番攻撃能力に長けているのを思い出す。いくらこちらのシールドが高く、向こうのシールドを解除していても、ラナフ号もそれなりのダメージを覚悟しなければならない。それよりも、ルドルフ号を撃墜したのが当艦だと、宇宙連邦に知られるのは避けたい。

「アルテミス号へ向けて通信チャンネルを開いて!」

タルトの命令に即座に対応し、ロンは艦長を見遣った。

「通信可能です」

スクリーンにアルテミス号のメインブリッジが映るとすぐ、タルトは司令席から立ち上がった。

「こちらラナフ号艦長のタルト。メイソン艦長はいらっしゃる?」

そうタルトが尋ねると、モニターに映る若い女性から画面が切り変わった。

『アルテミス号艦長のピサロ・メイソンだ。タルト艦長、何故ルドルフ号を攻撃している?理由によっては即刻宇宙連邦へ報告し、連邦評議会で貴女を裁いてもらうぞ』

威厳の篭った口調でそう言い放ったメイソンは、タルトを睨んでいる。

「艦長、その件について話し合いましょう。今から当艦へお越し下さい。あと、評議会へは連絡しないでね。もし連絡したら、ここにいるリチャード・ムーアを殺すわ」




しおりを挟む

処理中です...