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トムの部屋に、ミカとアンディがやって来ていた。別にアンディを呼んだ訳ではないのだが。
「例のハムスターの件だが……」
ミカとテーブルを挟んで顔を付き合わせる間、アンディはコーヒーの準備をしていた。
「詳しく話を聞いてみるって言ってたわね。どう?」
「それなんだが……」
トムは──電話は繋がらなかったと前置きしてから──ついさっき、バートンを襲った黒ずくめ達の話をし、そして彼女がそのハムスターを預かっていると言った。
「どうやら、あのハムスターにはとんでもない秘密があるらしい」
苦しい顔でそう言うと、アンディが2人の前にカップを置いてミカの隣に座った。
「秘密って?」
「分からん。だが、懸賞金100万を出してでも、取り戻したいものである事には変わりはない」
そう言ってノートパソコンを開き、問題の掲示板を開く。だがそこにはもう、あの捜索依頼はなかった。
「書き込みも削除されてるって事は、やはりあの黒ずくめと書き込みをした奴は繋がってる、もしくは、同一人物って事だな」
きっとまたバートンを襲撃してくるだろう。
「で、どうするの?そのハムスターは危険だって、ジュリアに知らせて譲ってもらう?」
「そうするしかないだろ」
ぶっきらぼうに答えると、今まで黙っていたアンディが口を開いた。
「それもいいけど、悪党はまた彼女を狙うんじゃないかな?例えハムスターを僕らが預かったとしても、どこへやったー!みたいに捕まって、拷間されちゃうかも……」
そう言ってコーヒーを飲んだ。
「だったらどうしろって言うんだ?」
眠むと、アンディは肩をすくめて見せた。
「よくある手だけど、彼女を監視して、悪党が来たらやっつけちゃうってのは?」
「やっつけてどうする。元々ハムスターの飼い主なんだぞ」
価値のあるハムスターを、横取りしようって言うのじゃあるまいし。
「でも、バートンさんに怪我を負わせたじゃない。きっとそのハムスターだって、誰かから盗んだんだよ。本来の飼い主を探さなきゃ」
嬉々としてアンディが訴えた。ミカは隣で苦笑している。
「どうやって本来の飼い主を探すんだ?」
腕組みをし、アンディの味気ない顔を見遣る。するとアンディは、ノートパソコンを示した。
「こっちから、預かってますって書き込むんだ。お返しするのには100万いりますって」
「変じゃない?それ」
ミカがコーヒーを飲み干してから言った。アンディはそんなミカを見つめ、笑っている。
「そうかな?じゃあ、どうすればいい?誰も傷付かずに済む方法は?」
そう言っている間に、再び隣室からガチャンと音がした。トムは銃を引っ付かんで自室から飛び出すと、勢いよくバートンの部屋に突入した。
「動くな」
黒ずくめの人間が、今度は銃を持ってバートンを脅していた。
「チェイスさん……!」
怯えたバートンは顔面蒼白になっている。
「用が済めばこの娘を解放してやる。だが、動くと撃つぞ」
銃を構えたまま、トムは動けずにいた。だが窓の外にミカの姿を認めると、降参したように両手を上げた。
「分かった。何もしない。だから撃つな」
もう1人の黒ずくめは、依然として室内を物色している。
「さっきと言い、あんたら、何を探してるんだ?」
相手の注意を引く為に、トムは質問をした。それに答えたのは物色している方だった。
「お前には関係ない」
静かに、音もなく窓が開かれて行く。ミカの鋭い目が、銃を突きつける黒ずくめに向けられていた。
「それが何か教えてくれたら、一緒に探してやるよ」
「結構だ。我々にはそれを感知する方法はある」
そう言って物色している方がトムへと顔を向けた途端、ミカが銃を突きつけている黒ずくめを蹴り倒した。それを見たトムも、物色する為に床へ這いつくばり、立ち上がろうとするもう1人の顎ヘパンチを食らわせる。2人は気絶して床に倒れた。
「もう大丈夫よ、ジュリア」
ミカがバートンを優しく抱き締める。トムは黒ずくめの2人を荷造り用の紐できつく縛り上げた。
「どうして私が!」
苦悶の表情を浮かべ、バートンは嘆いた。ミカはそんな彼女の髪を撫でてやっている。
「君が預かってるハムスターのせいだ」
「え……グレッグの?」
遅れてやって来たアンディは、片手にトムのノートパソコンを持っていた。
「書き込みの履歴を調べたよ。書き込み主は、エリス・トマスだったよ!」
半ば興奮気味に報告し、アンディはキーボードを弾いた。
「トマス?あの、トマスか?」
「うん。エリスはその後妻。ブライン・トマスは現在、その妻とハネムーン中らしいよ」
ジュリアはよく分からないと言うようにミカを見つめている。
「ちゃんと彼女にも説明してあげなさい」
そう言われたが、黒ずくめの1人が呻き声を上げた為、また空気が緊張を孕んだ。
「おい、お前。エリス・トマスに頼まれたんだな?」
「ふん、お前の知った事じゃないだろう」
──偉そうな口を……!
トムはそいつの頬を殴った。
「お前の知っている事を全て白状しろ。さもないと、痛い目にあわせるぞ」
そう脅してみても、黒ずくめは白状しようとはしなかった。
「あのハムスターがどうしても必要な理由は何?」
ミカも、ジュリアから放れて黒ずくめに詰め寄った。
「あのハムスターはエリス様のものだ。それを返してもらう以外に理由などない」
無意味な間答が続く間にも、アンディはキーボードを叩き続けている。
「オークションに出品するつもりだった?」
画面を見据えたまま、アンディが言った。その時、黒ずくめの体が僅かに強張るのをトムは見逃さなかった。
「高値で売りさばく為に、彼女を傷付けたって訳か」
「ちょっと待って!」
突如アンディが手を上げた。トムは握り固めた拳を宙で止めた。
「トマス氏がオークションに出品するつもりなのは、ハムスターじゃない。彼自身が採掘した稀少なダイヤだ!」
場は静寂に包まれた。
トムはアンディがもたらした詳細を理解し、推理しようと努めた。だが最初に口を開いたのは、トムやミカではなく、バートンだった。
「まさか、グレッグに?」
「分かったなら、返してもらおうか」
もう1人の黒ずくめも意識を取り戻したらしく、軽く頭を振っている。
「グレッグからダイヤを取り出し、オークションに出品するつもりなの?」
そう言ったバートンの口調は冷静で、トムはハッとした。さっきまで襲えていた女とは思えない。
「どうするかは、お前には関係ない。お前は黙って我々を解放し、ハムスターを返せばいいのだ」
「断るわ。多分貴方達は、そうしないでしょうから。それにハムスターもダイヤも、本当の持ち主は貴方を雇った人じゃなくて、ブライン・トマス氏のものよ」
アンディはパソコンを閉じた。ミカは黙ってバートンを見つめている。
「分かったなら、そのように主人に伝えろ」
トムはそう言って黒ずくめの2人を部屋から放り出した。
「例のハムスターの件だが……」
ミカとテーブルを挟んで顔を付き合わせる間、アンディはコーヒーの準備をしていた。
「詳しく話を聞いてみるって言ってたわね。どう?」
「それなんだが……」
トムは──電話は繋がらなかったと前置きしてから──ついさっき、バートンを襲った黒ずくめ達の話をし、そして彼女がそのハムスターを預かっていると言った。
「どうやら、あのハムスターにはとんでもない秘密があるらしい」
苦しい顔でそう言うと、アンディが2人の前にカップを置いてミカの隣に座った。
「秘密って?」
「分からん。だが、懸賞金100万を出してでも、取り戻したいものである事には変わりはない」
そう言ってノートパソコンを開き、問題の掲示板を開く。だがそこにはもう、あの捜索依頼はなかった。
「書き込みも削除されてるって事は、やはりあの黒ずくめと書き込みをした奴は繋がってる、もしくは、同一人物って事だな」
きっとまたバートンを襲撃してくるだろう。
「で、どうするの?そのハムスターは危険だって、ジュリアに知らせて譲ってもらう?」
「そうするしかないだろ」
ぶっきらぼうに答えると、今まで黙っていたアンディが口を開いた。
「それもいいけど、悪党はまた彼女を狙うんじゃないかな?例えハムスターを僕らが預かったとしても、どこへやったー!みたいに捕まって、拷間されちゃうかも……」
そう言ってコーヒーを飲んだ。
「だったらどうしろって言うんだ?」
眠むと、アンディは肩をすくめて見せた。
「よくある手だけど、彼女を監視して、悪党が来たらやっつけちゃうってのは?」
「やっつけてどうする。元々ハムスターの飼い主なんだぞ」
価値のあるハムスターを、横取りしようって言うのじゃあるまいし。
「でも、バートンさんに怪我を負わせたじゃない。きっとそのハムスターだって、誰かから盗んだんだよ。本来の飼い主を探さなきゃ」
嬉々としてアンディが訴えた。ミカは隣で苦笑している。
「どうやって本来の飼い主を探すんだ?」
腕組みをし、アンディの味気ない顔を見遣る。するとアンディは、ノートパソコンを示した。
「こっちから、預かってますって書き込むんだ。お返しするのには100万いりますって」
「変じゃない?それ」
ミカがコーヒーを飲み干してから言った。アンディはそんなミカを見つめ、笑っている。
「そうかな?じゃあ、どうすればいい?誰も傷付かずに済む方法は?」
そう言っている間に、再び隣室からガチャンと音がした。トムは銃を引っ付かんで自室から飛び出すと、勢いよくバートンの部屋に突入した。
「動くな」
黒ずくめの人間が、今度は銃を持ってバートンを脅していた。
「チェイスさん……!」
怯えたバートンは顔面蒼白になっている。
「用が済めばこの娘を解放してやる。だが、動くと撃つぞ」
銃を構えたまま、トムは動けずにいた。だが窓の外にミカの姿を認めると、降参したように両手を上げた。
「分かった。何もしない。だから撃つな」
もう1人の黒ずくめは、依然として室内を物色している。
「さっきと言い、あんたら、何を探してるんだ?」
相手の注意を引く為に、トムは質問をした。それに答えたのは物色している方だった。
「お前には関係ない」
静かに、音もなく窓が開かれて行く。ミカの鋭い目が、銃を突きつける黒ずくめに向けられていた。
「それが何か教えてくれたら、一緒に探してやるよ」
「結構だ。我々にはそれを感知する方法はある」
そう言って物色している方がトムへと顔を向けた途端、ミカが銃を突きつけている黒ずくめを蹴り倒した。それを見たトムも、物色する為に床へ這いつくばり、立ち上がろうとするもう1人の顎ヘパンチを食らわせる。2人は気絶して床に倒れた。
「もう大丈夫よ、ジュリア」
ミカがバートンを優しく抱き締める。トムは黒ずくめの2人を荷造り用の紐できつく縛り上げた。
「どうして私が!」
苦悶の表情を浮かべ、バートンは嘆いた。ミカはそんな彼女の髪を撫でてやっている。
「君が預かってるハムスターのせいだ」
「え……グレッグの?」
遅れてやって来たアンディは、片手にトムのノートパソコンを持っていた。
「書き込みの履歴を調べたよ。書き込み主は、エリス・トマスだったよ!」
半ば興奮気味に報告し、アンディはキーボードを弾いた。
「トマス?あの、トマスか?」
「うん。エリスはその後妻。ブライン・トマスは現在、その妻とハネムーン中らしいよ」
ジュリアはよく分からないと言うようにミカを見つめている。
「ちゃんと彼女にも説明してあげなさい」
そう言われたが、黒ずくめの1人が呻き声を上げた為、また空気が緊張を孕んだ。
「おい、お前。エリス・トマスに頼まれたんだな?」
「ふん、お前の知った事じゃないだろう」
──偉そうな口を……!
トムはそいつの頬を殴った。
「お前の知っている事を全て白状しろ。さもないと、痛い目にあわせるぞ」
そう脅してみても、黒ずくめは白状しようとはしなかった。
「あのハムスターがどうしても必要な理由は何?」
ミカも、ジュリアから放れて黒ずくめに詰め寄った。
「あのハムスターはエリス様のものだ。それを返してもらう以外に理由などない」
無意味な間答が続く間にも、アンディはキーボードを叩き続けている。
「オークションに出品するつもりだった?」
画面を見据えたまま、アンディが言った。その時、黒ずくめの体が僅かに強張るのをトムは見逃さなかった。
「高値で売りさばく為に、彼女を傷付けたって訳か」
「ちょっと待って!」
突如アンディが手を上げた。トムは握り固めた拳を宙で止めた。
「トマス氏がオークションに出品するつもりなのは、ハムスターじゃない。彼自身が採掘した稀少なダイヤだ!」
場は静寂に包まれた。
トムはアンディがもたらした詳細を理解し、推理しようと努めた。だが最初に口を開いたのは、トムやミカではなく、バートンだった。
「まさか、グレッグに?」
「分かったなら、返してもらおうか」
もう1人の黒ずくめも意識を取り戻したらしく、軽く頭を振っている。
「グレッグからダイヤを取り出し、オークションに出品するつもりなの?」
そう言ったバートンの口調は冷静で、トムはハッとした。さっきまで襲えていた女とは思えない。
「どうするかは、お前には関係ない。お前は黙って我々を解放し、ハムスターを返せばいいのだ」
「断るわ。多分貴方達は、そうしないでしょうから。それにハムスターもダイヤも、本当の持ち主は貴方を雇った人じゃなくて、ブライン・トマス氏のものよ」
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