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空港はフェンスに囲まれ、格納庫はその隅の方にあった。トムは格納庫のちょうど裏側にある駐車場へ愛車を停めると、辺りを見回した。
まだアンディの姿はない。だが格納庫の回りを、黒いスーツを着た男が2人、注意深く見回っている。
アンディの話しによると、バートンを拐った時にいたのは2人だったらしい。
昨夜襲ってきた黒ずくめも2人だった。多分手下は、2人ないし4人以上はいるに違いない。
「私達2人だけじゃ、アンディもジュリアも守るのはちょっとキツイわね」
助手席でミカがそう漏らした。
「なぁに、大丈夫だ。きっとうまくいく。さぁ、そろそろ行こうか」
そっと車から降り、フェンスを素早く乗り越えて敷地内に入った。作業員達は飛行機の点検や荷物の運搬に、慌ただしくしている。だが誰1人として、格納庫へは近付いていない。
「随分手回しが行き届いてるみたいね」
「俺達を始末する気らしいな」
腰を屈め、飛行機の影に隠れながら進む。どうやら見回りは2人しかいないらしい。
「よし、あいつらを倒してから浸入しよう」
「アンディを待たないの?」
「待ってたら、足手まといを増やすだけだ。手下を全部のしてしまってから、直接彼女と交渉する」
トムはそっと駆け出した。そして見回りの1人を背後から襲って気絶させると、ミカは残りの1人をアスファルトに沈めた。
「中に入るぞ」
ゆっくりと扉を開いたが、重く錆び付いた扉は異様なまでに音を響かせた。
中は薄暗く、高窓から射し込む光が辺りを照らしている。その奥に、バートンとブラインが荷物に縛られていた。
「誰だ?」
2人を見張っていた男が銃を僅かに持ち上げた。
「例の約束で来た」
そっと銃を隠し男に歩み寄る。
「アンディか?」
男も少し近付いてきた。訝しげに顔を傾げている。ミカは荷物の間を縫って、奥へ向かっていた。
「そうだ。俺がアンディ・ハルバートだ」
両手を上げ、武器を所持していないのを示すと、男は銃で近くに来いと指示した。
エリスの姿がない。それを不審に思いながらも近付くと、いきなり顔を殴られた。
「昨夜のお礼だ」
「彼女とブラインを解放しろ」
咥内に血の味を感じながら、トムは言った。
「先にブツを渡せ」
「いや、駄目だ。人質の解放が先だ」
目の端に、ミカがバートンに駆け寄る姿が見えたが、次には飛行機の影に隠れていたもう1人の手下に阻まれた。
「お前はアンディじゃない」
銃がこめかみにあてられた。
「やめて!」
バートンが叫んだが、耳元で安全装置の外される音がした。
「お前は確か……チェイスとあの女に呼ばれてたな。で、本物のアンディはどこだ?ブツはどうした?」
ミカも男に銃を突き付けられている。万事休すか、と思うと、扉が全開され、目映い光が射し込んだ。
「アンディは僕だ!銃を下ろさないと、このままハムスターを捻り潰すぞ!」
そう脅したが、到底アンディには出来ない事だとトムは知っていた。だが男達には僅かなりとも効果があったようで、渋々銃を下ろした。そしてそのままトム達を壁際へと銃で小突いて追いやってから、男はアンディに向き直った。
「さぁ、ブツを渡せ」
依然男の手には銃が握られていて、油断を許さない状況だ。だがアンディは唇を噛み締め、小さく震える足取りで男へと歩み寄った。手にはハムスターの入ったカゴを下げている。
「無事にハムスターが手に入ったら、お前達はさっさと帰るんだ。そしてこの事は……」
そこまで言った時、アンディの右人差し指が、男の左胸を突いた。
「何の真似だ?」
訝しみながらも、男はアンディの悪戯に微笑している。するとアンディは決然とした顔を上げると、きっぱりと言った。
「お前はもう、死んでいる」
場がシンとなった。突かれた男は顔を強張らせ、トムは驚愕に口をポカンと開いた。
──あいつ、また馬鹿な事を!
トムとミカを見張る男も、呆然とアンディを見ていた。チャンスだ。トムはミカに目で合図すると、前に立ちはだかる男を突き飛ばして走り出した。
「何を馬鹿な……」
背後から男の首を締め上げて気絶させる。ミカも男を片付けたところだった。
「あぁ、もう!」
何故かアンディは悔しそうな声を出した。
「何だって言うんだ?」
「せっかくケンシロウになりきってたのにぃ!」
──こいつが馬鹿で良かった……
お陰で不意をつく事が出来た。
「動かないで!」
振り返ると、いつの間にかエリス・トマスが現れ、夫に銃を突き付けていた。バートンは間髪のところでミカに救われていたが。
「ヒィッ!や、止めろ!」
「ふざけた真似をしてくれるじゃない!」
エリスは怒っていた。
「ハムスターを渡しなさい!」
「観念しろ。お前の方が圧倒的に不利だ」
銃をエリスに向ける。ミカはバートンを後ろに下がらせ、同じ様に銃を構えた。
「あら、そうかしら?」
そう言ったエリスは、素早く銃を仕舞うと悲鳴を上げた。すると整備士や警備員達が一斉に駆けつけてきた。
「しまった!」
慌てた時にはもう遅く、銃を構えていたトムとミカは警備員達に囲まれてしまった。
「銃を下ろして両手を頭の上に乗せるんだ!」
「違う!僕達は!」
アンディが事情を説明しようとしたが、取り押さえられ、カゴを奪い取られた。
「大丈夫でしたか?トマス様」
カゴはまんまとエリスの手中に収まった。彼女は満面の笑みを浮かべている。
「貴方達のお陰で動かったわ。ありがとう!」
いつの間にか、ブラインの拘束はとかれていた。だが押し黙ったまま、事情を説明しようともしない。
「こいつらは警察に突き出しておきましょう。で、そちらのお嬢さんは?」
警備員がバートンを見てきた。説明しようと口を開いたが──警備員の背中にキラリと光るものをチラつかせたエリスが見え──バートンは黙った。代わりにエリスが説明する。
「アタシの妹よ。これからまたハネムーンに行くわ」
まだアンディの姿はない。だが格納庫の回りを、黒いスーツを着た男が2人、注意深く見回っている。
アンディの話しによると、バートンを拐った時にいたのは2人だったらしい。
昨夜襲ってきた黒ずくめも2人だった。多分手下は、2人ないし4人以上はいるに違いない。
「私達2人だけじゃ、アンディもジュリアも守るのはちょっとキツイわね」
助手席でミカがそう漏らした。
「なぁに、大丈夫だ。きっとうまくいく。さぁ、そろそろ行こうか」
そっと車から降り、フェンスを素早く乗り越えて敷地内に入った。作業員達は飛行機の点検や荷物の運搬に、慌ただしくしている。だが誰1人として、格納庫へは近付いていない。
「随分手回しが行き届いてるみたいね」
「俺達を始末する気らしいな」
腰を屈め、飛行機の影に隠れながら進む。どうやら見回りは2人しかいないらしい。
「よし、あいつらを倒してから浸入しよう」
「アンディを待たないの?」
「待ってたら、足手まといを増やすだけだ。手下を全部のしてしまってから、直接彼女と交渉する」
トムはそっと駆け出した。そして見回りの1人を背後から襲って気絶させると、ミカは残りの1人をアスファルトに沈めた。
「中に入るぞ」
ゆっくりと扉を開いたが、重く錆び付いた扉は異様なまでに音を響かせた。
中は薄暗く、高窓から射し込む光が辺りを照らしている。その奥に、バートンとブラインが荷物に縛られていた。
「誰だ?」
2人を見張っていた男が銃を僅かに持ち上げた。
「例の約束で来た」
そっと銃を隠し男に歩み寄る。
「アンディか?」
男も少し近付いてきた。訝しげに顔を傾げている。ミカは荷物の間を縫って、奥へ向かっていた。
「そうだ。俺がアンディ・ハルバートだ」
両手を上げ、武器を所持していないのを示すと、男は銃で近くに来いと指示した。
エリスの姿がない。それを不審に思いながらも近付くと、いきなり顔を殴られた。
「昨夜のお礼だ」
「彼女とブラインを解放しろ」
咥内に血の味を感じながら、トムは言った。
「先にブツを渡せ」
「いや、駄目だ。人質の解放が先だ」
目の端に、ミカがバートンに駆け寄る姿が見えたが、次には飛行機の影に隠れていたもう1人の手下に阻まれた。
「お前はアンディじゃない」
銃がこめかみにあてられた。
「やめて!」
バートンが叫んだが、耳元で安全装置の外される音がした。
「お前は確か……チェイスとあの女に呼ばれてたな。で、本物のアンディはどこだ?ブツはどうした?」
ミカも男に銃を突き付けられている。万事休すか、と思うと、扉が全開され、目映い光が射し込んだ。
「アンディは僕だ!銃を下ろさないと、このままハムスターを捻り潰すぞ!」
そう脅したが、到底アンディには出来ない事だとトムは知っていた。だが男達には僅かなりとも効果があったようで、渋々銃を下ろした。そしてそのままトム達を壁際へと銃で小突いて追いやってから、男はアンディに向き直った。
「さぁ、ブツを渡せ」
依然男の手には銃が握られていて、油断を許さない状況だ。だがアンディは唇を噛み締め、小さく震える足取りで男へと歩み寄った。手にはハムスターの入ったカゴを下げている。
「無事にハムスターが手に入ったら、お前達はさっさと帰るんだ。そしてこの事は……」
そこまで言った時、アンディの右人差し指が、男の左胸を突いた。
「何の真似だ?」
訝しみながらも、男はアンディの悪戯に微笑している。するとアンディは決然とした顔を上げると、きっぱりと言った。
「お前はもう、死んでいる」
場がシンとなった。突かれた男は顔を強張らせ、トムは驚愕に口をポカンと開いた。
──あいつ、また馬鹿な事を!
トムとミカを見張る男も、呆然とアンディを見ていた。チャンスだ。トムはミカに目で合図すると、前に立ちはだかる男を突き飛ばして走り出した。
「何を馬鹿な……」
背後から男の首を締め上げて気絶させる。ミカも男を片付けたところだった。
「あぁ、もう!」
何故かアンディは悔しそうな声を出した。
「何だって言うんだ?」
「せっかくケンシロウになりきってたのにぃ!」
──こいつが馬鹿で良かった……
お陰で不意をつく事が出来た。
「動かないで!」
振り返ると、いつの間にかエリス・トマスが現れ、夫に銃を突き付けていた。バートンは間髪のところでミカに救われていたが。
「ヒィッ!や、止めろ!」
「ふざけた真似をしてくれるじゃない!」
エリスは怒っていた。
「ハムスターを渡しなさい!」
「観念しろ。お前の方が圧倒的に不利だ」
銃をエリスに向ける。ミカはバートンを後ろに下がらせ、同じ様に銃を構えた。
「あら、そうかしら?」
そう言ったエリスは、素早く銃を仕舞うと悲鳴を上げた。すると整備士や警備員達が一斉に駆けつけてきた。
「しまった!」
慌てた時にはもう遅く、銃を構えていたトムとミカは警備員達に囲まれてしまった。
「銃を下ろして両手を頭の上に乗せるんだ!」
「違う!僕達は!」
アンディが事情を説明しようとしたが、取り押さえられ、カゴを奪い取られた。
「大丈夫でしたか?トマス様」
カゴはまんまとエリスの手中に収まった。彼女は満面の笑みを浮かべている。
「貴方達のお陰で動かったわ。ありがとう!」
いつの間にか、ブラインの拘束はとかれていた。だが押し黙ったまま、事情を説明しようともしない。
「こいつらは警察に突き出しておきましょう。で、そちらのお嬢さんは?」
警備員がバートンを見てきた。説明しようと口を開いたが──警備員の背中にキラリと光るものをチラつかせたエリスが見え──バートンは黙った。代わりにエリスが説明する。
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