VELTA・QUEEN

たける

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薬を飲んで落ち着いたベルタは、ベッドの上に横になっていた。ベッドを囲むようにして、天使達がベルタを見ている。

「すいません、心配させてしまって……」

ベルタがすまなさそうに言うと、3人は首を横に振った。「それより、息子さんのことですけど……あぁするしか方法はなかったんです。誠にすみません」天使が深々と頭を下げた。
ベルタは「いいんです、もういいんです……」と言った。「あんな子ですから……でも、ちょっぴり悲しかったです」
寂しそうに天井を眺めていた。
皆は下を向いて静かになった。

「で、では私はもう戻ります」

天使がそう言ってベッドから一歩離れたとき、ベルタは天使のズボンを持って引き止めた。「待って下さい」掠れた声だ。「私も、地獄へ連れて行って下さい」
3人は、一斉にべルタを見た。
「もう私には余生はありません。こうやっているうちに、きっと私は死んでしまいます」ベルタは続けた。「だから今、どっちへ連れて行って欲しいか、申しているのです」
「地獄なんて……何故ですか?」

天使が微かに、声を震わせて尋ねた。

「私は、マイケルに喜ばれる事は、何ひとつやってあげられなかった……その報いです」

ベルタは、苦しそうに微笑んだ。


──今のベルタには、何を言ってやるべきだろうか……


天使は何も言えないでいた。

「ベルタ、何もそんなことを言わなくても……」

アブーラがチラリと天使を見た。

「いいんです」天使が言った。「いいですが、どうしても連れて行って欲しいんですか、地獄へ?」
「死なないと駄目ですよね。天使さんには殺させません。次第に自分で、死にます」

そう言うと、ベルタは最期とも言える微笑みを浮かべた。そして瞳を開じた。
天使は、その頬を撫でた。すると、胸元から弱々しく光る魂が出てきた。
「何をするんだ?」アブーラが天使の腕を掴んだ。「まだ死んでいない筈だ!」
「いや、アブーラ、彼は亡くなった」

モーリタニアまでもが、ベルタの死を告げる。
信じたくはなかった。だが、揺すぶっても起きないベルタの体を見ていると、信じざるを得なかった。

「ベルタ……早すぎるぞ。何故死に急いだんだ?」アブーラは床の上に崩れた。「もう少し、私が寿命で死ぬまで、生きていて欲しかった……!」
「アブーラさん、彼は今死んで、幸せだったと思います。彼は人の死を見るのを、酷く恐れていました。だから、マイケルの死を見た時、これ以上生きていても、このような死を見るだけだと思ったのでしょう。だから死に急いだのだと思います。それに彼は、アブーラさんたちの寿命までは、生きていられなかったでしょう」

そう言うと、天使はベルタの魂を両手で大事そうに
持った。「では、私は戻ります。2人とも、命は大切に」
天使も死神と同じ様に、闇夜に姿を消した。
残された2人は、開け放たれた窓から吹き込む冷たい風に、ユラユラと吹かれて踊るカーテンの、向こうに見える黒い海を見ていた。









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