8 / 8
7.
しおりを挟む
薬を飲んで落ち着いたベルタは、ベッドの上に横になっていた。ベッドを囲むようにして、天使達がベルタを見ている。
「すいません、心配させてしまって……」
ベルタがすまなさそうに言うと、3人は首を横に振った。「それより、息子さんのことですけど……あぁするしか方法はなかったんです。誠にすみません」天使が深々と頭を下げた。
ベルタは「いいんです、もういいんです……」と言った。「あんな子ですから……でも、ちょっぴり悲しかったです」
寂しそうに天井を眺めていた。
皆は下を向いて静かになった。
「で、では私はもう戻ります」
天使がそう言ってベッドから一歩離れたとき、ベルタは天使のズボンを持って引き止めた。「待って下さい」掠れた声だ。「私も、地獄へ連れて行って下さい」
3人は、一斉にべルタを見た。
「もう私には余生はありません。こうやっているうちに、きっと私は死んでしまいます」ベルタは続けた。「だから今、どっちへ連れて行って欲しいか、申しているのです」
「地獄なんて……何故ですか?」
天使が微かに、声を震わせて尋ねた。
「私は、マイケルに喜ばれる事は、何ひとつやってあげられなかった……その報いです」
ベルタは、苦しそうに微笑んだ。
──今のベルタには、何を言ってやるべきだろうか……
天使は何も言えないでいた。
「ベルタ、何もそんなことを言わなくても……」
アブーラがチラリと天使を見た。
「いいんです」天使が言った。「いいですが、どうしても連れて行って欲しいんですか、地獄へ?」
「死なないと駄目ですよね。天使さんには殺させません。次第に自分で、死にます」
そう言うと、ベルタは最期とも言える微笑みを浮かべた。そして瞳を開じた。
天使は、その頬を撫でた。すると、胸元から弱々しく光る魂が出てきた。
「何をするんだ?」アブーラが天使の腕を掴んだ。「まだ死んでいない筈だ!」
「いや、アブーラ、彼は亡くなった」
モーリタニアまでもが、ベルタの死を告げる。
信じたくはなかった。だが、揺すぶっても起きないベルタの体を見ていると、信じざるを得なかった。
「ベルタ……早すぎるぞ。何故死に急いだんだ?」アブーラは床の上に崩れた。「もう少し、私が寿命で死ぬまで、生きていて欲しかった……!」
「アブーラさん、彼は今死んで、幸せだったと思います。彼は人の死を見るのを、酷く恐れていました。だから、マイケルの死を見た時、これ以上生きていても、このような死を見るだけだと思ったのでしょう。だから死に急いだのだと思います。それに彼は、アブーラさんたちの寿命までは、生きていられなかったでしょう」
そう言うと、天使はベルタの魂を両手で大事そうに
持った。「では、私は戻ります。2人とも、命は大切に」
天使も死神と同じ様に、闇夜に姿を消した。
残された2人は、開け放たれた窓から吹き込む冷たい風に、ユラユラと吹かれて踊るカーテンの、向こうに見える黒い海を見ていた。
了
「すいません、心配させてしまって……」
ベルタがすまなさそうに言うと、3人は首を横に振った。「それより、息子さんのことですけど……あぁするしか方法はなかったんです。誠にすみません」天使が深々と頭を下げた。
ベルタは「いいんです、もういいんです……」と言った。「あんな子ですから……でも、ちょっぴり悲しかったです」
寂しそうに天井を眺めていた。
皆は下を向いて静かになった。
「で、では私はもう戻ります」
天使がそう言ってベッドから一歩離れたとき、ベルタは天使のズボンを持って引き止めた。「待って下さい」掠れた声だ。「私も、地獄へ連れて行って下さい」
3人は、一斉にべルタを見た。
「もう私には余生はありません。こうやっているうちに、きっと私は死んでしまいます」ベルタは続けた。「だから今、どっちへ連れて行って欲しいか、申しているのです」
「地獄なんて……何故ですか?」
天使が微かに、声を震わせて尋ねた。
「私は、マイケルに喜ばれる事は、何ひとつやってあげられなかった……その報いです」
ベルタは、苦しそうに微笑んだ。
──今のベルタには、何を言ってやるべきだろうか……
天使は何も言えないでいた。
「ベルタ、何もそんなことを言わなくても……」
アブーラがチラリと天使を見た。
「いいんです」天使が言った。「いいですが、どうしても連れて行って欲しいんですか、地獄へ?」
「死なないと駄目ですよね。天使さんには殺させません。次第に自分で、死にます」
そう言うと、ベルタは最期とも言える微笑みを浮かべた。そして瞳を開じた。
天使は、その頬を撫でた。すると、胸元から弱々しく光る魂が出てきた。
「何をするんだ?」アブーラが天使の腕を掴んだ。「まだ死んでいない筈だ!」
「いや、アブーラ、彼は亡くなった」
モーリタニアまでもが、ベルタの死を告げる。
信じたくはなかった。だが、揺すぶっても起きないベルタの体を見ていると、信じざるを得なかった。
「ベルタ……早すぎるぞ。何故死に急いだんだ?」アブーラは床の上に崩れた。「もう少し、私が寿命で死ぬまで、生きていて欲しかった……!」
「アブーラさん、彼は今死んで、幸せだったと思います。彼は人の死を見るのを、酷く恐れていました。だから、マイケルの死を見た時、これ以上生きていても、このような死を見るだけだと思ったのでしょう。だから死に急いだのだと思います。それに彼は、アブーラさんたちの寿命までは、生きていられなかったでしょう」
そう言うと、天使はベルタの魂を両手で大事そうに
持った。「では、私は戻ります。2人とも、命は大切に」
天使も死神と同じ様に、闇夜に姿を消した。
残された2人は、開け放たれた窓から吹き込む冷たい風に、ユラユラと吹かれて踊るカーテンの、向こうに見える黒い海を見ていた。
了
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる