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第一章
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今日の講義が全て終わり、帝は帰り支度をしていた。もう雨は止んでいる。
「帝、今日ミナミ寄って行けへん?」
「あー、兄貴がいつ帰ってくるかわからへんから、今日は、な、ごめん」
ひろ子は──帝の短大に来てからできた友達だ──
つまらなさそうな顔をした。それでも仕方がないなと言うように微笑んでから、帝の肩をポンと叩いた。
「そうか。んじゃええわ。気ぃつけてな」
「ん、ばいばい」
ひろ子は図書室に入って行った。彼女は読書が好きなのである。
帝はウォークマンのスイッチを入れ、イヤーホンを耳にした。頭の中に大好きな歌手の声が流れてくる。帝はホクホクしながら短大を出た。
赤茶のレンガ風で出来ている道、正門までは、少し距離がある。体育館の前を通り過ぎ、通路沿いに植えられている木々を見つめる。まだうっすら緑色をしていた。
「!」
何かが足首を掴んだ。帝はガクリと体勢を崩し、倒れ込んだ。
──何やのんな。
足首を見るが、何もない。首を傾げながらも立ち上がり、歩きだそうとする。が、再び倒れた。
今度は頭を強く打った。クラクラする、ジワジワと意識がなくなっていく。
──なんやの……?
薄れていく意識の中で、帝はもう一度足首を見た。
骨の手が、自分の足首を掴んでいた。
「君、大丈夫か?」
講師らしい男が駆け寄ってきた。もう帝は意識を失っている。徐々に人が集まってきた。
「大変だ、すいません、誰か彼女を車で病院に。あ、芝草さん、車をお願いします」
男がそう言って、輪の中にいた芝草と呼ばれる若い男が車を取りに行った。
「しっかりしろ、もうすぐ病院に連れて行くから」
講師の岡野は、帝を抱え上げようとした。そんなに重くない。しかし上がらない。どうしてだ?岡野はまだ30半ばだ、それに力がない訳じゃない。しかし、いくら上げても帝の体は上がらない。
足が上がらないのだ。
車が来た。しかし、上げられないと乗せられない。岡野は芝草と一緒に上げみた。それでも、左足だけが上がらなかった。
「一体どうなってるんだ」
芝草が左足首を掴んでみた。だが、慌ててすぐにその手を離した。
「どうかしましたか?」
「彼女の足首に何かあるんです、見えませんけど」
半信半疑で岡野も帝の足首を掴んでみた。確かに、何かあるようだ。一体なんだ。暫く岡野はそれに触れていたが、やがて手ではないかということが分かった。手だとしたらおかしい。見えないし、それにどうやらその手は、コンクリートの下へと続いているようだ。
「どうですか?」
芝草が強張った声で尋ね、岡野は頷いた。とにかくこの手を離さなければ。
岡野はそれを掴み、思いっきり引っ張った。離れない。何度も引っ張ってみた。
無理だった。どうしようか。芝草を見た。その時、自分たちの回りを囲むようにして出来ている輪の中に、見た事のない男がいるのに気がついた。この学校の講師でもないし、関係者でもない。一体誰だろう。暫く見つめていると、その男がスッと前に出てきた。
「帝、今日ミナミ寄って行けへん?」
「あー、兄貴がいつ帰ってくるかわからへんから、今日は、な、ごめん」
ひろ子は──帝の短大に来てからできた友達だ──
つまらなさそうな顔をした。それでも仕方がないなと言うように微笑んでから、帝の肩をポンと叩いた。
「そうか。んじゃええわ。気ぃつけてな」
「ん、ばいばい」
ひろ子は図書室に入って行った。彼女は読書が好きなのである。
帝はウォークマンのスイッチを入れ、イヤーホンを耳にした。頭の中に大好きな歌手の声が流れてくる。帝はホクホクしながら短大を出た。
赤茶のレンガ風で出来ている道、正門までは、少し距離がある。体育館の前を通り過ぎ、通路沿いに植えられている木々を見つめる。まだうっすら緑色をしていた。
「!」
何かが足首を掴んだ。帝はガクリと体勢を崩し、倒れ込んだ。
──何やのんな。
足首を見るが、何もない。首を傾げながらも立ち上がり、歩きだそうとする。が、再び倒れた。
今度は頭を強く打った。クラクラする、ジワジワと意識がなくなっていく。
──なんやの……?
薄れていく意識の中で、帝はもう一度足首を見た。
骨の手が、自分の足首を掴んでいた。
「君、大丈夫か?」
講師らしい男が駆け寄ってきた。もう帝は意識を失っている。徐々に人が集まってきた。
「大変だ、すいません、誰か彼女を車で病院に。あ、芝草さん、車をお願いします」
男がそう言って、輪の中にいた芝草と呼ばれる若い男が車を取りに行った。
「しっかりしろ、もうすぐ病院に連れて行くから」
講師の岡野は、帝を抱え上げようとした。そんなに重くない。しかし上がらない。どうしてだ?岡野はまだ30半ばだ、それに力がない訳じゃない。しかし、いくら上げても帝の体は上がらない。
足が上がらないのだ。
車が来た。しかし、上げられないと乗せられない。岡野は芝草と一緒に上げみた。それでも、左足だけが上がらなかった。
「一体どうなってるんだ」
芝草が左足首を掴んでみた。だが、慌ててすぐにその手を離した。
「どうかしましたか?」
「彼女の足首に何かあるんです、見えませんけど」
半信半疑で岡野も帝の足首を掴んでみた。確かに、何かあるようだ。一体なんだ。暫く岡野はそれに触れていたが、やがて手ではないかということが分かった。手だとしたらおかしい。見えないし、それにどうやらその手は、コンクリートの下へと続いているようだ。
「どうですか?」
芝草が強張った声で尋ね、岡野は頷いた。とにかくこの手を離さなければ。
岡野はそれを掴み、思いっきり引っ張った。離れない。何度も引っ張ってみた。
無理だった。どうしようか。芝草を見た。その時、自分たちの回りを囲むようにして出来ている輪の中に、見た事のない男がいるのに気がついた。この学校の講師でもないし、関係者でもない。一体誰だろう。暫く見つめていると、その男がスッと前に出てきた。
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