ホワイト・ルシアン

たける

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第2章.年下

3.

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圭人と過ごした週末は、久しぶりに落ち込まなかった。いつもなら出会いを求めて街に出たり、自分を貶めるようなセックスに悔やんだりしてたんだけど。


──こんな晴れやかな気分の月曜なんて、あの日以来なんじゃ……?


そんな事を思いながら、営業先の1つである、県立N高等学校──都心から車で約2時間程行った、海沿いの町にある──へ来ていた。
この高校は、サンライズ創業以来の大のお得意様で、今日は器具のメンテナンスと、新しい商品の紹介の為の訪問だ。

「まだ残暑が厳しいですねぇ」

そう言う教頭先生に従い、体育館へ向かう。校舎から繋がる渡り廊下で、生徒達──恐らくバスケ部──とすれ違い様に会釈すると、見覚えのある顔が体育館から顔を覗かせているのに気付いた。

「あ……れ、姫野?」

短く刈り込まれた黒髪に、少し垂れた丸い目と、人懐っこい笑み。確かに、大学の後輩である姫野浩一ひめのこういちだった。

「剣崎先輩じゃないですかぁ!え?え?どうしたんです?」
「姫野先生とお知り合いなんですか?」
「あ、はい。同じ大学出身で……」

実際に、大学時代を共にした訳じゃない。俺がプロになってから訪問した際、ラグビー部に姫野──当時大学2年──がいた。
それから年に1回は──プライベートで──会うようになったのだけど、今年はまだだった。

「じゃあ、後は姫野先生にお任せしましょうか」
「はい!大丈夫です、任せて下さい!」

そう言って胸板を叩く姫野に、教頭先生は俺を押し付けて去って行った。その後ろ姿を、2人で見送る。

「えーっと……じゃあ、よろしくお願いします」
「あはは!先輩、畏まらなくていいですよ」
「そう?じゃあ、うん」

こんな形で顔を合わせる──体育教師をしていると聞いていたけど、まさかN高校だとは──事になるなんて。
戸惑いつつ、仕事はきっちりしないとな、って。




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