ホワイト・ルシアン

第８章．再会

１．

『澪さんの　誰かさん　見つかった』

マンションの地下駐車場に停車し、エンジンを止めた時だった。メール──朋樹からだ──があり、ドクンッて、まるで少女漫画みたいに大きく鼓動した。


──え……？あの人が？まさか！


信じられないけど、信じたい。だって朋樹は──初対面だったけど──そんな嘘をつくような子には、到底思えなかったから。
緊張で震える指でタップし、電話する。２コール目で、朋樹の少し高い声がした。

『澪さん、メール見たんだ……？』

「うん、見た。あの……これって本当なの？」

『多分ね。本人から、２年前の話を何かしてなかったかって、聞かれたから』

「え？どう言う……？」

そわそわしてる。運転席で体を捻り、ハンドルやらシート、ダッシュボードを無闇に触ってる。

『実はさ、その人って……オレの父親なんだよね』

「ち、ちち……おや……？」

『うん。ほら、オレ、会社に戻れって言われて、澪さんに送ってもらったでしょ？父さんがそう言ってて、戻るなりさ、澪さんに会ったんだって？って。で、２年前の話を何かしてなかったかって、聞かれたんだ。オレ、それでピンときちゃって……』

そこで言葉を切った朋樹が、電話の向こうで鼻を啜った。俺は電話を──左手から右手に──握り直すと、それで、って、続きを促した。

『……会わせてくれって、言われた……』

朋樹の父親って、どんな人なんだろう？そもそも、家族構成も知らない。今は想像出来ないけど、通話が終わったら調べてみよう。

「お、俺も……」

『うん。会ってみたいって、言ってたもんね。で……今夜にでも会う？それとも……』

「今夜、で、お願いします」

一刻も早く、会ってみたい。そう思った。
朋樹の好意も知らない訳ではなかったけど、まず自分の中で──２年前の件を──消化したかったから。

『はは、お願いしますって、澪さん……』

小さく笑う声に、情事の時の元気はない。ごめんねって、心の中で謝った。

『じゃあ、父さんにも話してみるよ。で、その……澪さんの連絡先とかって、教えた方がいいのかな？』

「え……あ……うん、そうだね」

顔が熱い。胸がドキドキして苦しい。声も振るえている気がする。

『……分かった。父さんに教えるから、後は２人で相談してね』

じゃあって、電話が切れると、俺はシートにぐったりともたれた。運転席側の窓が雲っている。


──会えるんだ……


全身が痺れたような感覚がして、まだ動けない。
早く部屋に戻って支度──シャワーを浴びたり着替えたり──したいのになーって、思いながらも、喜びの余韻を噛み締めていた。