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第14章.その後
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目が覚めたら、見覚えのない天井──どこかのホテルらしい──が見えた。
──ここは……?
朦朧とする意識。怠い体。そしてハッと思い出した。料亭での、あの接待を……
「気が付いたかい?」
「こ……康介さん」
ひょいと視界に入ってきた笑顔に、更に困惑する。
「お、俺……」
「もう終わったよ」
「終わった……?」
「あぁ。その……すまなかったね」
謝罪の意味が脳に到達するまで、ちょっと時間がかかってしまったけど、康介さんは悪くない。
「あ、謝らないで下さい!康介さんは、ちっとも悪くないんですから……」
悪いのは、あの接待を用意した近藤社長や、それを楽しんでいた棟方社長だと思う。
──だとしても、承諾したのは俺だ……
同罪だろう。悔しさに俯くと、大きな手が頭の上に乗せられた。
「自分を責めないで」
「でも……」
「気にするな、とか、終わった事だと言うのは容易いが、前を向いていこうじゃないか」
そう言われ、それもそうかも知れないと思う。
もう済んでしまった──無かった事には決してならない──のだから。
「そう、ですね……はい」
気持ちを──話題も──切り替える為に、今回の接待の意味を思い出す事にした。
「……うちと、カーレッジ、合併するんですよね」
「そうだね。これからは、我々は同じ会社の所属になるね」
詳細は全く──今の段階では──分からないが、職場が同じになる、と言う事に、嬉しさはあった。
自分は営業──圭人もだけど──で、康介さんは事務系部長だったよな、と思う。
「朋樹も喜んでいたよ」
「お話しになったんですか?」
口外しないようにと、言われていたのだが。
「……実は今日、朋樹が顔合わせにそちらに行ってるんだ。だが……」
と、康介さんは言い淀み、少し間を置いてから教えてくれた。
今日はうち──サンライズ社──で、俺と撮影前の顔合わせをするのだと聞いていた事。だけど突然棟方社長に連れられ──自分だけ──あの料亭での接待役をやらされた事。そしてその顔合わせに、優が呼ばれている、との事だった。
「えぇ?」
優は最近、海外遠征の為の日本代表合宿に召集され、帰ってきたばかりだ。それは近藤社長も承知していた筈なのだが。
「さっき朋樹からラインがきてね。君だと期待してたものだから、違ったって、ガッカリしてるみたいだったよ」
鮫島君には申し訳ないけど、と、付け加える。
「そうだったんですか……」
「事前の会合では、君だと言っていたんだけどね。朋樹に嘘つきと言われたよ」
そう言って笑う康介さんにも、疲労の色が見える。
あんな事をさせられたのだから、心痛もあるだろう。
「もう少ししたら、自宅近くまで送るよ」
「ありがとうございます」
「だから、もう少し休んでいても構わないよ」
「康介さんも休んで下さい」
「いや、私はちっとも……」
ぎゅっと手を握る。康介さんが俺をチラと見遣ってきた。
「嫌な事をさせてすみません」
上司の命令に逆らえなかったのは、同じだ。憤りや悔しさも、ぐっと堪えてくれたに違いない。
「……いいんだ」
相変わらずの柔和な笑みに、俺は改めて、ありがとうと伝えた。
──ここは……?
朦朧とする意識。怠い体。そしてハッと思い出した。料亭での、あの接待を……
「気が付いたかい?」
「こ……康介さん」
ひょいと視界に入ってきた笑顔に、更に困惑する。
「お、俺……」
「もう終わったよ」
「終わった……?」
「あぁ。その……すまなかったね」
謝罪の意味が脳に到達するまで、ちょっと時間がかかってしまったけど、康介さんは悪くない。
「あ、謝らないで下さい!康介さんは、ちっとも悪くないんですから……」
悪いのは、あの接待を用意した近藤社長や、それを楽しんでいた棟方社長だと思う。
──だとしても、承諾したのは俺だ……
同罪だろう。悔しさに俯くと、大きな手が頭の上に乗せられた。
「自分を責めないで」
「でも……」
「気にするな、とか、終わった事だと言うのは容易いが、前を向いていこうじゃないか」
そう言われ、それもそうかも知れないと思う。
もう済んでしまった──無かった事には決してならない──のだから。
「そう、ですね……はい」
気持ちを──話題も──切り替える為に、今回の接待の意味を思い出す事にした。
「……うちと、カーレッジ、合併するんですよね」
「そうだね。これからは、我々は同じ会社の所属になるね」
詳細は全く──今の段階では──分からないが、職場が同じになる、と言う事に、嬉しさはあった。
自分は営業──圭人もだけど──で、康介さんは事務系部長だったよな、と思う。
「朋樹も喜んでいたよ」
「お話しになったんですか?」
口外しないようにと、言われていたのだが。
「……実は今日、朋樹が顔合わせにそちらに行ってるんだ。だが……」
と、康介さんは言い淀み、少し間を置いてから教えてくれた。
今日はうち──サンライズ社──で、俺と撮影前の顔合わせをするのだと聞いていた事。だけど突然棟方社長に連れられ──自分だけ──あの料亭での接待役をやらされた事。そしてその顔合わせに、優が呼ばれている、との事だった。
「えぇ?」
優は最近、海外遠征の為の日本代表合宿に召集され、帰ってきたばかりだ。それは近藤社長も承知していた筈なのだが。
「さっき朋樹からラインがきてね。君だと期待してたものだから、違ったって、ガッカリしてるみたいだったよ」
鮫島君には申し訳ないけど、と、付け加える。
「そうだったんですか……」
「事前の会合では、君だと言っていたんだけどね。朋樹に嘘つきと言われたよ」
そう言って笑う康介さんにも、疲労の色が見える。
あんな事をさせられたのだから、心痛もあるだろう。
「もう少ししたら、自宅近くまで送るよ」
「ありがとうございます」
「だから、もう少し休んでいても構わないよ」
「康介さんも休んで下さい」
「いや、私はちっとも……」
ぎゅっと手を握る。康介さんが俺をチラと見遣ってきた。
「嫌な事をさせてすみません」
上司の命令に逆らえなかったのは、同じだ。憤りや悔しさも、ぐっと堪えてくれたに違いない。
「……いいんだ」
相変わらずの柔和な笑みに、俺は改めて、ありがとうと伝えた。
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