職業、死神

たける

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5.見知らぬ男

2.

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集落に戻ると、ジムの家の前に、見知らぬ男が──とは言え、俺はこの集落に住む人間全員の顔を、覚えてる訳ではないが──立っていた。

「どうやら客のようだな。とにかくお前達は、夜までこの近くで待っていろ」

頷く夫婦を置いて、俺は玄関に向かった。男が一足先に、家の中へと招じ入れられる。俺は客が来たのをいい事に、1人を満喫しようと足を止めた。

だが、一体ジムに、何の用だろう。
ここの住民達は──俺が来てからだが──誰もジムの家へ近付こうとはしない。またジムも、家から出ようとはしなかった。いわゆる引きこもり、と言うやつだろう。だから、そんなジムに会いに来た客を珍しく思い、窓から中の様子を窺う事に──ジムが、俺以外の人間にはどう接するのか、興味が湧いたのだ──した。

覗いてみると、男──小太りで髪が薄い──はジムを床に組み敷き、口を塞いでいた。何かの遊びだろうかと思っていると、男はジムのズボンを引き下ろし始めた。ジムは足をバタつかせていたが、こちらからは顔が見えない。
人間の子供が、そうやって相手に馬乗りになっているのを見た事があった俺は、やはりこれは遊びなのだと思った。

なんだ、遊んでくれる奴がいたんじゃないか。

何故ジムが、話し相手がいないなどと嘘をついたのかは知らないが、嘘は人間特有のものだから、と思う。

暫くすると、男はジムの腰を片手で持ち上げ、やがて体を揺すり始めた。揺すられる度、ジムの小枝のような足が、ピクピクと痙攣するように震える。
珍しい遊びだな、と感心していると、男はジムを軽々と抱え上げ、テーブルに倒した。くの字に体を曲げられたジムの顔が、漸く俺にも見えた。
茫然としている。
だが、再び男が体を揺すり始めると、苦し気な表情へと変わった。それをただ、俺はじっと見ていた。男は、俺の存在に気付いていないらしい。
体を揺する、と言うより、腰を動かしているように見えるその動きは、激しさを増しているようで、テーブルがガタガタと軋み始めた。暫くして男が、口を塞いでいた手を離すと、ジムが声を上げるのが聞こえた。

「あッ!あッ!止め……」

頬が赤みを帯び始め、白いジムの肌が桃色に見える。

「止めて……止め……あァッ!あゥッあゥッ!」
「止めてだって?嘘言ってンじゃねーぞ!こんなにキュウキュウ絞めつけといて!」

男はそう怒鳴ると、ジムの艶やかな黒髪──これは母親譲りらしい──をひっつかみ、旨そうに耳を舐めた。味覚のない死神にとって、旨そう、と言う表現が正しいのかどうか分からないが、とにかく、人間が作物を食べて、旨いと言っている時の顔と、同じに見えたのだ。

更に男はジムを揺さぶり、ニヤニヤと笑い出した。ジムは、目から水を流している。
人間は時に、目から水を流す。どのような時に流れるのか、俺はまだ知らない。
客が帰ってから、ジムに聞いてみよう。そう思った時、背後から人間が1人、近づいてくるのに気がついた。
また客だろうか。珍しい事が続くものだと、振り返る。するとこの近所に住んでいる、これまた太った男だった。

「アンタ、なに人の家を覗いてるんだ!」

語気を荒げて歩いてくる男は、大地を力一杯踏みしめているような歩調だ。

「確かに人の家だが、俺は昨日から、ここにいる」
「昨日からだ?アンタ、ここらじゃ見ない顔だが、この家の坊やとどう言った関係なんだ?」

俺の前に立った男は、肩越しにジムの家を覗き、そして目を剥いた。何をそんなに驚く必要があるのか。分からない俺は、男に家の中の2人を指差した。

「俺は知らないんだが、あれは何と言う遊びなんだ」
「遊びぃ?アンタ、バカか?ありゃ遊びじゃねぇ!強姦だ!」




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