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5.見知らぬ男
1.
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ジムの父親は、トーマス。母親は、エリー。
死神達が暮らす世界へ戻った俺は、取り敢えず自分の家へ戻った。
暮らす、と言っても、人間と同じではない。ただ、与えられた家で、与えられる職務を待つだけの時間だ。
家に入ると、同居人──死神はある程度になると独立し、同世代の奴等と共存する──が3人いた。彼等は熱心に、真っ暗な映写機を眺めている。
「何だ、もう帰ってきたのか」
「そうじゃない。10年前、トーマス・カルレオとエリー・カルレオを担当した奴を、探しにきたんだ」
死神の世界は広大で、無数の死神達がいる。だがきっと、人間よりは少ない筈だ。数えた事はないが。
「みんなに聞いてみる」
そう言ったそいつは、不確かな体をピカピカと光らせ始めた。他の死神達と連絡をとっているのだ。
どのようにして俺達死神が生まれたかは分からない。
人間が、他の誰かと連絡をとりたいと思うように、死神も情報を交換したり、共有する場合がある。そのような時、人間は、電話や手紙を用いる。死神は、思いを伝える──その方方がどうなってるか分からないが、伝えたいと強く思う事により、伝える事が出来る──のだ。
自分でしても良かったのだが、同居人の彼は、少しばかり気がいい。俺が死神をやる前から死神をやっているからかも知れないが。
やがて彼は、分かった、と言った。
「今、どこにいるか分かるか」
「どうやら、まだあっちにいるらしい。担当した奴が、2年前にそいつらを、見かけたと言っている」
珍しいケースだ。
死んだ後、人間達がどこに向かうかは分からないが、中には人間の世界に留まる者もいる。
俺も、何人か見た事があった。
彼に目撃した場所を聞き、早速向かう。
辺りの景色は、昨夜夢の中でジムが見せてくれた場所だった。ただし、色はちゃんとある。
鮮やかな、緑の葉をつけた木々から、柔らかな光が漏れ射す道を歩くと、幹の間から真っ青な湖が見えた。
遠くの景色は朝靄にかすんでいるが、丸太小屋──あれから、新しく建てられたらしく、真新しい色をしている──が確認出来た。
その前で、1人の男が小屋を見上げている。俺は湖畔沿いにそちらへ向かいながら、その男がトーマス・カルレオだと確信した。
「お前は、トーマス・カルレオだな。エリー・カルレオはどこにいる」
側に立って声をかけても、男は聞こえていないかのように、小屋を見上げ続けている。
その顔は、俺と全く同じ──と言っても、トーマス・カルレオの肌は、ちゃんとした肌色をしている──だった。
もう1度声をかけてみた。今度は、その肩に手を触れながら。すると男は、驚いた顔で振り返った。
「君は……私なのか、それともドッペルゲンガーなのか」
「違う。俺は死神だ」
「私に触れている」
「死神だからな。お前達のような奴に、触れるんだ」
その理由は、やはり知らない。
「私達を、天の国へ連れて行く為に来たのか」
俺は肩を竦めて見せた。トーマス・カルレオが言う、天の国、なんてものを、知らない。
「いや、違う。それは死神の仕事じゃない。俺は、お前とお前の妻を、息子に会わせる為に来たんだ」
「ジェームズに……」
呟いた言葉は、風の音にかき消されそうな程、小さかった。
「俺はお前の息子を担当している。息子は、あと2日で死ぬ」
そう教えてやると、小屋の中から女──エリー・カルレオだ──が出てきた。ジムによく似た顔立ちをしている。
「トム、そちらは……」
「死神だそうだ。私達を、ジムに会わせる為に来たらしい」
「ジムに……」
「お前の息子は、あと2日で死ぬ。その前にジムは、お前達に会いたいと言っている」
既に死んでいるのだから、この夫婦は死ぬまでに死神が行う職務を知っている筈だ。そして、何故、どのように死ぬかが分からない事も。
「実は私達も、息子に会いたいと思っていたんです」
「さっきまで一緒にいたんですけど、火事で見失ってしまったみたいで……凄く心配していたんです」
夫婦が、口々に言う。だが、時間感覚が止まってしまっているようだ。このような事は、まま起こりうる事態だ。
死んだ人間は、死期を告げられているにも関わらず、自身の死を容易には受け入れられない場合がある。そんな時、その人間の時間は、死亡する直前で止まってしまう事があるのだ。
恐らく、この夫婦もそうなのだろう。だが、俺は敢えてそれを言及しなかった。
「では、これからお前達を、ジムのところまで連れて行く。だが、息子がお前達を認識し、話が出来るのは、夢の中だけだ」
「はい。分かりました」
夫婦が声を揃えて答える。それを聞いた俺は、小さな疑問に首を傾げた。
この夫婦は、夢の中で、どのような夢を叶えてもらったのだろうか……
息子に会いたいと、願わなかったのだろうか。
そう思ったが、すぐに考えるのを止めた。
それは、俺には関係ない。
死神達が暮らす世界へ戻った俺は、取り敢えず自分の家へ戻った。
暮らす、と言っても、人間と同じではない。ただ、与えられた家で、与えられる職務を待つだけの時間だ。
家に入ると、同居人──死神はある程度になると独立し、同世代の奴等と共存する──が3人いた。彼等は熱心に、真っ暗な映写機を眺めている。
「何だ、もう帰ってきたのか」
「そうじゃない。10年前、トーマス・カルレオとエリー・カルレオを担当した奴を、探しにきたんだ」
死神の世界は広大で、無数の死神達がいる。だがきっと、人間よりは少ない筈だ。数えた事はないが。
「みんなに聞いてみる」
そう言ったそいつは、不確かな体をピカピカと光らせ始めた。他の死神達と連絡をとっているのだ。
どのようにして俺達死神が生まれたかは分からない。
人間が、他の誰かと連絡をとりたいと思うように、死神も情報を交換したり、共有する場合がある。そのような時、人間は、電話や手紙を用いる。死神は、思いを伝える──その方方がどうなってるか分からないが、伝えたいと強く思う事により、伝える事が出来る──のだ。
自分でしても良かったのだが、同居人の彼は、少しばかり気がいい。俺が死神をやる前から死神をやっているからかも知れないが。
やがて彼は、分かった、と言った。
「今、どこにいるか分かるか」
「どうやら、まだあっちにいるらしい。担当した奴が、2年前にそいつらを、見かけたと言っている」
珍しいケースだ。
死んだ後、人間達がどこに向かうかは分からないが、中には人間の世界に留まる者もいる。
俺も、何人か見た事があった。
彼に目撃した場所を聞き、早速向かう。
辺りの景色は、昨夜夢の中でジムが見せてくれた場所だった。ただし、色はちゃんとある。
鮮やかな、緑の葉をつけた木々から、柔らかな光が漏れ射す道を歩くと、幹の間から真っ青な湖が見えた。
遠くの景色は朝靄にかすんでいるが、丸太小屋──あれから、新しく建てられたらしく、真新しい色をしている──が確認出来た。
その前で、1人の男が小屋を見上げている。俺は湖畔沿いにそちらへ向かいながら、その男がトーマス・カルレオだと確信した。
「お前は、トーマス・カルレオだな。エリー・カルレオはどこにいる」
側に立って声をかけても、男は聞こえていないかのように、小屋を見上げ続けている。
その顔は、俺と全く同じ──と言っても、トーマス・カルレオの肌は、ちゃんとした肌色をしている──だった。
もう1度声をかけてみた。今度は、その肩に手を触れながら。すると男は、驚いた顔で振り返った。
「君は……私なのか、それともドッペルゲンガーなのか」
「違う。俺は死神だ」
「私に触れている」
「死神だからな。お前達のような奴に、触れるんだ」
その理由は、やはり知らない。
「私達を、天の国へ連れて行く為に来たのか」
俺は肩を竦めて見せた。トーマス・カルレオが言う、天の国、なんてものを、知らない。
「いや、違う。それは死神の仕事じゃない。俺は、お前とお前の妻を、息子に会わせる為に来たんだ」
「ジェームズに……」
呟いた言葉は、風の音にかき消されそうな程、小さかった。
「俺はお前の息子を担当している。息子は、あと2日で死ぬ」
そう教えてやると、小屋の中から女──エリー・カルレオだ──が出てきた。ジムによく似た顔立ちをしている。
「トム、そちらは……」
「死神だそうだ。私達を、ジムに会わせる為に来たらしい」
「ジムに……」
「お前の息子は、あと2日で死ぬ。その前にジムは、お前達に会いたいと言っている」
既に死んでいるのだから、この夫婦は死ぬまでに死神が行う職務を知っている筈だ。そして、何故、どのように死ぬかが分からない事も。
「実は私達も、息子に会いたいと思っていたんです」
「さっきまで一緒にいたんですけど、火事で見失ってしまったみたいで……凄く心配していたんです」
夫婦が、口々に言う。だが、時間感覚が止まってしまっているようだ。このような事は、まま起こりうる事態だ。
死んだ人間は、死期を告げられているにも関わらず、自身の死を容易には受け入れられない場合がある。そんな時、その人間の時間は、死亡する直前で止まってしまう事があるのだ。
恐らく、この夫婦もそうなのだろう。だが、俺は敢えてそれを言及しなかった。
「では、これからお前達を、ジムのところまで連れて行く。だが、息子がお前達を認識し、話が出来るのは、夢の中だけだ」
「はい。分かりました」
夫婦が声を揃えて答える。それを聞いた俺は、小さな疑問に首を傾げた。
この夫婦は、夢の中で、どのような夢を叶えてもらったのだろうか……
息子に会いたいと、願わなかったのだろうか。
そう思ったが、すぐに考えるのを止めた。
それは、俺には関係ない。
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