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7.父と母と子
2.
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灯りとりの窓の向こうが、暗闇の中に星を映し出す。ジムの気配を探ると、まどろみ始めているのが分かった。俺は夢枕に立つ準備を始めようと、見張りを見遣った。今立っている男は、3時間前に交替したばかりの見張りだ。
カルレオ夫婦は、依然として同じ場所に立ち続けている。
「ジム……」
「何です、ミスター」
「眠るなら、こちらの壁にもたれてくれないか」
そうしたら、壁を挟んでジムの夢枕に立てる。見張りの男は、この会話を気にも止めていないようだ。
「分かりました……あの、見つかったのでしょうか」
ごそごそと動く音がし、ジムの声が近くなる。
「あぁ。楽しみに眠るといい」
ありがとうございます、と答えたきり、ジムは黙った。それ以外、特に交わす会話もなく、俺はジムが眠りに落ちるのを待つ事にした。
やがて、高窓に月がちらつき始めた頃、漸くジムは眠りに落ちた。俺はカルレオ夫婦に頷いて見せると、側へ呼び寄せた。
「これからジムの夢枕に立つ。お前達は、俺の体に触れているんだ」
そう言うと、カルレオ夫婦は俺の両肩にそれぞれ手を置いた。見張りが、不意に俺の檻の前に立つ。
「何を独り言を言ってるんだ?明日死ぬからって、頭がイカれちまったのか?」
「そうじゃない。ただ……神に祈っているだけだ」
いけしゃあしゃあと嘘をつく。だが見張りの男は、それを信じたようだった。
「よく祈っとけよ」
「あぁ、よく祈っておく」
見張りが遠ざかるなり、俺はジムの意識に集中した。程なく、再び夢の中に入る。景色は、昨日見たものと、何ら変わりはなかった。カルレオ夫婦も、俺の側に立っている。
「ここがジムの夢の中ですか」
と、父親のトーマス・カルレオが、辺りを見回しながら呟く。母親のエリー・カルレオは、遠くに見える丸太小屋を見つけたらしく、そんな夫の肩を叩いて指をさした。
「アナタ、あれ!」
「あれは……あの小屋は…」
カルレオ夫婦を見つけた──ジムが燃やしてしまった──小屋だ。2人はそそくさと、走って行く。俺もその後を、ゆったり歩いて追った。
近づいて行くと、小屋の中からジムが姿を現した。その姿を見た途端、カルレオ夫婦は走る足を早めた。
漸く、家族が再会する。
だが俺には、3人が見せる水を流す事は出来なかった。それもそうだろう。再会を見ても、何も思わないのだから。
ただたんに、担当した者の夢を叶えられて、自己満足を覚えているだけにすぎない。
3人は、薪を割る切り株の側で遭遇し、母親は息子を、父親は息子と母親を、息子は父親と母親を、それぞれ腕に抱いた。
目からは、止めどなく水が、小さな滝のように流れている。
「ジェームズ!」
「ジム!」
「父さん!母さん!」
家族の発した言葉が重なり、湖畔の上に拡散した。がっちりと組み合った3人は、暫く悲鳴のような声を上げ続けた。
カルレオ夫婦は、依然として同じ場所に立ち続けている。
「ジム……」
「何です、ミスター」
「眠るなら、こちらの壁にもたれてくれないか」
そうしたら、壁を挟んでジムの夢枕に立てる。見張りの男は、この会話を気にも止めていないようだ。
「分かりました……あの、見つかったのでしょうか」
ごそごそと動く音がし、ジムの声が近くなる。
「あぁ。楽しみに眠るといい」
ありがとうございます、と答えたきり、ジムは黙った。それ以外、特に交わす会話もなく、俺はジムが眠りに落ちるのを待つ事にした。
やがて、高窓に月がちらつき始めた頃、漸くジムは眠りに落ちた。俺はカルレオ夫婦に頷いて見せると、側へ呼び寄せた。
「これからジムの夢枕に立つ。お前達は、俺の体に触れているんだ」
そう言うと、カルレオ夫婦は俺の両肩にそれぞれ手を置いた。見張りが、不意に俺の檻の前に立つ。
「何を独り言を言ってるんだ?明日死ぬからって、頭がイカれちまったのか?」
「そうじゃない。ただ……神に祈っているだけだ」
いけしゃあしゃあと嘘をつく。だが見張りの男は、それを信じたようだった。
「よく祈っとけよ」
「あぁ、よく祈っておく」
見張りが遠ざかるなり、俺はジムの意識に集中した。程なく、再び夢の中に入る。景色は、昨日見たものと、何ら変わりはなかった。カルレオ夫婦も、俺の側に立っている。
「ここがジムの夢の中ですか」
と、父親のトーマス・カルレオが、辺りを見回しながら呟く。母親のエリー・カルレオは、遠くに見える丸太小屋を見つけたらしく、そんな夫の肩を叩いて指をさした。
「アナタ、あれ!」
「あれは……あの小屋は…」
カルレオ夫婦を見つけた──ジムが燃やしてしまった──小屋だ。2人はそそくさと、走って行く。俺もその後を、ゆったり歩いて追った。
近づいて行くと、小屋の中からジムが姿を現した。その姿を見た途端、カルレオ夫婦は走る足を早めた。
漸く、家族が再会する。
だが俺には、3人が見せる水を流す事は出来なかった。それもそうだろう。再会を見ても、何も思わないのだから。
ただたんに、担当した者の夢を叶えられて、自己満足を覚えているだけにすぎない。
3人は、薪を割る切り株の側で遭遇し、母親は息子を、父親は息子と母親を、息子は父親と母親を、それぞれ腕に抱いた。
目からは、止めどなく水が、小さな滝のように流れている。
「ジェームズ!」
「ジム!」
「父さん!母さん!」
家族の発した言葉が重なり、湖畔の上に拡散した。がっちりと組み合った3人は、暫く悲鳴のような声を上げ続けた。
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