恩恵なしに異世界に放り込まれたけど妖怪だから大丈夫

千夜詠

文字の大きさ
11 / 29
化狸・ぬりかべ

化狸・ぬりかべ③

 オルトロスの登場で、ヘルハウンドらも統率が取れていく。
 まだ半数以上が残っていたヘルハウンドの全てが、スキンヘッドの男を無視して、城壁への攻撃を再開してきた。

「く……、彼を信じて、我らはここを死守するぞ!」

 まだ士気は下がっていない。

 魔犬の群は、西門を集中して攻めだしてきた。
 城壁の壁は硬い煉瓦であるが、門は木製である。分厚くはしてあるから、そう簡単に破壊できるはずはないと思ったが、

「おい、あれは……」

 まるで死をいとわないような勢いでの特攻がされる。
 みしみしと門が鳴く。激しくぶつかってくる衝撃音が響き渡ってきた。

「門の前に兵を集めろ!」

 大隊長がそう命じている。
 ベテランらは、ヘルハウンドの数を減らす為、門の破壊を阻止する為に、城壁の上から攻撃を続けた。

 だが、奴らは単純な体当たりだけを続けていたわけではなかった。
 三体が、門に張りつき、唸り声を発している。
 その体が内から赤く光ってきた。

「こ、これは……、魔力を体の中で燃やしている?」

 知能の低いとされる魔物でも魔力量は人間よりもずっと膨大だ。それを使って火を吐くこともできるのだが、普通は自分の体も燃やしてしまうから使わない。
 つまり宝の持ち腐れである事が多かった。

 悲痛にも聞こえる咆哮が発せられると、真っ赤に破裂して燃え上がった。
 爆発で門が粉砕される。
 愕然とした。

「そ、そこまでして、人間を殺したいのか?」

 破壊された西門から魔犬が雪崩れ込もうとしている。
 今、西門の前に集まった兵は、およそ二百。

 普通のヘルハウンドでも四人が必要と言われる。奴らはそれよりも明らかに強い精鋭のヘルハウンドだ。
 そいつらが全て門の前に集まり、一斉に飛び込んでくる。

 蹂躙される町が脳裏に浮かび、人々の悲鳴がもう聞こえてくるようだった。

 盾を構え、死を覚悟しながら、その恐怖から逃げずに踏み止まる兵らがいる。

 スキンヘッドの彼は、オルトロスとの死闘の真っ最中だ。とても門まで戻ってくる余裕はない。

「糞っ……、一体でも倒すぞ!」

 無駄な努力かもしれない。
 だが、足掻き、時間を稼げば、奇跡は起きるかもしれない。彼が来てくれたように。

 必死になって、自分の鎧も脱いで、魔犬に向けて落としていく。
 鬱陶しそうに払われるだけ。
 それでも、何もしないではいられない。

 一体が吠えた。
 それを合図に、ヘルハウンドらが飛び込んでくる。

 衛兵らの目の前に迫り、狂いそうな絶叫が発せられた。

 ベテラン兵は目を瞑る。見ていられなかった訳じゃない。祈ったのだ。

 神よ――と。

 ふぉおおおおおおおお――――っ!

 不気味な声が聞こえたかと思うと、ヘルハウンドの体が、宙で止まった。
 門から町へと入り込む直前で、まるで見えない壁にぶつかったかのように。

 それは、正しく壁であった。
 透明であったそれが灰色の体を見せてくる。

 手足の生えた壁。そうとしか形容のしようのないものが、ゆっくりと前に進む。体に突進してきたヘルハウンドの血をべっとりと付着させ。

 この戦い、何度も驚かされたが、こんな異様は伝説でも御伽噺でも聞いた事がない。

「あ、あれはいったい……」

 魔物の一種かと思ったが、人間の兵士には向かっていかない。
 大きな門を塞ぐような巨体で、余りにも遅い動きで魔犬に向かっていくのだが、攻撃はまるで効いていない様子だ。
 最も魔犬が集まった場所を見付けると、そのまま前に倒れ込んで、押し潰す。

 一度は統率されたヘルハウンドらが、慄き、動きが鈍くなっていた。
 この機に、攻勢にでる。

 そして、戦いを左右するのは、やはりオルトロスと彼の死闘の結末だ。
 巨体の双頭の魔犬が、牙を立てながら、男に襲い掛かる。

 素早い動きで躱しながら、足元に飛び込んだ彼が、斬撃を繰り出した。

 だが、オルトロスの鋼のような体毛が、ダメージを軽減している。

 二つの顔を持つ魔物は、もう一方で灼熱の炎を吐きだしていた。ヘルハウンドとは違って、炎の方向性をコントロールできるようで、奴はそれで自分の体を燃やす事はなかった。

 その熱量だけで、地がドロドロに溶けていく。
 スキンヘッドの彼は、それも躱したのだが、足元が溶岩のようにされてしまった。
 オルトロスがここまで狙っていたかは分からない。

 だが、これまで体格差を利用して、動き回っていた彼の移動範囲が限定された。

 唸りをあげた尻尾が襲い掛かる。

 それを跳躍して避けたスキンヘッドの男であったが、そこにはオルトロスの大口が迫っていた。

「ああっ!」

 激闘を見ていたベテラン兵は膝を付いてしまった。

 が、次の瞬間、オルトロスが苦悶に暴れる。
 頭の一つ、長く出た口の上部に刃が突き出ているのが見えた。
 そしてスキンヘッドの彼は、魔獣の背中に持っていたのだ。

「まさか、食われたのは、剣?」

 そう、彼は幻術を得意としていた。

 のたうち回るオルトロスが、自分で作り上げた溶岩に足を落とす。体毛が燃えていった。

 彼はその体を走り、炎を避ける。

 苦しみながらもその彼を首で追い、体を傾けようとすると、更にオルトロスは熔ける大地に飲み込まれた。

 だが、それでもまだ致命傷を与えていない。時間が絶てば溶岩も冷えてしまうだろう。

「こいつを使って!」

 女性の声が聞こえた。
 見覚えがある。城壁の一番高い場所に、領主の妹君がいて、その隣には伯爵その人がいた。

「受け取れ!」

 伯爵が、渾身の力で槍を投げた。
 魔術師が風で補助すれば、それはスキンヘッドの彼にまで届く。

 あれは、伯爵家に伝わる竜の鱗も貫くと言われる名槍である。

 魔獣の後頭部を彼はそれで突き込んだ。

 グオオオオオオ――――、断末魔が響き渡る。

 ほどなく、オルトロスは完全に動きを止めた。

 同時に、生き残ったヘルハウンドらが逃げていく。

 死を覚悟した。
 町を守れた実感が夢のようで、直ぐに湧かない。

「勝った……」

 誰かが、ポツリと言って、やっと気付き、歓喜が爆発する。
 この奇跡の勝利の立役者に向けて、令嬢が叫ぶ。

「やったわ、モッコリ様!」

 少しの間、静まり返り、大歓声が沸く。
 英雄を讃える大合唱。

 モッコリ、モッコリ、モッコリ、モッコリ、モッコリ、モッコリ、モッコリ、モッコリ、モッコリ、モッコリ、モッコリ、モッコリ――。

 ただ、令嬢だけは真っ赤になっている。
 後で知った事だが、彼の名は、本当はカラハというらしい。どうして令嬢がモッコリと呼んだかは、謎のままである。

 ――――

 その日は誰もが疲れ切って、勝利の宴は後日となった。

 正直、助かったと空葉からはは思った。

 伯爵から部屋を借り、ようやく一人きりになると、やっと本当の姿に戻る事ができる。
 久しぶりのベッドに、上がったのは一匹の狸だ。

「ふう、かなり妖力を使ってしまった。今夜のうちに、もう一度、あんな魔物と戦うのは無理だな」

 化狸の空葉は、この世界に飛ばされた後、比較的に民家の近い場所で気付いた。そこで人間に化け、早いうちにここが異世界である事を知る。

 教師として、早く生徒らと合流しなくてはならない。
 そう考えて、放浪するうちに、何とか出会えたのはぬりかべだけだった。

 ぬりかべ――夜道を一人で歩いていると前に立ちはだかる壁の妖怪。
 姿を消しておける彼を町の外に置いて、一人で中に入った。町なら妖怪の情報も手に入ると考えての事だ。

 それが魔物の襲撃に遭遇するとは。

 温かい食事ともてなしに、ここの人間を見捨てる事はできなかった。

 それなりに戦えるとは思っていたが、化ける妖術を駆使してやっとである。なかなか、この世界の魔物は手強い。

 あのタイミングでぬりかべが現われてくれたのは助かった。
 実際、あの巨大な犬の相手で手一杯であったのだから。

 戦いが終わった後、ぬりかべとの関係を疑われたが、使い魔のようなものだと苦し紛れに説明したら、納得してもらえた。

「うーん、ゲームとかだと、ボスを倒すと色々と報酬があるものだが……」

 トントンと扉が叩かれる音を聞いて、空葉は慌てて起き上がり。急いで変化する。

「どうぞ」

 と答えれば、顔を見せたのは伯爵の妹霊令嬢であった。

「カラハ様、刀が回収できたので、お持ちしました」

「これは、どうもかたじけない」

 受け取ろうと前に出たその時、レベッカの表情が固まって、刀を落とす。

「でかい、金玉……」

 妖力が切れかけていた状態で、慌てて変化した為に、下半身が獣のままであった。というか、美しい人間の若い女性に見られ、獣と化すそれ。

「きゃぁあああ――――」

 悲鳴と共に、レベッカが逃げていく。
 ちょっと興奮した。

 だが、これは報酬どころではないかもしれない。

 部屋の鍵をしっかりかけて、狸に戻って寝る。
 明日には追い出されるかもしれないが、そうなった時の事は明日考えればいい。
 基本的に妖怪は深く悩まないのだ。
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様の手違いで異世界転生した俺の魅了チートが、勇者のハーレムを根こそぎ奪って溺愛ハーレム作りました!

まさき
恋愛
ブラック企業で働き続けた俺、佐藤誠が過労で倒れ、気づけば異界の地。 「手違いで死なせちゃってごめん!」という神様から、お詫びに貰ったのは規格外の【魅了】スキル——。 だが、元社畜の俺にはその自覚が微塵もない! ​ただ誠実に、普通に生きようとしているだけなのに、エルフの賢者、獣人の少女、最強の聖女、さらには魔王の娘までもが、俺の「社畜仕込みの優しさ」に絆されて居座り始める。 ​一方で、10年かけて仲間を集めたはずの「勇者・勝利」は、自身の傲慢さゆえに、誠へとなびく仲間たちを一人、また一人と失っていく。 「俺は勇者だぞ! なぜ手違い転生者に負けるんだあああ!?」 ​人界から天界、そして宇宙の創造へ——。 無自覚な誠実さで世界を塗り替えてしまう、元社畜の究極溺愛ハーレムファンタジー、ここに開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転移しても何も変わらない? 〜実は出会うたびに最強の力を「吸い取る」チート持ちだった〜

みきもと
ファンタジー
主人公「風間章」{かざまあきら} ある日当然意識を失い、気がつくと森の中で見たこともない景気 異世界に引き込まれたような・・・詳細は不明 しかし定番とも言えるスキルや魔法も使えない 森を彷徨う。古びた家を見つけ誰も住んでいないのでそこに住みだす。 しかし彼はまだ自分の能力に気づいていない。 人の能力を吸収して成長するその力に・・・・ 【異世界でも「おじさん」は、マイペースに掃除から始める】 ブラック企業を辞め、異世界の森にある古民家へ転移したアキラ。 誰もいない静かな場所で、彼が始めたのは「自分らしく生きるためのお掃除」だった。 しかし、その何気ない動作一つ一つが、実はこの世界のシステムに干渉していた。 静寂の中に秘められた、真の力の目覚めを描くプロローグ。 主人公「風間章」{かざまあきら} ある日当然意識を失い、気がつくと森の中で見たこともない景気 異世界に引き込まれたような・・・詳細は不明 しかし定番とも言えるスキルや魔法も使えない 森を彷徨う。古びた家を見つけ誰も住んでいないのでそこに住みだす。 しかし彼はまだ自分の能力に気づいていない。 人の能力を吸収して成長するその力に・・・・ なんとか生き延びて入るが他に人影もない 動物?のようなものを狩ってはその日を過ごす毎日 月日は流れ数カ月、なんとか生活は出来ているある日 人の声が聞こえてくる?耳を澄ませるとなにかと争っているような声と叫び!? それは人?エルフのような不忘だ 獣と暖かっているようだったが、そのエルフは怪我をしている。 彼の能力は未知数で未だに彼自身もきづいてない能力。 そしてそれは広大な能力であり100年に1人といない珍しい能力である。 わくわくドキドキ、そしてラブストーリもありの物語。成長していく彼の物語 この作品は1話毎が短めになっています。 おおよそ2000文字前後ほどですので、話ごとにバラツキがあります。 「本作品はカクヨムにも掲載しています。」

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの翔胡
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 他サイトにも投稿しております。 ※本作品をAIの学習教材として使用することを禁じます。 ※無断著作物利用禁止

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?