幼馴染の旦那と不妊がきっかけで離婚する話

どんころ

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車での道中、俺のことはアプリで登録された名前が本名かどうかだけ聞かれただけで、ほとんど男の身の上話だった。
更木寛也、24歳の大学生。医学部で、バース専門医志望。Ωのヒートを実際に見てみたくてアプリに登録してみたらしい。
青谷はアプリで使っている偽名だった。
あんたみたいなαはΩなんてあんなもの登録しなくたって選びたい放題だろって言うと、後腐れない確実なワンナイトが良かったと。
人を好きになるとか、番とか考えたこともなかったらしい。
そもそも恋愛感情がわからないと言って困ったように笑っていた。

着いた先は大きなタワーマンションだった。
広いエントランスを抜けて無駄に綺麗なエレベーターに乗って最上階まで案内された。
「何にもないけど、どうぞ。」
そう言って案内された部屋は広いリビングで、あといくつか扉があったのが見えたからまだ何部屋かあるのだろう、モデルルームのように整った、逆にいえば生活感のない部屋だった。

「お水しかないけど、はい。」
「…ありがとうございます。」
お客じゃないから敬語を辞めていいかと言われてもちろんと答えたのに、タメ口で接されると何故かこちらが敬語になってしまって更木さんが小さくふっと笑った。

「聞き辛いことは、最初に片付けておきたいんだけど、いいかな?旦那さんはどうして派遣アプリに登録したの?何かあったらから?それとも最初から上手くいってなかった?」
「俺たち幼馴染で、気がついたら結婚することになってた。俺はあいつと結婚するのに何も疑問を持たなかったし、αとΩってそういうもんだと思って。田舎だから周りには誰も居なかったし。で、結婚してから俺がΩとして機能してないってことが分かって、そっから、、」

「喧嘩が増えた?」
言い淀むと、間を空けず核心をつかれる。
「うん。いつのまにかそんなに嫌われてたなんて俺全然気付いてなくて、ヒートだから帰って来てって連絡したら、付き合ってられないって。」
「それで俺が呼ばれたんだね。」
「そう。で、今日朝逃げるように家を出て実家に帰ったんだけど、実家には俺が浮気したって話がいってて、、行くところがなくて。友達もいないし、働く場所もないし。」
「…本当に申し訳なかった。警察に被害届出しに行くなら付き添うよ。知らなかったとはいえ、俺のしたことは罪にもなりうる。」
「…いい。どうせΩなんて相手にされない。それにあんたが悪いわけでもないし。処置みたいなもんだろ、αにしたら。」
「君の体はそんな簡単に消耗されていいものではないよ。知り合いの腕のいい弁護士を紹介しよう。もちろん俺も君に不利になる事を言ったりしないし、当たり前にあった事実だけを話すと誓おう。」
「いいって。もう、いい。」
そう言って黙ると、男は少し悲しそうな顔をした。
「でも……」
「……だったら、責任とってよ。」
「責任?」
「俺、家もないし、お金もないし、仕事もないわけ。あんたとあんなことにならなかったら……」

頭ではわかってるこの人は何も悪くない。ただの夫婦のいざこざに巻き込まれただけの不運な人だ。
でも傷ついた弱い心がこの優しい人に全て押し付けてしまおうとする。
わかってる。これは甘えだ。
それでも口は止まらなかった。
「あんたが俺の話聞いてくれてれば、、、」
自分が話をできる様な状態じゃなかったのも分かってる。
視界がぼやけてきて俯く俺に、更木さんはティッシュ箱を差し出す。

「申し訳ない。」

こんなに泣くなんてらしくないのに、止められそうもなくて、言葉にならない文句と共に全ての負の感情を吐き出した。
ほとんど八つ当たりにも関わらず、悪かった、申し訳ないを更木さんは繰り返した。

俺がようやく落ち着いた頃、ゆっくりと更木さんは口を開いた。
「ここに住んだらいいよ。」
「え?」
「生きていくには、仕事と住む場所が必要でしょ?ここに住んでていいから、仕事探そう?離婚したいなら俺が仲介するし。」
「…なんでそこまでしてくれんの?」
「んー?君に興味があるから?」
一瞬頭の中が?だらけになったけれど、よくよく考えたら、俺の予後に興味があるんだなと分かった。さっきゼミで番について研究しているとか何とか言っていたから、今後の俺の末路に興味があるんだろう。
それでもいいか。
どうせ行くあてもないし、ほぼ初対面に近い人だけど、短い時間でも誠実な人だっていうのは伝わってきたから。
「よろしくお願いします。」
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