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第一章
幸せの花冠 4
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程なくして、二人は、湖の畔に来ていた。
屋敷に戻ると料理長が二人のためにサンドイッチと焼き菓子を用意してくれていたのだ。
シートとお茶も用意してもらい、二人は小さなピクニックに出掛けた。
屋敷の裏手から続く草原を渡ると、そこは大きな湖だ。
雲ひとつない青空、湖は湖面がきらめいて対岸の森まで広がっている。リスものんきに顔をだし、側の木々を飛び回っている。
「料理長が焼いたクッキーはね、とっても美味しいの」
まるで自分のことを自慢するように言うと、マリィは手にしていたクッキーをかじった。
「チョコクッキーもいいけど、ジャムのクッキーが美味しいね」
「でしょでしょ」
うちの料理長はとても優秀なのだ。こうして、少し遅くなってしまうことも見越して、皆に必要なものを用意しておいてくれる。厨房は宝の山みたいでマリィもお気に入りの場所だった。よく料理の見習いとして出入りしている。見習いとは名ばかりで、厨房の皆とおしゃべりしたりつまみ食いしたりの方が多いと、料理長からお小言をもらうことも多いけれど。
目の前には、すでに二人で平らげたあとのサンドイッチの包み紙、数個ずつ残っているクッキーとカップケーキ。それに、ピクニック用のポットと紅茶が注がれたティーセットが2客。
そして、何故かエルリックの手元に、大きな箱がひとつ。
一息ついて、エルリックの目を盗みながらその大きな四角い箱を見やる。簡素だけれど、質の良さそうな白い箱。
屋敷に帰ってくる途中に寄った花屋。お使いの花を受け取っている横でエルリックが受け取っていたものだ。
花屋のおかみさんはとても器用で、花が関係するものならば、ドレスに合わせるアクセサリーも作ってくれる。とても可愛らしい花モチーフのアクセサリーばかりなので、マリィも時々注文している。つい2週間程前もスミレのブローチを作ってもらったばかりだ。3日後にはパーティーなのだから、きっとそういった類のものなんだろうけれど。こんなところにまで持ってきてしまうとは、いったいどういうことなんだろう。それほど人に預けづらいものだったのか。
もしかしたら、なんて想像してしまう。
だって、3日後にはマリィの誕生日があるのだから。
プレゼント、というものがあるとすれば、アクセサリーはちょうど良いプレゼントだもの。花屋なのだから、花束なんていうこともあるかも……。それとも、もしかしたら……。
と考えたところで、期待してしまっていることがバレるといけないので、そんないけない想像を振り払う。
ひとり誤魔化すように紅茶を一口ずつ飲み、やっぱり料理長は何作っても最高ね、などと適当なことを頭の中で考える。周りの景色を眺めるフリをしながら、野の花の色を観察しだす。
その間も、エルリックはそんなマリィに気づかず、湖面をじっと眺めているというのに。
少し憂いを帯びたその横顔は、ずっと眺めていたいと、そう思えるもので。
「ねえ、エルリックは知っている?この街には言い伝えがあるのよ」
ふと、そんなことを口にした。
屋敷に戻ると料理長が二人のためにサンドイッチと焼き菓子を用意してくれていたのだ。
シートとお茶も用意してもらい、二人は小さなピクニックに出掛けた。
屋敷の裏手から続く草原を渡ると、そこは大きな湖だ。
雲ひとつない青空、湖は湖面がきらめいて対岸の森まで広がっている。リスものんきに顔をだし、側の木々を飛び回っている。
「料理長が焼いたクッキーはね、とっても美味しいの」
まるで自分のことを自慢するように言うと、マリィは手にしていたクッキーをかじった。
「チョコクッキーもいいけど、ジャムのクッキーが美味しいね」
「でしょでしょ」
うちの料理長はとても優秀なのだ。こうして、少し遅くなってしまうことも見越して、皆に必要なものを用意しておいてくれる。厨房は宝の山みたいでマリィもお気に入りの場所だった。よく料理の見習いとして出入りしている。見習いとは名ばかりで、厨房の皆とおしゃべりしたりつまみ食いしたりの方が多いと、料理長からお小言をもらうことも多いけれど。
目の前には、すでに二人で平らげたあとのサンドイッチの包み紙、数個ずつ残っているクッキーとカップケーキ。それに、ピクニック用のポットと紅茶が注がれたティーセットが2客。
そして、何故かエルリックの手元に、大きな箱がひとつ。
一息ついて、エルリックの目を盗みながらその大きな四角い箱を見やる。簡素だけれど、質の良さそうな白い箱。
屋敷に帰ってくる途中に寄った花屋。お使いの花を受け取っている横でエルリックが受け取っていたものだ。
花屋のおかみさんはとても器用で、花が関係するものならば、ドレスに合わせるアクセサリーも作ってくれる。とても可愛らしい花モチーフのアクセサリーばかりなので、マリィも時々注文している。つい2週間程前もスミレのブローチを作ってもらったばかりだ。3日後にはパーティーなのだから、きっとそういった類のものなんだろうけれど。こんなところにまで持ってきてしまうとは、いったいどういうことなんだろう。それほど人に預けづらいものだったのか。
もしかしたら、なんて想像してしまう。
だって、3日後にはマリィの誕生日があるのだから。
プレゼント、というものがあるとすれば、アクセサリーはちょうど良いプレゼントだもの。花屋なのだから、花束なんていうこともあるかも……。それとも、もしかしたら……。
と考えたところで、期待してしまっていることがバレるといけないので、そんないけない想像を振り払う。
ひとり誤魔化すように紅茶を一口ずつ飲み、やっぱり料理長は何作っても最高ね、などと適当なことを頭の中で考える。周りの景色を眺めるフリをしながら、野の花の色を観察しだす。
その間も、エルリックはそんなマリィに気づかず、湖面をじっと眺めているというのに。
少し憂いを帯びたその横顔は、ずっと眺めていたいと、そう思えるもので。
「ねえ、エルリックは知っている?この街には言い伝えがあるのよ」
ふと、そんなことを口にした。
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