静かにしろよ、ハニー・トラップ!

大天使ミコエル

文字の大きさ
105 / 230

105 旅路(1)

しおりを挟む
 ガタゴトと馬車が走る。

 晴れた空の下、一本道の上を。

 特別曲がり角もなく、特別見えるものもない。
 今までの経験からして、ここから1時間も走れば次の町の気配がしてくるんだろうが、まだそんな事もない。

 俺は、ただ前を見ていた。

 首都に向かって走る馬車の上で。

 決めないといけない。分かってる。

 ハニトラを、この旅に連れて行くかどうかだ。

 きっと、魔女に会うまででそれぞれバラバラになるだろう。
 マルは世界を研究しているという。きっと、行きたい場所が違う方向になれば離れて行くはずだ。
 イリスはマスターの痕跡を探している。こちらも、マスターの事が落ち着けば、自分の道を歩く事になるはずだ。

 ハニトラだって。
 家に帰れれば、一緒に居る理由はない。

 誰もいなくなれば、トカゲも放してやって、俺は一人で魔女と対峙する。

 俺達は、魔王を倒す勇者パーティーでもなんでもないんだから。
 ここまで一緒に来れた事には感謝している。
 けど、最後の魔女にまで辿り着くのは、俺だけでいい。

 魔女の前に一人放り出されるハニトラの事を思うと、それは出来ない。

 じゃあ、家に置いて立ち去るのか?

 どちらかの決心をつけなければ、マルにはハニトラの故郷の場所を聞く事なんて出来そうになかった。

 まっすぐ前を向く。
 青い空に浮かぶ雲は薄く、どこか飛んで行く鳥のようだった。



 ガコン。
 と、馬車が歪んだのは、まだ次の町の気配もしない場所での事だった。

「なんだ?」
 ユキナリが様子を見に外へ出る。
 特に誰も居なさそうだが。

 見ると、一つのタイヤが割れていた。
「ああ……」

 重い荷物を運べるはずの馬車。
 使い込まれてはいるが、見た感じ老朽化という言える古さではない。

 もしかして。……と、思わずイリスの方を見る。
 だとしたら、もっと頑丈なタイヤが必要そうだ。

「タイヤが割れてる。新しいタイヤに変えたいが……。とりあえず今日のところは、この辺りで野宿だな」

「はーい」
「キューイ」
「お肉はありますの?」
「火起こし手伝いますね」
 と、4人の返事は特に嫌そうでもない。

 ガラガラと残りのタイヤで馬車を転がし、なんとか森の中へ入る。

 空は、だんだんと暗くなって行くところだ。

「暗くなる前に火を起こしたいな」
 森の中で枯れ木を集める為、ユキナリはハニトラと森の奥へ向かう。

「ハニトラ」

「どうしたの?」
 ハニトラは、拾った木が気になるのか匂いを嗅いでいる。

「ハニトラの故郷ってさ、どんな所なんだ?」

「森だよ」

「森?」

「そう。ここよりもずっと空気が澄んでて、土の上に寝転ぶと、ずっと綺麗」

「いい所なんだな」

 故郷を思うハニトラの横顔は、とても綺麗だ。

「いい、ところ……」

 そこで、ハニトラが言い淀む。

「いい、ところでは、ないけど」

 いい所じゃない?
 なんで……と思ったけれど、父親を亡くしてるんだったな。嫌な思い出もあるってことか……。



◇◇◇◇◇



5人の道はどうなるのでしょうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...