55 / 110
55 僕の居場所(1)
しおりを挟む
その日も、大魔術師と二人だけの朝だった。
「寒……」
少し肌寒い朝だった。
ガチャ、と扉を開け、
「おはようございます」
と声をかけた。
声をかけたはいいけれど、部屋の中には誰も居ない。
キョロキョロしながら、デスクに行くけれど、何の指定もない。
……自分の研究を進めておくのもいいけれど、ここはひとまず。
外に出るか。
シエロは、まだこの大きな城を把握したわけではない。
作業に関連がある場所を把握しておかないといけないし、人に会って顔を覚えて貰わなくては、行きたい場所にも行きづらくなってしまう。
杖を抱えたそのままで、シエロは外へ出た。
窓の外は晴れている。建物の隙間から、湖が見えた。
シエロの瞳に、青い色が映る。
その時、外で、ブワッと何かが舞うのが見えた。
……え?
誰かの魔術?
それにしては、大きな姿だった。
ただ、風が渦を巻いたようにも見えたけれど、ただ“風”と言われると余りにも物質的で違和感が残る。
「なんだろう」
視線を外さないようにしながら、小走りでそちらの方へ駆けていく。
途中、魔術師の塔の側を通る。
嫌な事を、思い出してしまう。
それを振り切るように、シエロは風が起こった方に歩いて行った。
そっと、近付く。
木陰から、そっと顔を出した。
「え…………?」
街の人間の目に届かないその場所で、水の粒、砂の粒がゆるやかな大きな渦を巻くようにそこに舞っていた。
嵐でもない。風に巻き上げられたわけでもない。
魔術……?
いや、けれど、こんなことが魔術で可能なのか?
見たこともなければ、話に聞いたことさえない。
そして、その中心に立つ人物。
いかにも魔術師だと言わんばかりの、時代遅れの黒いとんがり帽子。
手で撫でるのが当たり前になっている長い髭。
にこやかにゆるやかにそこに立つ人物。
彼こそが、大魔術師マルーだった。
息を呑んで、その光景を見つめる。
まるで、精霊が寄り添うようなその光景。
これが……大魔術師の力?
大魔術師がふわりと振り返るところで、
「…………!」
こちらに気付かれてしまった。
緩やかに舞っていた渦は、キラキラとユラユラと、鎮まっていく。
「す……すいま、せん」
おずおずと、その場に立ち上がった。
「覗くつもりじゃ、なくて」
「いやいや、いいんじゃよ」
「今のは……、一体何ですか?」
顔を上げる。
あんな魔術、見たことがない。
どこの属性でもない。
魔術とも言い切れない。
大自然的な、精霊的な、何か。
「そうじゃのぅ……」
大魔術師は、そう言いながら、やはりゆっくりとその長い髭を撫でた。
「これから、勉強していく中で、ヒントを出してやるから、自ら見つけ出すといい」
……誤魔化されたんだろうか。
いや、けど。
今見た力は本物だった。
シエロが真っ直ぐ大魔術師の顔を見ると、大魔術師も、真っ直ぐにシエロを見ていた。
「わかりました。これから日々研鑽を惜しむことなく、頑張ります」
そうだ。
この人が師匠なんだ。
僕の。
「これからも、よろしくお願いします。師匠」
◇◇◇◇◇
おじいちゃん、精霊と仲良しなのでね。
ふわふわっと舞うこともあるのでしょう。
「寒……」
少し肌寒い朝だった。
ガチャ、と扉を開け、
「おはようございます」
と声をかけた。
声をかけたはいいけれど、部屋の中には誰も居ない。
キョロキョロしながら、デスクに行くけれど、何の指定もない。
……自分の研究を進めておくのもいいけれど、ここはひとまず。
外に出るか。
シエロは、まだこの大きな城を把握したわけではない。
作業に関連がある場所を把握しておかないといけないし、人に会って顔を覚えて貰わなくては、行きたい場所にも行きづらくなってしまう。
杖を抱えたそのままで、シエロは外へ出た。
窓の外は晴れている。建物の隙間から、湖が見えた。
シエロの瞳に、青い色が映る。
その時、外で、ブワッと何かが舞うのが見えた。
……え?
誰かの魔術?
それにしては、大きな姿だった。
ただ、風が渦を巻いたようにも見えたけれど、ただ“風”と言われると余りにも物質的で違和感が残る。
「なんだろう」
視線を外さないようにしながら、小走りでそちらの方へ駆けていく。
途中、魔術師の塔の側を通る。
嫌な事を、思い出してしまう。
それを振り切るように、シエロは風が起こった方に歩いて行った。
そっと、近付く。
木陰から、そっと顔を出した。
「え…………?」
街の人間の目に届かないその場所で、水の粒、砂の粒がゆるやかな大きな渦を巻くようにそこに舞っていた。
嵐でもない。風に巻き上げられたわけでもない。
魔術……?
いや、けれど、こんなことが魔術で可能なのか?
見たこともなければ、話に聞いたことさえない。
そして、その中心に立つ人物。
いかにも魔術師だと言わんばかりの、時代遅れの黒いとんがり帽子。
手で撫でるのが当たり前になっている長い髭。
にこやかにゆるやかにそこに立つ人物。
彼こそが、大魔術師マルーだった。
息を呑んで、その光景を見つめる。
まるで、精霊が寄り添うようなその光景。
これが……大魔術師の力?
大魔術師がふわりと振り返るところで、
「…………!」
こちらに気付かれてしまった。
緩やかに舞っていた渦は、キラキラとユラユラと、鎮まっていく。
「す……すいま、せん」
おずおずと、その場に立ち上がった。
「覗くつもりじゃ、なくて」
「いやいや、いいんじゃよ」
「今のは……、一体何ですか?」
顔を上げる。
あんな魔術、見たことがない。
どこの属性でもない。
魔術とも言い切れない。
大自然的な、精霊的な、何か。
「そうじゃのぅ……」
大魔術師は、そう言いながら、やはりゆっくりとその長い髭を撫でた。
「これから、勉強していく中で、ヒントを出してやるから、自ら見つけ出すといい」
……誤魔化されたんだろうか。
いや、けど。
今見た力は本物だった。
シエロが真っ直ぐ大魔術師の顔を見ると、大魔術師も、真っ直ぐにシエロを見ていた。
「わかりました。これから日々研鑽を惜しむことなく、頑張ります」
そうだ。
この人が師匠なんだ。
僕の。
「これからも、よろしくお願いします。師匠」
◇◇◇◇◇
おじいちゃん、精霊と仲良しなのでね。
ふわふわっと舞うこともあるのでしょう。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる