君が僕を好きなことを知ってる

大天使ミコエル

文字の大きさ
8 / 101

8 そしたらどうする?

しおりを挟む
 心臓を抑え込まれたような感覚と、喉の奥が詰まるような感覚。

 一瞬、放心状態になる。

 だけど。

 あ、えっと。

 そうだ。

 このまま、こいつを放置するわけにもいかなかった。

「俺らさ、」
 話を続けたけれど、カスカスになった声は、声にはならなかった。

「ケホッ、ん、んん……」

 やり直し。

「俺らさ、この時間はいつも非常階段でたむろってるんだけど、一緒にどう?」

「え、あ……」
 礼央が口ごもる。
 礼央の方も、どうやら会話の内容が頭にうまく入らない程、まだ動揺しているらしかった。

「僕も、行っていいの?」

 礼央がどんな顔をしているのか、見ることが出来ずに、
「当たり前だろ」
 前を向いたまま返事をした。

 ちゃんとついて来ているか確認だけはしながら、亮太は前を歩いた。

 賑やかな午後の校舎の中。
 階段を1階まで降り、校舎の裏へまわる。
 非常階段なので、2階や3階からでも校舎の端まで行けば、もちろん階段には出られるのだけれど、上級生のいるフロアを堂々と歩けるほど、亮太はまだ学校に慣れてはいない。

 非常階段に向かうと、そこには既にケントとサクの二人が居た。

 サクは壁に寄りかかり、居眠りに興じている。
 ケントの方はどうやらまたスマホで推しでも眺めているみたいだった。

 二人が来るなり、ケントが、
「あ、れおくん、見て見て!これ、俺の推し~」
 と、予想通りの行動に出る。

「かわいいね」

「だろ~」

 亮太は階段に座り、手に持っていたコーヒー牛乳のパックをじっと見る。

 普通を装うので、精一杯だった。

 あの……顔…………。

 思い出すだけで、喉の奥が潰れそうになる。

 見せられないような顔をしている気がして、じっと壁の方を見つめた。

 ……流石に、「好かれている」という前提で動いた方がいいよな。

 そう決まったわけじゃないけど。

 これで勘違いだって切り捨てるのは、むしろ……失礼なんじゃないか?

 だったら、離れたほうが……いいの、かな。

 その気持ちに応えるつもりなんて、ないわけだし。

「…………」

 ズルズルと、パックのコーヒー牛乳を口にした。

 けど。

 二人の会話を聞く。
「え、猫耳の子、これ?」
「そうそう。このがむしゃらに撃ってるおっさん」
「イメージと違うね」
「だろー?そこがいいわけ」

 なんだか楽しそうで。

 それで……俺はどうしたらいいって……?

 友達にまでなるななんて、そんなことを言うつもりはなかった。

 別に……嫌なヤツじゃないしな。

 告ってくるわけじゃないし。
 襲ってくるわけじゃないし。
 ベタベタ触ってくるわけでも、変な目で見てくるわけでもない。

 ちらりと見ると、ケントと一緒にゲーム実況を楽しんでいる。
「おっさん動きがすごい……。解ってる動きだ」
「だっろ~!人気はそこそこだけど、ちょー!オススメだから」

 礼央が、笑う。

「………………」

 突き放すなら、何かあった時でいいか。

 きっと今は、このままでいいんだ。



◇◇◇◇◇



ケントの推しは、ゾンビと戦うようなゲームが得意なタイプです。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

処理中です...