君が僕を好きなことを知ってる

大天使ミコエル

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73 静かな夜(4)

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「それでも、さ」

 思った事を、声に出してみる。

「困った時は、うちに来なよ。いつだって、俺、居るし。いつだって、話聞くし。俺ならいつだって、味方だし」

 言ってしまってから、天井を見上げた。

 礼央の、
「…………うん」
 という小さな返事が聞こえた。

「帰さ、なくて、いいんならいいんだけど」
 亮太の声は、少しだけ震えた。

「大丈夫、だよ。今までは、なんともなかったんだし。ここまでの事は、初めてだから。だから、僕、ちょっと動揺しちゃっただけで。今までは、なんともなかったんだ。4年間。これから突然、何かあるわけじゃないと思うから。突然、逃げなくちゃいけない事なんて起こらないよ。今までは、勉強しろって言われるくらいで済んでたんだ。別に、なんて事ない。きっと、今までと同じだから」
 礼央は、同じトーンで喋り続けた。まるで、自分に言い聞かせるみたいに。
 けど、その声も、だんだんと、揺らぎを帯びてくる。

「僕……。男だったから悪いのかな。……女に生まれてたら、何か……違ったのかも。もっと可愛がられて。何か……違ってたかも」

 その声は、悲痛だった。

 亮太は、がばっと起き上がった。

「お、男でよかっただろ!?女だったら、そんなおっさん、もっと酷いことされるかもしれないし!その方が問題だし」

 礼央は、布団の上に座っていた。

 亮太は落ちるようにベッドから転がり降り、手を伸ばす。
 躊躇も何もなく。
 落ちていく礼央を掬い上げるように。
 その頭を抱える。

「俺、絶対居るから」

 それだけを言って。
 けど、それ以上、何を言えばいいのかわからなかった。

 俺には……一体何が出来るんだろう。

 何か、伝わるものがあったならいいけど。

 本当に、頼ってくれるならいいけど。

 本当に俺の事が好きなら……。もっと、特別だっていいんじゃないか?

 何かあったら子犬みたいに飛んでくるくらいに。

 静かだった。
 あれだけ降っていた雨は、もうやんでいるようだった。
 天気こそよくはなさそうだったけれど。

 返事も無かったので、腕を離す。
 それからすぐ礼央の様子を覗いてみたけれど、どんな表情をしているのかよく分からなかった。
 いや、もしかしたら、亮太の方が、礼央がどんな顔をしているのか見ないようにしたのかもしれなかった。

 目は、閉じているようだったけれど。

 静かな夜だった。

 礼央は、ぱたりと後ろへ倒れ込んで、腕で顔を隠した。

 亮太はベッドへ戻って、礼央の事をじっと見た。

 本当に、何もないといいけど。

「おやすみ、れおくん」

 そう言うと、
「おやすみ、……みかみくん」
 と、小さく返事が返ってきた。



◇◇◇◇◇



ちょっと暗い話かもしれないけど、れおくん的にはドキドキでは?
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