DEEP BLUE OCEAN

鼓太朗

文字の大きさ
2 / 28
第一章 Diving Shop DEEP BLUE

海人

しおりを挟む
海人が交通事故で耳が聞こえなくなったのは高校2年生の夏だった。
自転車で下校中に昼間から酒を飲んでいた若者4人組の車と接触し、転倒した。
一緒にいた同級生からはビックリするくらい血が出てもうだめかと思ったと言われた。
集中治療室を経て奇跡の復活を遂げたが、海人の聴力と声は失われた。周囲の協力で高校は卒業したが、そこまでの道のりは決して楽なものではなかった。ご多分に漏れず海人は荒れに荒れた。
物に当たり、人に当たる。
家族が暗く落ち込んだ時期だった。
そんな海人を父・太平たいへいがスタッフとして海に誘った。
海人が高校3年生の春のことだ。

太平は両親(海人たちの祖父母)の反対を押しきってこの地でダイビングショップを開いた。
それこそ洋平や海人が幼稚園や小学生の頃は血を吐く勢いで苦労した。
それでも、献身的なサービスとリーズナブルな価格設定、駅からも徒歩圏内の立地でダイビングの雑誌などではよく取り上げられる人気店に育てた。
海人がはじめて海に潜ったのは中学3年生の時だ。
父親からはかなり厳しく指導された。
そして、この店で生まれ育った最初のプロダイバーが洋平と海人だ。
海人が最初にお客様を連れて海中ツアーに出たのが、なんとかなんとか高校を卒業した春だった。
父は海人に仕事を仕込み、一人で客をとるようになると安心したのか突然病気で倒れた。
父が病気で突然倒れた日でさえ、海人は毎日海に出た。
さすがに父の死は堪えたが、ささくれだった海人の心は海で次第に落ち着きを取り戻した。

海人が30を過ぎて弟の潮音も大学の経営学部を卒業して、店を手伝うことになって3年がたった。
海人のような中途聴覚障がい者は、手話はあまり使用しない。
会話はもっぱら読唇術だ。
補聴器も付けてはいるが水に弱い補聴器は海人にはあまり役立たない。
読唇術と補聴器があるにせよ、耳が聞こえない海人にとっては潮音は大切な耳の代わりとなっている。
洋平は大学に進学し、体育の先生になった。
幼馴染みの女性と結婚し、今は2人の子どもたちのパパだ。
今は平日は学校。週末は店を手伝って船に乗っている。
3人で力を会わせて父の店を守っていると言えばなんだか大層だが、海人にはこの仕事しかないと思っていたし、今の自分に結構満足していた
洋平は基本的に船の運転担当で、海中ガイドは海人や潮音の仕事だ。

海の中では、もともと息の音しか聞こえない。
最近、波に揺られる夢をよく見る。

そこには昔と同じ、自分の吐く息の音がした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

25年目の真実

yuzu
ミステリー
結婚して25年。娘1人、夫婦2人の3人家族で幸せ……の筈だった。 明かされた真実に戸惑いながらも、愛を取り戻す夫婦の話。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...