DEEP BLUE OCEAN

鼓太朗

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第三章 満月の夜 七夕の奇跡

奇跡の夜 珊瑚の産卵

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7月7日。
いよいよ七夕の夜だ。
今夜がラストチャンス。
和弘は朝からずっとそわそわしていた。
しかし寝不足が祟って昼前にダウン。
結局、昼からのボートはキャンセルした。
真奈はまた少し不機嫌だったが、海人が午後一番のボートでグラスアーチのクマドリカエルアンコウを見せるともうご機嫌だった。
そういうちょっとしたことで喜んでくれる真奈が海人は嫌いではない(和弘は振り回されて嫌な顔をよくするが…)。
昨日たくさん来ていたカメラマンも、夜まで待つために昼間は誰も姿を見せない。
海人も夜に向けて真奈との水中デートの後は船の上で昼寝となった。

*****

午後7時20分。
いよいよ運命のボートはエンジン音を唸らせながら薄暗い海を進んでいく。
ほんの数分の船内もなんだかもどかしい。
波は静かだ。風もほとんどない。
「やっと」という距離ではないが「やっと着いた」という感覚でボートは中瀬崎に着いた。
海人はポイントにつくと錨をブイにくくりつけた。
その時、ふと海人は気づいた。
「生臭い?」
ふと振り返ると、何人かのカメラマンも気づいているようだ。
海人に音は聞こえないが、船内がざわざわしているのが分かった。
カメラマンたちは、元々手早いのに輪をかけて信じられない速度で器材をセッティングすると、二人一組で海に飛び込んでいった。
最近ドラマやなんやらですっかり知られるようになったが、ダイビングは基本的に二人一組。
相手のことを「バディ」と呼ぶ。
ちなみに今回は海人と和弘と真奈は3人でバディだ。

和弘と真奈も周りの雰囲気を察したのだろう。
いそいそと器材をセッティングすると、「いつでも良いよ!」という目で海人を見た。
海人は苦笑すると、船を任せる洋平をちらっと見てから、海に飛び込んだ。


海の中はもはや異世界だった。
宇宙。
そういうとなんだかチープな感じさえする。
水中ライトに照らされて水面に上っていくサンゴの卵たちは本当に星屑か雪のようだ。
しかもその数が尋常ではない。
サンゴというサンゴからピンクがかった卵が放出されている。
海人もこんなに大規模な産卵は久しぶりに見た。
水底につくと海人も和弘も真奈もポカーンと口を開けて(実際は呼吸源であるレギュレーターをはなさないように気を付けているが)壮大な命の旅の門出を見守っていた。

何分たったのだろう。
海人はふと我に返って残圧を確認する。
海人は身体が大きいのでもともと使うエアーも多くなるが、今居る水深とこの減り具合からするとかれこれ20分以上ぼさっとサンゴの産卵を見ていたことになる。
それくらい幻想的だった。
何度か見ている海人でさえ圧倒されるのだから二人は…と、二人を見るとやはり半ば放心状態だ。
そこに、さらに奇跡的なことが起きた。
カメラマンの一人が事態に気づいて水中ライトの電源を切った。
訳に気づいた何人かがそれに従い辺りが薄暗くなった。
海人たちもそれに従う。

真っ暗闇が訪れるかと思いきや。
雲の切れ目から満月が出たのだ。
スポットライトに照らされたようなサンゴが海の中にポツンと浮かび上がってなおのこと幻想的な雰囲気になった。

この一瞬がチャンスだ!
海人は和弘を突っつく。
おいおい、見とれてる場合か!
自分もそうだったけど…

和弘は我に返ると自分のスレートに、用意していた言葉を紡いだ。
そう。今日ここに来たのはこれを伝えるためだろ。
そのために何ヵ月も計画を練ってきたんだから。
サンゴに夢中の真奈を横目に和弘のペンが進む。









『俺と結婚してください。サンゴの雪が降る、満月の七夕の夜に。』










相変わらず汚い字だったが、思いは伝わるだろう。
海人はそんな和弘をチラリと見てから再び視線をサンゴに戻した。
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