Go to the Frontier(new)

鼓太朗

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第二章 アラベスク王国

クルトの姉姫

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日の差し込む明るい廊下の先はクルトたち王子、王女の部屋だった。
この城に入って5日経つが、どうしても慣れない。
まず広すぎる。
城の中で迷子になるなど日常茶飯事。
それでいてクルトは結構忙しい。
ちょっとした隙に置いていかれる。
ほとんどの場合カールが助けてくれるが、いつもカールが近くにいてくれるわけではないので、訳も分からず城の中で途方にくれることもしばしばだ。

今日もそうだ。
さっきまでそばにいたクルトがいない。
って言うかレオンがクルトの従者なんだからそばにいるのはクルトではなく自分…とも思いながら、この王子・王女たちのフロアで立ち尽くしてしまった。
運悪くこの時はカールは別の用事で城の外に外出中だった。
ダンはまだあれから毎日兵士達と鍛練場で身体を動かしている。
なんだかとても楽しそうだ。
やっぱり武道家だからそっちの方が性にあっているんだろう。
夕方に自室に帰ってくるダンはいつも汗だくで疲れてはいるが生き生きしていた。

というわけで、今レオンはこの広い城の中でたった一人なのだ。
クルトの部屋は…
キョロキョロと辺りを見回していると、少し離れた部屋の扉が開いた。
中から出てきたのは赤いドレスを着た王女様。
ゆるやかにウェーブのかかった鮮やかな金髪と色白美人。
パッチリとした大きな瞳が特徴的な、クルトのすぐ上の姉姫、ベス王女だ。
歳は19歳。
勝ち気で明るい性格でクルトと特に仲の良いというベス。
鮮やかな金髪は13人兄弟の中でもクルトとベスだけだ。
ベスはレオンに気づくと、笑顔で手を振る。
「あら。レオン。どうしたの? こんなところで。クルトは?」
優しいベスの言葉にレオンは少しだけ安心する。

*****

以前、カールに城内を案内してもらっている時に、ベスとはすれ違った。
その時、カールからベスの紹介は受けていた。
「一番気のおけない姉貴。」
王にしこたま叱られたクルトからもそう紹介されている。
クルトに負けないくらい(むしろ数枚上手の)破天荒な邪々馬姫で、幼い頃はかなりお転婆だったらしい。
ただ、利発で口も達者。
様々な国の言語に明るく、また音楽の才能も抜群という才色兼備なお姫様だ。
今は優雅なドレス姿だが、王女なのに武術の腕はかなりのもので、昨日鍛練場ではベスの倍くらいある身体の大きな兵隊を投げ飛ばしていた。
ダンともすぐに仲良くなり、緑光石のバックルを
「ほしぃ!」
と言っていたっけ。
そのキラキラ瞳でねだられたら…
ダンは鼻の下を伸ばして本気でバックルを渡しかけていた。
すんでのところでクルトが止めなければそのまま渡していただろう。

その後行われたダンとの手合わせは見事だった。
「王女だからって手加減とか油断をしたら、痛い目を見るわよ!」
そう言って笑うベス。
クルトは「マジでそうだから!ダン、気を付けろ!」といつもになく青い顔をしている。
その事からレオンは「ホントに強いんだ…」と思った。
そしてベスは素手を得意とする戦士だった。
「武器ってまどろっこしいでしょ? それに私たちは直接戦場に行くわけじゃない。本当に必要な力は自分のみを守る力よ」
そう言って低めに型を取る。
ダンも苦笑いしながらも身構える。
マックス隊長に続いての第2ラウンドだ。

あれから数日経っているので、別に疲れも残っていない。
むしろそこから鍛練に参加しているので、身体の動きは少しずつ上がってきている。
対するベス。
細身だがしなやかで素早いが動きが特徴。
護身術として武術を学んでいることもあり、無駄がなく、力だけに頼りすぎない動きだ。
砂ぼこりの舞うなか、二人は緊張の糸がピンと張っているのが見えるくらい、長い間にらみあったあと、二人同時に唐突に動き出した。
目に見えない拳が交錯する。
お互いかわしているのもあれば、当たっているのもあるようで、拳が風を切る音と、腹に響くドスッという音がレオンまで届く。
激しい舞を踊るような二人の動きにレオンは目で追うのがやっとだった。
素早い動きで地面を蹴って切り返し、信じられない高さまでジャンプをする。
息もつかせぬ攻防に、周りの兵たちも唖然として見入っていた。

結果的には、戦い疲れてダンもベスも地面に大の字になって息も絶え絶えになっているところをクラウド国王に見つかり、なぜかベスとともにクルトまで引きずっていかれるかたちになり、この会は自然とお流れとなった。

その後またクラウド国王は雷を落としたらしい。
「何で俺までー。」
というクルトのごもっともな言い分は、華麗にスルーされた。

*****

それからまた数日の間、レオンたちはクルトだけでなくベスとも親しく会話をする仲になった。
親しくと言っても王族と庶民なので限界はあるが、ベスの方から積極的に話しかけてきた。
今日もそうだ。
「実はクルト王子とはぐれてしまって…」
部屋から出てきたベスにレオンは照れながら言う。
ベスはそんなレオンを見て、
「あらあら。従者がはぐれちゃダメねぇ。でも、クルトって小さいときからいつもちょろちょろしてるから…」
といってクスクス笑う。
「申し訳ありません。」
レオンは恐縮してしまう。
「気にしないで。いつものことだから。」
いつものことか…と、レオンは多少げんなりしながら肩を落とす。
「でもね、クルトはバカじゃないの」
ベスの表情は真剣なものに変わっていた。
「特に感受性の強い子だし、賢い子よ。あなたを初対面で気に入ってつれてきたのは、なにも顔が似ているからだけじゃないと思うわ。」
そう言って穴が空くと思うほどレオンを見た。
「あなたからは何だかわからないけれど不思議な力を感じる。」
目を細めてレオンを見るベスは、なんだかレオンの瞳の奥を見ているような、そんな視線だった。
「そんな。僕なんてなにも取り柄のない小さな人間ですから。」
レオンは恐縮してしまう。
別に謙遜なんかではない。
本当にそう思っていた。
ダンは立派な体格と武術がある。
根は明るい性格なので、兵士達とも仲良くしているみたいだ。
僕は…。
レオンは考えてみたがそんなたいした能力はなかった。
今まで生きてきて、特別困ることはなかったが。
そんなレオンを見て、ベスは、
「あなたの身に何もなければ良いけれど…」
と言うと急に顔を曇らせた。
「えっ?」
レオンは首をかしげる。
「どういうことですか?」
ベスはよくわかっていない様子のレオンを少し哀れみのような目で見た。
「危険な目に遭わなければ良いんだけどね?ってことよ」
そう言ってベスは窓の外を見た。
外はのんびりした日差しが降り注いでいる。
小鳥が鳴き、木々の葉が風に揺れる音がする。
穏やかな午後だ。
ただ、心穏やかではない人がいる。
レオンだ。
まさか命を狙われてる?
それまであまり深く考えていなかったけれど、よくよく考えれば王子の従者ということはそんな危険と隣り合わせということなのか?
レオンは不安に苛まれた。
確かに王子が街をふらふら歩き回って誘拐…奴隷狩りにでもあったら…。
クルトだけじゃなく、自分も危ない!
ゾッとする想像に青くなるレオン。
外だけじゃなく、城の中だって安全とは言えるのか…?
さらに想像するレオン。
クルトには兄が4人。
クルトにはほとんど王位継承権はないと聞いている。
ただ、派閥争いのようなものがあれば城の中だって暗殺を企てるものがいるとも否定しがたい。
よくよく考えればこの城は迷路のような構造。
こっそりどこかに連れ込んで殺してしまえばわからない。
堀から死体を捨ててしまえば…。
とんでもなく巨大なレオンの想像の翼は広がりに広がり、レオンの背中は鍛練を終えて帰ってきたダンよりも汗だくだった。
それを見たベスは、
「そんな大したことではないわ。」
と苦笑して、レオンを落ち着かせる。
「でも、ここじゃなんだから…。こちらへいらっしゃいな。」
そう言うと長い廊下を早足に歩き始めた。
レオンは慌てて後を追った。
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