Go to the Frontier(new)

鼓太朗

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第二章 アラベスク王国

天井裏情報網 前編

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アラベスクは夏場、湿度が高い国だ。
そのため、アラベスク城のフロアとフロアの間には換気のための空間がある。
地震が少ない上、山の岩石を溶かして再び固める技術が発達しているため、この構造でも建物は十分頑丈で崩れることはまずない。
ポックが忍び込んだのはこの通気孔だ。
上のフロアから順番に降りていく。
階段の上を滑り台の要領で滑り降りる。
マーフィーもそれに従った。
真っ暗な通気孔を進むと耳を済ませる。
様々な声が入り乱れる中、情報になりそうな会話をポックは耳を澄まして探した。
南側の階段を滑り降りると、3階の天井裏に出た。
ここは、レオンたちが襲われた会議室のある辺りだ。
「この辺り、どうも臭いな。」
ポックの言葉にマーフィーは首(身体が球体なのでどこが首かは分からないが)をかしげる。
そして鼻をスンスンして見せた。
「いやいや…怪しいって意味ね」
ポックは苦笑してそう言うと耳を地面につけると、下の会話を聞こうと集中した。

その時、
「ここで何をしている?」
ポックの頭上で声がした。
ポックは弾かれたように見上げる。
暗闇の中でも視界の効くポックとマーフィーが見たもの。
それは、ポックとよく似たキツネのモンスターだった。
ブラックフォックス。
ポックの色違い。
紫色の瞳、光を弾くような真っ黒の美しい毛並みを持つ闇属性のモンスターだ。
イエローフォックスのポックよりも格上のキツネのモンスターで、身体も大きい。
「最近王家の人間をかぎ回るものがいるという話だが、お前たちか?」
ブラックフォックスはポックを見下ろす形でそう言う。
子どものポックとは違い、相手は大人、しかも身体の大きなブラックフォックス。
ポックのゆうに3倍以上はある。
「王家をかぎ回るもの?」
油断することなくブラックフォックスを睨むようにしてポックは尋ねる。
「何のことだ?」
緊張の中にも本気でわからないという表情をブラックフォックスは読み取ったようだ。
クスリと笑うと、顔を真顔に戻す。
「最近王家の人間を影から糸を引いている奴がいるという情報を私の主人が仕入れた。お前たちがそうではないようだが…お前たちは何者だ?」
ポックはとてつもないスピード頭を回転させた。
相手が何者なのかよくわからない。
ただ下手な作り話の通じそうな相手ではなさそうなのは確かだ。
「俺たちはクルト王子の従者、レオンと一緒にこの城に来た者です。俺はイエローフォックスのポック。こっちはマーブルのマーフィー。あなたは?」
仕方がなく本当のことを話すことにした。
ブラックフォックスはまだ完全に信頼した様子ではなかったが低い女の声が自己紹介した。
「私はヘンリー王子に仕えるブラックフォックスのティルだ。」
と名乗った。
ヘンリー王子?
ポックはハッとする。
「人間というのは実に面白いものだ。魔法が使える者、私たちモンスターを従える者、剣や武術に長けた者。これを彼らは『個性』と呼ぶらしいが、様々な人間がいる。お前の主人が仕えるクルト王子は魔法が達者。私の主人、ヘンリー王子は魔物を手なずける能力にたけている。こうして城内を駆けずり回っているのも王子の命だ」
ポックはさっきレオンたちが話をしていた内容を思い出した。

*****

「ヘンリー王子?」
ダンはカールに疑問の目を返した。
「兄貴はモンスターと心を通わせるんだ。話している内容が分かるかまでは俺も知らないが、モンスターや野獣を捕まえてきて飼育してる。よく懐いているし賢い奴らばっかりだ。城の中でモンスターと鉢合わせるなら兄貴のモンスターの可能性は高い」

ポックはそのことを思い出したのだ。
ティルは再びポックたちに聞く。
「お前たちはどこまで情報を入手している? ここまで話したんだ。情報は共有しようじゃない。」
クールなティルはそう言ってその場に座り込んだ。
ヘンリー王子がまだシロと決まったわけではない。
裏で糸を引いている相手である可能性は完全に無くなったわけではない。
「情報っていっても…。」
ホックは迷いはしたが、よくよく考えると情報を集めるために自分達はここにいる。
困ってしまったが、これまでの一連の事件について話した。
ヘンリー王子がクルトの政治介入を阻止するために画策している疑惑、第三者が二人の関係を壊すために何かをしようとしている疑惑、アンナの危険、今後の身の振り方について。
ティルは黙ってそこまで聴いていた。
「というわけで俺たちはそれこそ情報を集めているんだ。まだ俺たちはアラベスクに来て日が浅いから。」
身の安全を考え、速やかかつ秘密裏に行動するのは難しい。
ポックはその事も合わせて話した。
「お前、まだ若いのに、よく主人のことを思っているんだな。」
ティルは少し感心したように言った。
「主人というよりも友達って感じだけど。このままじゃレオンもクルト王子も危ない。」
ポックはそう言ってため息をつく。
「じゃあ私が知っていることも少し教えてやろう。」
そう言うとティルは立ち上がると、少し移動した。
部屋でいうともといた場所より2部屋ほど隣だろうか。
「この下が私が今、一番怪しいと思っている奴がいる部屋だ。」
そう言ってニヤッと笑った。
「ヘンリー王子とクルト王子は仲が良い。個人的な恨みやしがらみはない。揉めているのは彼らの従者。これが表向きの構図だ。」
ここでティルは一呼吸置いた。
「表向きの?」
ポックはティルの言葉を繰り返す。
「そう。ヘンリー王子は本当に聡明な王子だ。クルト王子には彼があんな性格だからまだ話していないようだが、ヘンリー王子とクルト王子の従者たちの間では、第3の勢力の牽制のため、そういう態度をとっているそうだ。つまり、お前たちが抱いているヘンリー王子への疑惑は間違いということになるわね」
ポックはそれを聞いて、どこまで信頼して良いのかはわからなかった。
ただ、少し安堵したのも確かだ。
では、誰が本当の「黒幕」なのだろう?

「そこで気になるだろう? 第3の勢力ってのが」
ポックの疑問を読み取ったようにティルは含みを持った笑みを浮かべた。
ポックは激しく頷く。
「そいつがヘンリー王子とクルト王子を蹴落としてのしあがろうとしている。それほど確かな情報筋ではないが、この下にいるのがそいつだ。」
ティルは固い石の足元を見下ろした。

この下は何の部屋なのか。
「耳を澄ませて聞いてごらん」
ティルに促されてポックも地面に耳をつけて聞き耳をたてる。
下の部屋では数人の男たちが話をしているのはわかる。
「この下にいるのがクリス王子とその従者たちだ。」
ティルは小声でそういった。
クリス王子。
ポックは記憶を辿ってみる。
クルトの腹違いの兄。
ポックもレオンと一緒にいるときに会っているが、他の兄弟王子たちと比べても地味で掴み所のない印象だった。
それほど野心家にも見えないが、どこかベールのようなとので包まれたような、奥に逸物あるような表情をした王子だというのがポックの抱くクリス王子像だった。
「ヘンリー王子が第一容疑者と考える黒幕。ヘンリー王子には二人弟がいるけれど、知的というにはほど遠い将来は将軍候補の肉体派フリード王子と病弱で1年のほとんどを床に付しているジェームス王子。彼らが本気で王位を狙っているとも考えがたい。ヘンリー王子とクルト王子がいなくなれば一番王位継承に近づくのがクリス王子だ。ヘンリー王子はそう考えていらっしゃる」
ティルはそう言うと、下の声に耳を澄ませる。
ポックも再び下のフロアの会話を盗み聞きするべく地面に伏せて下の会話を聞いた。
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