Go to the Frontier(new)

鼓太朗

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第二章 アラベスク王国

試練の洞窟 第二層 後編

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心臓の音が隣にいるダンに聞こえるんじゃないだろうか?
レオンはそんな気がしてチラッとダンを見るが、もちろんそんなわけはないだろう。
ダンはじっとカムイを観察している。

ジリジリとカムイが近付いてくる。
その大剣の動きに一分の隙もない。
どうにかこの部屋から生きて脱出できないものか。
レオンはフル稼働で頭を回転させた。
唯一ので入り口はカムイが塞いでしまっている。
ほんの少しでいいから左に動いてくれたら…。
その時、ふとポックと目が合う。
無意識にニヤッと笑った。
次にダンを見る。
小さく頷いたのを確認すると、再びカムイに視線を戻した。
うまくやるしかない。
ここは気丈に振る舞うべきだろう。
そしてちょっとでもこちらに意識を向けないと…。
レオンはゴクリと唾をのみ込むと、意を決してカムイに向かって話しかけた。
「ここで僕達が死んだら、あとあと何かとややっこしいんじゃないのか?」
声は震えていない。
大丈夫そうだ。
元々自分で言うのも変だが根が正直なので嘘や演技はうまくない。
「レオンは嘘が下手ね」
ドリスからはいつもそう言われて笑われていた。
だが今はそんなことを言っている場合ではない。
臭い芝居感はぬぐえないが、そんなことを気にしている場合でもないのでこの際それはあまり考えないでおく。
「こんなところで王子が死ねば、色々問題があるんじゃないかってこと」
そう言ったレオンの言葉にカムイはフッと笑ったように見えた。
もちろん分厚いかぶとで顔は見えないが。
「ここは試練の洞窟。魔物の餌になってもなんの不思議はない。俺がこの水の大剣、アクアブレードで切り裂いても、洞窟のどこかに放っておけば、あとから来たバカな兵士どもはお前らが魔物に襲われて死んだと思うだろうよ」
そう言ってカムイが一歩近づいた。
「なるほどね」
そう呟くとカムイの動きが止まった。
「はじめからそのつもりだったんだ」
レオンは必死で会話を続ける。
「やっぱりクリス王子を次の王に据えるために、邪魔な僕たちを消そうって魂胆なんだね?」
できるだけ話を引っ張りたいレオンはできるだけ会話を繋ぐ。
その隙に後ろに下がりながらも少しずつ右へ右へじりじりと身体を動かす。
「ふっ、知れたことだ。だが、それ以上お前たちに話す義理はない」
冷たく言い放つカムイ。
そしてまた一歩、レオンに近づく。
「この部屋は? あなたの部屋なの?」
アンナが助け船を出す。
とぼけた感じにも聞こえるかもしれないが、アンナも必死なのだろうわ
「ふっ、死を前に部屋のことが気になるとは、つくづくおめでたい奴だ。そんなこと俺の知ったことか。ただ、昔からこの洞窟にはいくつか部屋があるが、先人たちが束の間身体を休めるために造ったもんなんだろう。ここ以外にもいくつかこんな部屋がある。お前たちは拝む機会もないだろうがな」
そう言ってまた一歩。
もう目の前までカムイは近付いている。
「限界点」
レオンがそう感じたのと、カムイが大剣を鞘から抜き、振り上げたのが同時だった。
「おしゃべりは終わりだ!死ね!」
そう言って大振りの太刀筋でレオンを狙う。
「ポック!」
ダンの合図にレオンの陰から飛び出たポックが地面の砂を巻き上げた。
砂が目に入ったかどうかはわからないが、カムイの気をそらすには十分だったようだ。
不意を突かれて、カムイの動きは一瞬止まる。
ほんの一瞬だったが、ダンが行動を起こすのには十分すぎる時間だった。
ダンは低く腰を落とし、肩を下げるとカムイの鳩尾みぞおちの辺りに素早く鋭くタックルをかけた。
ガツッと鈍い音がした。
ダンの分厚い肩が鎧と鎧の間に寸分のくるいもなくめり込んだ。
突然の衝撃にほんの少しだけぐらつくカムイ。
ほとんどダメージはなかっただろうが、カムイと扉間にわずかながら隙間が現れ、突破口が見えた。
「今だ!」
レオンは、クルトとアンナの手を掴むと風のように走り抜ける。
すぐさまダンとポックも後を追った。
その時にダンは身体を低くして焦って振り回すカムイの大剣をかわすと足払いをかけた。
こんな狭い場所ではカムイの大剣は扱いづらい。
変な体勢になるのはどうしようもない。
ダンはそのことも折り込み済みで足払いをかけたのだ。
盛大な音を立ててすっ転ぶカムイ。
虚を突かれ、多少なりとも混乱したカムイは、体勢を立て直し、わけのわからない叫び声をあげた。
レオンたちにもその叫び声が背後から聞こえたが、そんなことは完全に無視して走り続けた。
先ほどの分かれ道から暗い右側の通路を走り抜け、いくつか角を曲がった。
もはや道があっているのか間違っているのか分からないが、がむしゃらに走り続けた。
道すがら、アンナが転倒の魔方陣を撒き散らす。
「これで少しは時間を稼げるんじゃないかしら!」
そう言って息を切らして走るアンナ。
まったくもってたくましいお嬢さんだ。

索敵も最早あったものではない。
何度かモンスターともすれ違ったが身体を屈めたり高くジャンプして攻撃をかわすと走り続けた。
何度も角を曲がり、少し開けた場所に出た。
岩のゴツゴツとした坂道を上って下ると下に続く階段が現れた。
転がるようにして階段をかけ降りる。
階段を降りるとすぐそこに小部屋があった。
中の確認もせずに逃げ込んだ。
部屋は先程と大差ない部屋だった。
扉を乱暴に閉じる。
ポックも加わってアンナとクルトが内部に危ない仕掛けがないかを確認したが、安全が保証されるとみなへなへなとその場にへたりこんだ。
ダンもたまらず肩で息をしながら座り込む。
「なんとか撒けたかな?」
クルトがそう言うと、扉に魔法をかけた。
「何をしたんですか?」
レオンが尋ねる。
「変化術を扉にかけた。外からはただの石の壁にしか見えない」
いたずらっぽく笑うクルトにレオンは感心する。
どいつもこいつも神経が太い…。
とりあえず助かった…のだろうか?
いや、まだまだ安心できる状況ではない。
分かっていたことだが、クリス陣営はこの洞窟の中でレオンたち(恐らくヘンリー王子一行も)を無きものにしようとしていることがはっきりした。
まぁ想像できたことではあったが、こうもはっきりと殺意をあらわにされるとむしろ清々しい。
「あいつらに次にあったら完全にアウトだな…」
ダンが呟くが、一同同感。
今回は虚を突く形でなんとか逃げることができたが、次はもう同じ手は使えないだろう。
そして相手はカムイ一人だった。
「そういえば、何でカムイ一人だったんだろう?」
ダンが疑問を口にしたが、答えは誰にもわからない。
一様に同意見なのは、できれば二度と会いたくない相手だ、ということだ。

レオンは麻の袋から薬草の絞り汁と砂糖を固めた飴が入った小袋を取り出し、みんなに配った。
「これ、舐めてください。ちょっと体力が回復します。あんまり美味しいものではないですが…」
そう言うと、自分も1つ口に放り込む。
薬草の苦味と砂糖の甘味、割かし上手くできたが、みんなは大丈夫だろうか?
ちょっと心配したが、クルトは「うまいうまい!」と気に入った様子。
甘い物をあまり好まないダンは薬草をそのまま食べたみたいな苦い顔をしていたが、まぁいいだろう。
アンナも「何だか疲れが穏やかに回復した気がする」とまんざらでもなさそうだ。

束の間の休息。
気持ちを入れ直して、第三層に挑むことにした。
そしてこの時、身の安全を実感したときにようやくレオンたちは気づいた。
さっき走り抜けた岩山。
ヘンリーたちが倒した巨大な岩竜、グランドロンの亡骸だったことに。
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