Go to the Frontier(new)

鼓太朗

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第三章 ラプラドル島 前編

古代魔法文字

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魔物学の授業が終わると、一旦部屋に戻り昼食を摂る。
ハイデンにこの学校の細かい施設(図書館や医務室などもあるらしい)の説明を聞いたり、部屋にやって来たダンやアンナたちと各々の今後の授業の話をしたりする。
レオンは次は空きコマだったが、他のメンバーは授業だったので部屋を出ていってしまい、レオンは一人でカルバン語の教科書を読みながらウトウトしながら過ごした。
そして次はレオンが唯一、一人で受講する授業だ。

「古典魔法学」

古代から続く魔法の歴史や文字を学ぶ授業だ。
試練の洞窟で「古代魔法書」を手に入れたレオン。
その書物に住み着く妖精が示す古代魔法文字を読み解く授業ということでレオンは興味を持って受講を決意した。
カルバン語もままならないが、これを習得すれば「古代魔法書」を読み解くヒントになるかもしれない。
部屋はスーズのカルバン語の授業で使った小さな教室だった。
受講者も少ない。
小さな部屋なのであまり選ぶ席もないがレオンは真ん中の席を選んだ。
周りはほとんど知らない顔だったが1人だけ知っている顔があった。

「…ヤクジン君…だよね?」

斜め前に座る小柄な少年に声をかける。
魔法原理の授業で一緒だったダークエルフの少年だ。
幼い顔立ちだか、本当の歳は分からない。
物腰の落ち着いた控えめな少年で、あの時も何人かに声をかけられたが、ヤクジンは遠巻きにそれを見ているだけでその輪の中に入って来ることはなかった。

だから面と向かって話をするのは初めてだった。
知らない訳ではないと思うので声をかけてみる。

ヤクジンは振り替えると、フッと柔らかな笑顔を見せる。
何となく達観しているような態度。
人によっては斜に構えているようにも高飛車にもとれなくはないが、彼からはそんな負の要素は感じられなかった。

「あぁ。君はレオン君だよね? 最近ここに来た優等生」

声変わりのしていない高い声をしていたが、やはり落ち着きがある感じがする。
言葉にも嫌みを感じない。
不思議な少年だ。

「古典に興味があるの?」
そう言うと、1つ後ろの席、レオンの隣に席を移動した。

「うん。ちょっと思うことがあってこの授業を取ることにしたんだ。カルバン語もまだまだだからちょっと不安なんだけどね」
そう言って笑うとヤクジンもちょっと笑ってこちらを見返す。

「僕は魔法の研究に興味があるんだ。魔法には全て意味があると思うんだ。言葉と同じようにね。数式のようなもので厳密なルールがある。それを学ぶ上でこの授業はとても大事だと思うんだよね」
深い海のような濃紺の瞳でまっすぐレオンを見る。

「レオンも何となく感覚で感じてるんじゃない? さっきフィエロのバカをやり込めた時もそれを感覚的に理解してるからすごく自然な流れで魔素を操り、風と砂の魔法を掛け合わせて魔法を繰り出した。あれはかなり上級者でも難しいけれど、魔法の本質を理解していると実はそんなに難しいことじゃない。きっとここで深く学べばレオンの力を感覚じゃなくて理論として使いこなせるようになる。そういう意味ではこの授業はレオンにとっては大当たりの授業だと思うよ」
理路整然とした説明だったが、レオンはそれよりも、「見てたんだ…」という気持ちの方が大きい。
レオンはさっきの出来事を思い出す。

「見られちゃったんだ…」
気まずそうにレオンは頭をかく。

「あぁいうの、あんまり人前でしない方がいいと思うよ。特にあぁいうバカの前では。変に目をつけられる」
あ、もう完全にロックオンされてます。
反省するレオン。

「ホントに目立つつもりはないんだけどさ。ここに来てからなかなかうまく感情や行動が思う通りにならない。1つは自分が魔法使いの素質があることを知ったのがここに来てから。ホントに最近のことなんだ。気を付けないととは思ってる」
素直に反省を口にするレオンにヤクジンは年齢不適合な包容力のある視線を向ける。

「まぁ、これからよろしく。僕は君と違って腕っぷしはまるっきりだから魔法に特化した授業しか取ってないけどね」
そう言うとスッと手を差し出した。
レオンはその小さな手を握る。
「ちなみに思うところって?」
ヤクジンが尋ねる。
「……」
正直に言って良いものか一瞬戸惑うレオン。
「…読めるようになりたい本があってね…」
嘘ではない。
ふーん、とヤクジンは言った後、
「例えば古代魔法書とか?」
とサラッと言ってのけた。
「な?!」
あまりの図星にモノが言えなくなるレオン。
「あれ? 正解? でも確かにそれならこの授業は大事だよ。古代魔法文字でかかれた魔法って読み間違えると…」
そこまで言って、一呼吸置くヤクジン。
「読み間違えると?」
レオンは唾を飲み込む。

「ドーンって!」

突然大きな声を出すヤクジンにレオンはのけぞった。
そんなレオンの反応を無邪気な笑いを浮かべて見つめるヤクジン。
「あはは。うそうそ。でも、危険や謎が多いものだから学んでおいて損はないも思うよ」
なんとなく見た目と言動が初めてトランプの絵柄のように揃った感覚をレオンは持った。
「不思議な少年…」
そんなことをレオンが考えているうちに重たい鐘の音が聞こえた。

授業の始まりの合図だ。

*****

部屋に入ってきたのは昨日この部屋でカルバン語を担当していたスーズ。
スーズはやはり穏やかな語り口で挨拶をすると、淡々とした調子で授業を始めた。
「呪文には言語と同じように一つ一つ意味がある。その意味を紐解いていくことでもっと深い魔法の理解が可能となる」
そう言うと、黒板にスラスラと文字を書き並べた。
そしてそれを淀みなく流暢な魔法言語で読み上げる。

すると次の瞬間。
チョークで書かれた文字が生き物のように空気中に浮き上がると、チョークの粉がサラサラと霧散して消えた。

ここに来てよく見る超常現象。
どう考えても原理は理解できない。

「今、霧散の呪文を魔法文字で書き、実行の指示を出した」
そう言うともう一度黒板に同じ文字を書く。
その下にカルバン語で呪文の意味を書いていく。

『Ortica mas loderiaosa.』
『消えよ、風の向こうへ』

「言葉をそのまま素読みしても魔法は発動しない。元来魔法というのは魔法文字を正しく理解することで体現することができる尊いものなのだ。人の感覚で体現できる魔法には限度があり、想像力イマジネーションだけではそこから抜け出すことはできない。つまり『炎』や『水』など、属性に関係する魔法は各々の体質によってイメージで発動することができるが、そうでないものは使いこなすことができない。そのために君たちは古代魔法文字を学ぶのだ」

魔法原理とはまた違ったアプローチ。
レオンは興味深く聞いていた。

要するに、人には向き不向きがあり、魔素の系統にも各々の強さや種類に違いがある。
だから「属性」というものが存在する。
その「属性」に関してだけ言えば魔素の限り「イメージ」で魔法を使うことができる。
「魔法原理」の授業は、その属性からのアプローチで、属性を見極めて魔素を活用するというのが授業の内容だった。
ということは、「魔法原理」の観点から魔法を見るとその「属性」の外の領域は「使えない」と言うことになる。
(フィエロはその自分の属性すらまだ未発達で「使える」レベルではなかったが…)
「知らないものは知らない」から「体現できない」のだ。
ただ、この「古典魔法学」の授業では、「古代魔法文字」を理解することでその垣根を取っ払うことができる、というもの。

今の「霧散」の魔法のように、どの属性にも入らない微妙な魔法や、俗にいう「補助魔法(身体強化や斥候など)」はイメージだけで魔法を発動することは難しい。
派手な攻撃魔法をバンバン放つ素質のあるアンナやサラのような魔法使いが仲間に居ることを考えると、レオンの立ち位置的に仲間を補助する魔法は使えた方が何かと便利だ。
それらを「魔法言語」の観点から学んで、足りないイメージを補うことで魔法の自由度はかなり上がる。
「魔法には言葉と同じように全て意味があり、数式のようなもので厳密なルールがある」
そう言っていたヤクジン。

これを学べば、アンナが真逆の属性である「水の魔法」もバンバン使えるようになるだろう。
魔素のほとんど無いダンも少しなら魔法が使える(「覚える」ということが苦手なダンがマスターするのはかなり大変だろうが…)ようになるということだ。

「そういうことね」
とレオンは納得した。
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