帳(とばり)珈琲店 〜お気の毒ですがまた幸せな結末です〜

ナナセ

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エピローグ

(37)マスター

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 この珈琲店の入り口には、橙色のランプと変わった貼り紙がある。


【あなたの話を聞きます。ただ聞くだけ、何も解決いたしません】


 そしてここには、マスターの僕と、臨時ではなく正式に専属の掃除係となった死神のポルタくんがいる。
 彼にはこの素敵な名前があるけれど、彼は自分の名をあまり好きではないので、僕はいつも「死神さん」と呼んでいた。

 彼はいつも黒のスーツ姿で、短髪ではあるけれど、長い前髪が彼の瞳を半分以上覆い隠している。
 その瞳が透き通った美しい藍色をしている事は、彼の親友である僕しかまだ知らない。そして彼が、本当は優秀な死神である事も、親友である僕しか、まだ信じていない事だった。


 店内のテーブル席には、ゆるやかなウェーブのかかったロングヘアーの女性がいて、ラベンダー色の美しいブックカバーのついた文庫本を手に持っている。彼女はこのお店の常連様で、僕はしっかり味の好みを把握している。苦味とコクの強いものより、浅煎りで少しフルーティな酸味を感じる豆を好む。

 そしてその向かいの席にいる整った顔立ちに、ほんの少しモッサリとした『ちょいダサ』な服装をした男性が、この前五人でこの店にやって来た新しいお客様だ。彼らは待ち合わせをしていた訳ではないようだけれど、店内で互いを見つけた瞬間、嬉しそうに見つめ合い同じテーブルに腰を下ろしていた。


 --カロンッ。


 扉についたカウベルが、新たなお客様の来訪を告げる。

「いらっしゃいませ。一名様ですね、お好きな席にどうぞ」

 僕は微笑んで、背筋と手をピンと伸ばしお客様を店内へ招き入れる。すると死神さんが、慌てた様子で僕に小さく耳打ちした。

「帳さん! あの方は、私が新たに関わった人です」
「という事は、あの方もまた……」

 僕はニヤリと片側の口端を上げて微笑む。その表情に何かを察した死神さんが、むーっと膨れっ面をしてこちらを睨んだ。

「帳さん、意地悪なことを言おうとしてますね」
「滅相もない。僕は事実をあなたにお伝えしようと」
「お伝えして頂かなくて結構ですっ!」

 僕の口を塞ごうと手を伸ばす死神さんの手首を掴んで、僕は彼にとっての最高に意地悪な一言を口にした。



「あの方の未来も、死神さんにはお気の毒ですが、また幸せな結末になりそうですね」



 僕の言葉に、死神さんが項垂れる。

 そんな店内に、また一つカウベルの音色が響いて、この帳珈琲店から奇跡の連鎖が始まる予感を告げたのだった。



(了)


*最後まで読んで頂き、有り難うございました。
 感謝でいっぱいです!
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