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32、名もなき乙女と未来の勇者
あと一歩のところで松明の火が消え、バランスを崩した。
視界が揺れたあとに迫って見えたのは地面で、そのまま倒れ込む。
「アイリーン!」
油断をしていて気付けなかったけど、思っていたよりも近くからその声は聞こえた。
(や、やばい……)
正体がバレる……そう察したとき、はらりと頬に白金色のボブヘアーがかかったのを感じた。
(ああ……)
どうやら元の姿に戻っていたようで朦朧とする意識の中で小さく安堵した。
「アイリーン! アイリーン!」
いつの間にかわたしひとりを抱えてもびくともしないその人は、わたしの名前を呼び続けている。
(大丈夫よ……)
そう言ってあげたいのに、声が出ない。
(わたしは大丈夫)
痛んだ腕は感覚を失いつつあった。
わかっていた。
魔力を封印されているわたしは、何をやっても限界があった。
騙し騙し使用していたとしても、近い将来で限界を迎え、それでも構わず続けていたらいつかはこうやってガタが来るのだろうと。
だけど、
「アイリーン……」
大切な家族やこの人を守れるのならなんだってしたかった。
だって、未来を知っているのはわたしだけなのだから。
「アイリーン」
(テオ……)
あと、何日こうしてあなたを眺めていられるかしら。
堂々と隣に並んで歩けるかしら。
(テオ……)
あなたはこれからどんどんどんどん強くなって、誰からも慕われる無敵の勇者様になっていくけど、気遣い屋で優しいあなたの心を本当の意味で癒してくれる女の子が早く現れればいいのに。
(テオ……わたし……)
世界が滲んで見える。
(わたし……わたしね……)
「無茶はするなって、言ったのに」
意識が遠のきかけた瞬間、ゆっくり引き寄せられた先でそんな言葉が聞こえたような気がした。
視界が揺れたあとに迫って見えたのは地面で、そのまま倒れ込む。
「アイリーン!」
油断をしていて気付けなかったけど、思っていたよりも近くからその声は聞こえた。
(や、やばい……)
正体がバレる……そう察したとき、はらりと頬に白金色のボブヘアーがかかったのを感じた。
(ああ……)
どうやら元の姿に戻っていたようで朦朧とする意識の中で小さく安堵した。
「アイリーン! アイリーン!」
いつの間にかわたしひとりを抱えてもびくともしないその人は、わたしの名前を呼び続けている。
(大丈夫よ……)
そう言ってあげたいのに、声が出ない。
(わたしは大丈夫)
痛んだ腕は感覚を失いつつあった。
わかっていた。
魔力を封印されているわたしは、何をやっても限界があった。
騙し騙し使用していたとしても、近い将来で限界を迎え、それでも構わず続けていたらいつかはこうやってガタが来るのだろうと。
だけど、
「アイリーン……」
大切な家族やこの人を守れるのならなんだってしたかった。
だって、未来を知っているのはわたしだけなのだから。
「アイリーン」
(テオ……)
あと、何日こうしてあなたを眺めていられるかしら。
堂々と隣に並んで歩けるかしら。
(テオ……)
あなたはこれからどんどんどんどん強くなって、誰からも慕われる無敵の勇者様になっていくけど、気遣い屋で優しいあなたの心を本当の意味で癒してくれる女の子が早く現れればいいのに。
(テオ……わたし……)
世界が滲んで見える。
(わたし……わたしね……)
「無茶はするなって、言ったのに」
意識が遠のきかけた瞬間、ゆっくり引き寄せられた先でそんな言葉が聞こえたような気がした。
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