【完】結末のないモブキャラは仕方がないので自身の恋物語に終止符を打つことにしました

保桜さやか

文字の大きさ
33 / 41

33、魔物退治と魔術師の結界

「……んっ」

 ひんやりしたタオルが頬に触れ、ゆっくり重いまぶたを開く。

「あら、アイリーン……調子はどう?」

「姉さん……」

 ぼんやりした視界の先にクロエ姉さんの笑顔が見えた。

「迷惑かけてごめんなさい」

 あれからどれだけ寝ていたのだろう。

 もやもやと霧のような夢が続き、寝ても寝ても眠くて眠くて、起き上がることさえままならなくなった。

「あなたは頑張りすぎなのよ。たまには家族を頼りなさい!」

 額の汗を拭ってくれる姉さんの声色は優しい。

 何にもできないから努力だけはさせてほしいのだ。

 もちろん、こんな風になってしまった以上、何も言い返せないけど。

「早く良くなってね」

「……うん」

 うなされるときには決まってみる夢があった。

 愛理の世界の夢や未来の巫女と勇者の物語やおどろおどろしい魔物が現れる夢。

 だけど、今のわたしは灰色の世界の中をさまよっていた。

「誰よりもアイリーンのことを心配している人がいるんだけどなぁ~」

 わざとらしく大げさな動作で姉さんは笑う。

「やっぱり嫌?」

 誰のこととは言わないけど、言われなくてもわかっていた。

「い、嫌だ。こんな姿、見せたくない」

 というか、会うのが嫌だ。

 なんだかとっても気まずいのだ。

 今は会えない。

 どうしたらいいかわからない。

 あれから何度もテオからの面会願いはあったものの、そのたびに姉さんたちに頼んで断り続けていた。

「毎日毎日空いた時間に店に顔を出しているのに」

「………」

「休む隙もなく警備に当たっているって聞いているし、ご褒美くらいあげたいと姉さんは思うわけよ」

「や、やめて……」

 そんなの冗談じゃない。

「ぜっ、絶対に怒られるわ……」

 あんな時間に出歩いていたんだもの。

「あなたが元気になったら、わたしたちも同じく怒る予定ではいるのよ」

「……っ! そんな……」

「みんな、あなたが大切なのよ。そこは理解してね」

 再びひんやりとした感触がおでこに触れ、また目を閉じる。

 ふわふわとして気持ちがいい。

 またこのまま眠ってしまうのかもしれない。

「ゆっくり休みなさい。もう大丈夫だから」

「え?」

「街のことも、もう大丈夫」

「そ、そうなの?」

 驚いて再び瞳を開いてしまった。

「魔物が現れたから、これから一週間は急な用事がない限り、女性や子どもは外へ出ないよう発表されたんだけどね」

「えっ……」

 ぎくっとした。

「ま、魔物……」

 やはり、あれは魔物だったというのか。

 それより、姉さん、どうして……

「今日は特に兵士の見回りも増えたし、この国の術師がすぐにでも魔物よけの結界を張り直してくれるそうよ」

 有り難いわね、と姉さん。

 いろいろと進んでいる情報に置いてきぼりになりかける。

「魔物が、出たんだ……」

 ほんのちょっとだけ呆然としてしまった自分がいた。

 やはりあれは魔物で、街は襲われたのだ。

 そうかもしれないと思っていたけど、現実にその話を耳にするとぞっとしてしまった。

 あと一年先。

 一年先だと思っていたけど、予定の日は徐々に迫りつつあるのだ。

 確実にその日に向かって現実は進み出している。

 そう実感させられる。

 軽い魔力が使えるからって喜んでいるだけでは足りない。

 もっともっと強くなる必要がある。

 でも、どうやって。

 あれだけの力を使っただけで疲れてしまうし、左腕から背中にかけて、術式が施されている部分がすぐに締め付けるように痛くなる。

 自分で限界を決めるのは好きじゃないけど、わたしには制限されていることが多すぎる。

 もっともっと考えたいことは山ほどあるというのに容赦なく襲ってくる睡魔に敵わず、いつの間にかまたわたしは意識を失っていた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】帳簿係の地味令嬢、商会の不正を見抜いて王宮に見出されました。

夏灯みかん
恋愛
王都の商工会議所で働く、地味な帳簿係エミリー。 真面目に記録をつけることだけが取り柄の彼女は、同僚から軽く扱われ、雑用を押しつけられる日々を送っていた。 そんなある日――エミリーは、孤児院への配給物資の記録に、わずかな“ズレ”があることに気づく。 数量は合っている。 だが、なぜか中身の重量だけが減っている。 違和感を覚えたエミリーは、自ら倉庫へ足を運び、現物を確認する。 そこで見つけたのは、帳簿では見えない“静かな不正”だった。 しかしその矢先――不正の責任を押しつけられ、職場から追い出されそうになってしまう。 それでもエミリーは諦めない。ただ一つ、自分が積み上げてきた“記録”を信じて。 「では、正式な監査をお願いいたします」 やがてその記録は、王宮の政務監査官リオンの目に留まり―― 隠されていた不正はすべて暴かれる。 そして、彼女を軽んじていた者たちは、その代償を支払うことになる。 これは、地味で目立たなかった一人の帳簿係が、 “正しく記録した”ことで不正を暴き、王宮に見出されるまでの物語。

片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた

アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。 高校生くらいから何十回も告白した。 全て「好きなの」 「ごめん、断る」 その繰り返しだった。 だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。 紛らわしいと思う。 彼に好きな人がいるわけではない。 まだそれなら諦めがつく。 彼はカイル=クレシア23歳 イケメンでモテる。 私はアリア=ナターシャ20歳 普通で人には可愛い方だと言われた。 そんなある日 私が20歳になった時だった。 両親が見合い話を持ってきた。 最後の告白をしようと思った。 ダメなら見合いをすると言った。 その見合い相手に溺愛される。

必要とされなくても、私はここにいます

あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。 口出ししない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 ただ静かに、そこにいるだけ。 そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。 張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。 何かを勝ち取る物語ではない。 誰かを打ち負かす物語でもない。 それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。 これは、 声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、 何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

咲妃-saki-
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか契約聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。 番外編(編集済み)と、外伝(新作)アップしました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

確かに愛はあったはずなのに

篠月珪霞
恋愛
確かに愛はあったはずなのに。 それが本当にあったのかすら、もう思い出せない──。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。