俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼

文字の大きさ
21 / 46

二人っきりの書庫

しおりを挟む
クレイドの案内で書庫の前に到着した。

他人が見ても大丈夫な本しかないと言っていたが、厳重に保管されているのを見ると期待が膨らむ。

クレイドが鍵を開けるのを見ていて、いざ未知なる場所に一歩踏み出した。
思ったより広い部屋で、クレイドは奥に行き俺は周りを見渡した。
壁全体が本で埋め尽くされていて、見ているだけで頭が痛くなってきた。
壁に入りきらなかった本は床に積み重なっていた。

どの本に書かれているのか分からないから全て見る必要がある。
このくらいで怯んではいられない、とりあえず目についた本を手に取った。

何の本だろう、表紙が何も描かれていない。
これじゃあ何の本か想像すら出来ないけど、怪しいと期待出来る。

パラパラと本の中を見てみると、目を丸くした。
向かい側の棚を見ていたクレイドのところに近付くと、俺に気付いて笑みを浮かべていた。

「なにか見つかったか?」

「あ、いや…それ以前に、これ…」

俺は手にしていた本をクレイドに見せた。
クレイドはそれだけで俺の疑問を理解してくれた。

そこにあった文字は俺の知っている文字ではなかった。

頑張って解読しようとしたが、記号にしか見えない。

ここに長く居たら当たり前に読めるんだろうけど、俺にはさっぱりだ。
ずっとなにかを読んでなかったから、こうなる事を忘れていた。

この世界は俺の知る世界ではないからだ。
英語も危うい俺が、未知なる国の言葉が分かるわけがない。

クレイドの笑みが深くなったような気がした。
その笑みはほんの一瞬で、すぐに悲しい顔になった。

「ごめん、忘れてた…まずは学ばないと読めないな」

「うーん、さすがに全て解読するには一年以上掛かりそうだな」

ただ調べるだけなのに、ここでつまずいていたら先に進まない。
でも、普通に読む以外に本の内容を理解する方法が思い付かない。

それっぽいものを数冊に絞って、集中すれば一年は掛からない。
数冊に絞る事すら出来なくて気が遠くなってきた。
クレイドはいい方法がないか、考える仕草をしていた。

俺も本を見つめながら考える。

全く読めないし、挿絵もないから何の本か想像する事も難しい。
しかも、それがほとんどの本となると絶望でため息を吐き出した。

クレイドに何の本か聞いてみると、街の観光ガイドと言われた。
さすがに観光ガイドには異界人の話は書かれていないか。

観光ガイドって、写真かイラストが書かれているもんじゃないのかな。

街の観光情報を知っても、今の俺は街が寝静まった時くらいしか歩けない。

とはいえ、どんな本でも読めないと何の意味もない。

「書庫から持ち出せる本は一冊のみ、俺が毎晩読み聞かせすればいいんじゃないか?」

「えっ、でも仕事で疲れてる時があると思うし…さすがに嫌じゃないか?」

「疲れなんてすぐに吹き飛ぶよ、嫌だったらこんな提案しない」

「本当にお願いしていいの?」

俺の言葉にクレイドは頷いてくれて、してくれるならこんなにありがたい事はない。
この世界に来たばかりの俺は赤子のようなもので頼らないと何も出来ない。

それでもクレイドの負担になるなら、いつでも止めていいからな。
クレイドには関係ない、俺のわがままでしかないからな。

「よろしくお願いします」と頭を下げた。

持っていける本は一冊のみ、慎重に選ばないとな。
本棚を眺めていても、さっきと変わらず何も分からないからどうしようもない。

クレイドにおすすめを聞こうと思って後ろを振り返った。
俺のすぐ後ろにクレイドの姿があってびっくりした。
後ろに下がったが、すぐに本棚に背中がぴったりとくっついた。

顔の横に手を付けられて、クレイドの腕の中に閉じ込められる。
直接身体が触れているわけではないのに、不思議と体温を感じる。

さすが女の子をときめかせる男だ。
普段からやっているのかと思うほどに自然だ。

男の俺ですらこんなにドキドキと心臓がうるさい。
生まれ変わっても恐るべし少女漫画のヒーローだ。

誤魔化すように本棚に向き直り、本を探していた。
ヤバい、全然頭に入ってこない…なんで俺、こんなに動揺しているんだろう。

クレイドに背を向けているから聞かれてはいない筈だ。
さっきは触れていなかったのに、軽く圧を感じた。

背中に密着して、クレイドの体温を背中から直接感じる。
抱きしめられたり、ほぼ事故のようなキスをされたりしていたが、これはまた違うなにかを感じた。

クレイドの身体と本棚に挟まり、強く押し潰されているわけではないのに、息が苦しい。

手を伸ばして、俺の前にある本棚から一冊取り出した。
耳元で話しかけられて、息遣いが脳にまで響く。

早くここから出ないと、頭が可笑しくなってしまう。

「これなんていいかもしれない」

「そう…か」

せっかく選んでくれたんだから、背中越しで会話をするのは悪い。

クレイドの方に振り返り、後悔した。
鼻と鼻がくっつきそうなほどの至近距離で見つめ合う。

俺もクレイドも目を見開いて驚いていた。
クレイドがなにか言う前に、俺の方が耐えられなくなりクレイドの横を通って離れた。

早く帰ろうと言うと、クレイドはそれ以上何も言わず後ろから付いていく。

さっきの態度はちょっと不自然だったよな。
まるで、俺がクレイドに友達じゃない感情を抱いてるみたいな…

いや、いやいやいくら綺麗な顔をしても男だし華奢な身体でもない。
……そんな男を考えてやってしまったのも事実だ。

小さなため息を吐いて、やっと部屋の前に到着した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

巻き込まれ異世界転移者(俺)は、村人Aなので探さないで下さい。

はちのす
BL
ひょんなことから勇者の召喚に巻き込まれ、異世界に転移してしまった大学生のユウ。 そこで待っていたのは、憧れのスローライフとは程遠い日々で……?! 異世界からの転移者を血眼になって探す人達と、村人Aになりたい平凡な大学生の、ドタバタ総愛され異世界ライフ! *********** イケメン(複数)×平凡? 全年齢対象、すごく健全です 固定CPなし

処理中です...