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1章 家族

side マリア

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私はマリア。シノン・アダマンタイト様が生まれた時から専属侍女をさせて頂いております。
私達、アダマンタイト家に仕えるものは皆、現当主であるアルバート様により拾われてきたものがほとんどです。才能がありつつも虐げられていた者、日の目を見なかった者、アルバート様の実力に心酔し付いてきた者など様々ですが、アルバート様や妻のシャーロット様に忠誠を誓っていました。
かく言う私も、元は暗殺者。アルバート様を狙ってこの屋敷に侵入したのですが、すぐに使用人達に気付かれてしまいました。なんとかアルバート様の部屋へ辿り着いたのですが部屋に1歩踏み込んだ所で、いつの間にか背後にいたアルバート様に後ろから抱きしめられるような形で喉元に剣を突き付けられ降参し、その強さに惚れ、仕えることを決めました。
そんな私達に対して、アルバート様はまだしもシャーロット様は恐れて近寄らないだろうと思っていましたが、逆にシャーロット様の方から積極的に話しかけてくださいました。知らないのではないかと考え、私は元暗殺者でアルバート様を狙っていたことを告げたのですが、「そんなこと知ってるわ」と笑われてしまいました。
シャーロット様の輝く笑顔を見て、私の中に初めて暖かい気持ちが生まれました。この方々を命をかけてお守りしようとそう心に誓いました。

ですが、シャーロット様はシノン様を産んですぐに体を壊してしまいました。段々と弱っていき、医師から危篤だと伝えられた時、使用人全員がシャーロット様の部屋に集まっていました。
そしてシャーロット様はうっすらと目を開け、ベッドに横なったまま私達をぐるっと見渡し、消えそうな声で語りかけました。

「皆、ごめんなさいね。私もうダメみたい。あの人を…シノンを…どうか、どうかよろしくね…みんな愛してるわ。」

そう言って瞳から涙を一筋流し、シャーロット様はたった18歳という若さで亡くなってしまいました。アルバート様と生まれたばかりのシノン様を残して。

アルバート様はそれからさらに仕事に打ち込むようになり、シノン様は親からの愛を十分に与えられていないからか笑うことなどほとんどなく、物心のつきはじ始めた頃は泣いてばかりだったのですが最近はいつも不機嫌で怒ってばかりで周りにあるものや人に当たっていました。
ですが、私達はシノン様が周りに当たり散らした後に必ず後悔するような泣きそうな顔をするのに気付いていました。本当はこんなことしたくない、でも周りに当たらないと心が壊れてしまう。そう読み取るのは容易いことでした。
だから私達はシノン様に拒否されても怒鳴られても決して嫌な顔せずに接しました。もし、私達も離れていってしまったら本当に1人になってしまいますし、シャーロット様との約束に反してしまいます。

そんな日々を送る中、ついにシノン様が倒れてしまわれた。私達はシノン様までいなくなるのではと慌てました。医師からは今日が峠だと言われ、もうダメだとも思ったりもしましたが、シノン様は何とか持ち堪えてくださいました。号泣したのは言うまでもありません。
しばらくすると、アルバート様がシャーロット様が亡くなった時以来の慌てようで帰ってきました。自分の主人ではあるのですが、説教してしまいました。今回の件で思い知って欲しいです、シノン様の孤独を。私達の怒りを。
その後、アルバート様とシノン様は仲直りしたらしく私達使用人の今までの怒りや不安も吹き飛びました。本当に良かったと思います。

それから数日後、シノン様の体調が良くなったので、髪を整えるために起こしに行きました。
シャーロット様譲りのクセっ毛を気にしていらっしゃるシノン様は、使用人以外の人に会う時はいつも髪を真っ直ぐに整えています。今日はアルバート様もいらっしゃいますし、ある方もいらっしゃっています。
早朝ではありますが、シノン様の為なら全然苦ではありません。むしろそれくらいしかできませんから、させて頂きたいくらいです。ですが、そんなクセっ毛のシノン様も十分可愛いのにと私達は思っているのですが本人が許さないのだから仕方がないです。

ですが、シノン様はいつもと違い全然にお目覚めにならない。こんなに寝起きが悪いシノン様を見るのは初めてです。それでも何とか起こすと、シノン様は今の時間を正確に言い当ててみせました。周りに時計はないのに。こんなことは初めてで、いつもは私達が時計を持っているため時間を聞いてくるのですが…。
驚きつつも髪を整えることを伝えましたが、『真っ直ぐに整える必要はない、今までのワガママを許して欲しい』とおっしゃっり、また驚かされました。
きっと時間のことは全知の瞳が影響し、謝られたことはアルバート様と仲直りしたことが影響しているのだと推測するのは容易いものでした。シノン様が歩み寄ってくだったことが何より嬉しく我慢できずに泣いてしまいました。シノン様は少し慌てていましたが、そんなシノン様をもう1度寝かしつけて私は部屋を出て、皆に先程のことを伝えに行きました。
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