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【第13話:朝のひと時】

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「おはようフウマ」
「おう、おはようララティ」

 朝は俺が最初に起きて、カナを起こしてから朝食の準備をする。
 そしてしばらくしたらララティが起きてくる。
 彼女が起きる頃には、食卓に朝ごはんが並んでる。

 カナは先に食べ終わって、学校に行く支度をするために、自分の部屋に戻る。

 そんな流れがすっかり日常になった。

「おはようございます、フウマ様」

 ララティの後ろから、眠そうに目をこすりながらレムンが現れた。寝癖が付いてるのが可愛い……って、おい待て!

「レムン。ちょっと、その……パジャマが薄すぎないか?」

 少し透ける素材で、しかも肩出し、ヘソ出し、短いパンツで太もも出しときた。
 そりゃもう朝から、思春期男子の欲望を直撃、刺激のフェスティバルって感じ。

「あの……ダメですか?」
「ダメじゃない」

 あ。つい欲望に負けたセリフが口から出た。
 同時にカナとララティからジト目で睨まれた。恐ろしい殺気が飛んでくる。怖い。

「い、いやダメだ。年頃の女の子が、男子の前でそんな刺激的な姿をしてはいけない」
「なんでですか?」

 レムンは人間じゃなくて魔獣だ。だからわからないだろうけど。
 見た目が人間、それも相当可愛い女の子である以上、男子にとって刺激的なんだよ。

「それは……レムンが可愛すぎるからだ」
「え? やった! フウマ様の『可愛い』いただきましたぁ~! じゃあお言葉通り、着替えてきます!」

 部屋に向かって走る後ろ姿。フサフサの尻尾がぴょこぴょこ揺れて可愛い。
 あの尻尾はショートパンツのお尻に穴が開いてるのか? どういう仕組みだ?

 ──なんて考えていたら、なぜか背筋がゾクっとした。周りを見回すと、ジト目のララティと目が合った。

「この不潔男め。コロしてやろうか?」

 ひぇぇっ! こわっ!
 ごまかさなきゃ!

「あ、あのさララティ。朝メシどうぞ」
「あ、そうだな。腹ペコだ」

 食卓についたララティは、木製皿に盛られたサラダと、パンを同時に頬ばり始めた。
 よし。ララティが食いしん坊で助かった。

「ゔん、ゔまい!」
「食べながら喋るな」
「いや、旨いからさ。それに最近は品数も多いな。気合いが入ってるのか?」
「いやまあ。なんか最近、朝の体調が良いんだよ。以前より元気っていうか」
「そりゃそうだろ」
「……え? そりゃそうだって、ララティは原因を知ってるの?」
「それはあたしが毎晩……」
「え?」
「いや、なにもない! 気にするな」
「なんだよ? もしかして毎晩、俺はなにか悪戯されてるとか?」
「悪戯なんてしない。信じろ」
「冗談だよ。そんなマジ顔で言わなくても信じてる」

 変なヤツだな。
 子供じゃあるまいし、寝てる間に悪戯なんてするはずが……いや、ララティならあり得るかも!

 ううむ、さすがにそれはないな。俺が最近元気な理由は──

「俺が最近元気なのは、やっぱララティのせいだな」
「え……? ま、まさかフウマ。お前、気づいて……」
「ああ、もちろん気づいてるよ。ララティはメシをめっちゃ旨そうに食うしさ。料理にやりがいが出たのが原因だ」
「そっ、そっちか!」
「そっちって、どっちなんだ?」
「いや、なんでもない。さあ、早く食って、学校行くぞ。フウマも遅れるなよ」
「あ、そうだな」

 ララティは瞬間移動魔法で通学できるが、俺は1時間歩いて登校しなきゃいけないんだ。のんびりしてる暇はない。
 早く朝メシ食わなきゃな。

***
〈ララティside〉

 ふむ。フウマに毎晩魔力を流し込んでいるが、順調に体内に蓄積されてるようだな。
 以前より元気なのも、たぶんその影響だろう。

 フウマ自身は、自分の元気はあたしが居てくれてるからだと思ってるけどな。まあそれだけ、あたしが居ると嬉しいということだ。むふふ。

 大切なことだからもう一度言うぞ。
 あたしが居るから自分は元気なんだって、フウマはそう思ってるのだ。むふふ。

***

〈フウマside〉

 今日は朝イチから、月に一回の「魔法対戦実習授業」がある日だ。
 生徒同士一対一で戦うため、実力の優劣がはっきりわかる。結果は成績に直結もする。
 だから誰もが気合いを入れて臨む授業なのに……

「ララティはいったいどこに行ったんだ?」

 授業が行われるのは、実技棟の地下にあるメイン武闘場だ。ここは地下のため、窓もなく壁も頑丈。
 つまり中で少々激しい魔法を使っても、建物の外に影響や被害を与えることがない。

 今ここに同じクラスの生徒が20名ほど集まっているが、ララティの姿が見当たらない。
 朝イチは教室で見かけたから、登校はしてるはずなのに。

「おい、お前らグズグズするな。授業を始めるぞ。早く対戦相手とペアを組みたまえ」

 担任教官のブラック先生の声がした。
 今年から我が学院の教官になった新任の先生で、魔法の実力はとても高いらしいのだが、陰気な感じがどうも俺は苦手だ。

「あの……ブラック先生。ララティがまだ……」
「ああ、彼女はお腹が痛いらしく、医務室で休んでる」
「え? マジっすか?」
「朝メシを食い過ぎたのが原因だと本人は言ってた。早速ワタクシの授業をサボるとは、なかなかいい度胸をしてる」

 なんだよそれ!
 食いしん坊にも程がある。

「おいフウマ。対戦しようか」

 またコイツか。ブゴリだ。ツバルの腰巾着で小太りの方。個人対戦になるといつも声をかけてくる。
 ブゴリの実力ははっきり言ってクラスでも下位だ。だけど俺の魔法が弱すぎて、いつも負けてしまう。

 彼からしたら、俺は勝ちを見込め貴重な存在なんだろう。悲しいけれども。

 ──いや、でも。
 俺だって魔力量は雑魚だけど、技術的な鍛錬は続けている。今日こそ一矢報いることができるかもしれない。

「よし、やろう」
「いい度胸だフウマ。褒めてやるぜ、あはは」

 ブゴリと正面に向き合って立つ。ヤツは不敵に笑ってる。

「フウマ、頑張って」

 なんとマリンが声をかけてくれた。
 うわ。ツバルが苦々しい顔で、ブゴリに指示を出してる。

「ブゴリ! フウマなんて雑魚、秒でやっちまえ!」

 待ってくれ。俺はなにも悪いことはしてないはずだ。

「はい、ツバル様」

 こうなったら、とにかく先手必勝だ。
 俺の魔法は弱くて、あまり相手に打撃を与えられない。だから先手を仕掛けて、数を打ち込んでやる。

 そう考えて、右手を挙げて、ブゴリに向かって風系の攻撃魔法を放った。

突風をぶつける魔法ブラーゼン!」

 右手のひらから発動した風が、ブゴリの胸を直撃する。しかしヤツは避けることもなく、「フン」と鼻で笑ってニヤニヤしてる。

 防御魔法で胸元を守るだけで、そのまま逃げずに立っている。
 当たっても大したことないと、舐められてるんだ。
 そんなことは俺もわかってる。だから続けてもう一発見舞ってやる。

 そう考えて、魔法発動の予備動作を始めた。
 だけど──

「ぶぎゃん!」
「……え?」

 俺の突風魔法が命中した瞬間、ブゴリが変な声を上げて、後ろに吹っ飛んだ。

 ──えっと……なにが起きたんだ?
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