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【第31話:ララティのカミングアウト】

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「どうしたララティ? ホントに大丈夫か? 辛いのか? 正直に言えよ」
「いや。辛くはない」
「じゃあどうしたんだ?」
「フウマの優しい言葉と顔に、ぐっと来てしまっただけだ。嬉しいんだよ。ありがとう」
「嬉し涙……?」
「ああ、そうだよ」
「泣くほどのことじゃないだろ」

 とは言ったものの。なにか事情があるのかも、と気づいた。

「ララティ。なにかあるんだろ? 遠慮しないで言ってくれよ」
「フウマ……いや、やっぱりやめとく」
「今何か言いかけたよね? 気になるよ。気になるから言ってくれよ!」

 こんなふうにぐいぐい踏み込むのがいいのかわからない。だけどララティが何かを話しかけたということは、何か聞いて欲しい気持ちがあるんだろうと感じた。

「フウマ。ホントキミってヤツは、お節介だな」
「あ、ごめん」
「謝るな。誉め言葉だ。迷ってたけど、やっぱりフウマには隠さず話すことにする」
「ああ、わかった」
「実はな。あたしにはフウマがかけた『眷属の呪い』がかかっている。つまり今のあたしは、キミの眷属であり、キミがあたしに命じれば、なんでも言うことを聞いてしまうのだ」
「えっと……何言ってるかわからないだけど?」

 眷属の呪いがかかってる?
 ララティが俺の命令をなんでも聞くって?
 いやそんなバカな。

「さてララティ。冗談はそれくらいにして、ここからはホントの話をしようか」
「いや、今のは本当の話だが?」
「……マジ?」

 ララティは言った。
 初めて出会った時に『呪いの書』に書かれた呪文を俺が唱えた。あの時は誤魔化していたけど、実は眷属の呪いが発動してしまっていたのだと。

 だから今まで何度か、俺の命令にララティが素直に従ったのか。
 今まで違和感を持っていたことの謎が解けた。

 それにしても、俺の言うことをなんでも聞くだなんて……
 改めてララティの姿をじっと見てしまった。

 金髪。宝石のように輝く赤い瞳。やや幼い感じだが驚くほどの美人だ。
 そして小柄なスリム体系で、すらりと美しい手足。妖艶な、と言うか。幼い体型の割にはセクシーさもある。

 この美少女が、俺の言うことをなんでも聞くだと?

 ……
 ……
 ……

 今、俺の頭の中に、してはいけない妄想がぽわんと渦巻いた。

 いや待って。ちゃんと服を着てよララティ!
 俺の理性が崩壊するっ!!

 ……いや、落ち着け俺。服を着てないのは、俺の脳内だけだ。
 現実のララティはちゃんと服を着て、ポカンとした不思議そうな顔で俺を見ているではないか。

 ここは一つ、ゴブリンの顔を思い浮かべて、脳内をクールダウンしよう。
 緑色でごつごつしたゴブリンの顔。

 ──うん、ちょっと落ち着いた。

「でもララティ。眷属の呪いって言うと、そんな一瞬のことだけじゃなくて、まるで操り人形のようになるんじゃないのか?」
「そうだな」
「でもララティはそんな感じでもないよね」
「それはあの時のフウマの魔力が低いせいでな。中途半端に魔法が発動してるんだよ」
「そりゃあ俺は、魔法学院でも一二を争う落ちこぼれだからな……」
「ああっ、ちょい待てフウマ! 落ち込まなくていい! 今のは別にディスったわけじゃないから!」

 ララティは必死になってフォローしてくれてる。
 その姿がちょっとおかしくてプッと笑ってしまった。

「ああ、笑ったなフウマ。酷いぞ」
「ごめんごめん。ララティが必死になってる姿がおかしくてさ。でも俺を気遣ってくれてありがとうな」
「あ、いやまあな……でもフウマ。今のキミはあの頃と違って、かなり魔力量が上がってるから自信を持て」
「そう言えば、徐々に俺の魔法が強くなっている気がしてたんだけど、気のせいじゃないのか?」
「ああ、気のせいなんかじゃない。かなり魔力量が増えている」
「なんで?」
「それは……」

 ララティは言いにくそうに一旦口をつぐんだあと、思い切って事情を明かしてくれた。
 毎夜のように俺の寝室に忍び込んで、魔力注入をしてくれていたそうだ。

「ということはつまり、俺は毎晩寝顔をララティに見られていたってこと?」

 うわっ、ヤバっ!
 恥ずすぎる!

「ああ、そうだな」
「待ってララティ。恥ずかしすぎるぞ!」
「大丈夫だフウマ。キミの寝顔は可愛かったから」
「いや、大丈夫じゃなくて。その感想、余計に恥ずかしいからっ!」

 顔が熱い。女の子に寝顔を見られるなんて。そして寝顔が可愛いって言われるなんて。
 とんでもない羞恥プレイとしか言いようがないくらい恥ずかしいぞ。話題を変えたい。

「と、ところでララティ。眷属の呪いが中途半端に発動してるって、どうなってるんだ?」
「む……そうだな。少なくとも今のあたしは、自我を保ってる」
「そう言えば、眷属の呪いに完全にかかると、自我を完全に亡失ぼうしつすると聞いたことがある」

 だからこそ、相手の意のままに、操り人形のように操られてしまうんだ。

「でもこのまま魔法を解除しないと、数日後にはあたしは自我を亡失してしまう。それは11日後だ。そうなるとあたしは完全にフウマの眷属となり、なんでも言うことを聞いてしまうようになる」
「え? マジか?」
「ああ。本当の話だ」

 11日後にララティは自我を失うだって?
 そんなのヤダよ!

「だった自分で解除したらいいじゃん。キミほどの魔法使いなら、簡単に解除できるんだろ?」
「いや、それがやってみたが無理だった。古代のあたしたちの祖先が作ったと言われる呪いの書。これは使った者の魔力を何千倍にも増幅して、強大な魔力を発揮する。だから一旦術にかかってしまうと、魔王の娘のあたしと言えども、解除は極めて難しいのだよ」
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「術をかけたフウマ。キミが魔力を極限まで高めることで、解除術式を有効にできる可能性がある」
「俺が……魔力を極限まで高める? いやそんな無理だよ……」

 そこまで言って、はたと気づいた。

「あ。だから毎晩俺に魔力を注入してたのか?」
「そうだ」
「なるほど! じゃあ解除魔法を教えてくれよ。かけてみよう!」
「解除魔法の名前は『アウストレーベン』だ」
「あ……それって」
「ああ、そうだよ。何日か前にフウマに教えて、かけてもらった魔法だよ」
「つまり、俺にはまだ使えなかったってことか」
「だな」
「あと11日しかないのに。それまでに眷属の呪いを解かなきゃいけないのに。まだ俺にはその力がないってか?」
「そうだ」

 ララティが自我を失ってしまう?
 そんなのイヤだ!
 でも俺の力がないばかりに、それを防ぐことができないなんて。

 いや、元はと言えば、俺がうっかりララティに眷属の呪いを掛けちゃったのが悪いんだよな。

 俺は目の前が真っ暗になった。

「フウマ。それに悪いお知らせがもう一つある。あたしの父、つまり魔王に反抗する勢力の魔族のヤツが、あたしを狙っている。最終目的はたぶん父に対するクーデターだ」

 魔族の世界でそんなことが起きていたなんて。

「だからこのままあたしが自我を失うと、反対派を抑え込む力が弱くなる。最悪、今の魔王の体制が崩れる。そうなると過激派の魔族は、積極的に人間を襲い始める。人間社会の大きな危機が訪れる」

 いやちょっと待って!
 聞けば聞くほど、より一層ヤバい状況になっていくぞ。しかも俺のせいで!

 俺はさらに目の前が真っ暗になった。
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