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【第36話:魔力が向上するフウマ】

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***

 ダンジョンってのは深層に進めば進むほど、そこに巣くう魔物は強くなる。
 その常識はこのダンジョンも例外ではなかった。

 9層目、10層目。先に進めば進むほど、現れる魔物は強くなっていった。

「うぐっ……」
「がんばれフウマ! あとひと息だ!」

 ミニドラゴン。ミニと言ってもさすがはドラゴン。
 人間の倍以上の大きさはあるし、めっちゃ強い。

 さっきから何度も攻撃魔法をかけているが、まだ倒れない。
 俺も攻撃を受けて、致命傷は食らってないものの、全身がガタガタだ。

 ──くそっ、もうひと踏ん張りだ。

火による攻撃魔法バッケン・グリフ!」

 色んな魔法をランダムに使うより、一つの魔法を極めた方が熟練する。それにつれて経験値の貯まり方も早い。

 ララティのそんなアドバイスで、さっきからバカの一つ覚えのように、火の玉魔法ばかり使ってる。

 ──グギャアアァッ!

 10度目の火の玉魔法を受けて、とうとうミニドラゴンは倒れて灰となった。

「よくやったフウマ! さあ、治癒魔法をかけてやろう」

 ララティが手のひらを俺の全身にかざす。
 暖かな波動が俺の身体を包み、どんどん癒されていく。
 まるでララティの優しさが俺の全身を包んでいるようだ。

 一心不乱に治癒魔法を使うララティの横顔を眺めた。
 すごく可愛くて、キラキラ輝いて見える。
 愛おしくて、心惹かれる感じがする。

 強力な治癒魔法をかけてもらうと、こんな気分になるんだろうか。治癒魔法の副次効果なんだろうか。

「さ、これでどうだ?」
「ああ、もう大丈夫だ。どこも痛くない」
「そうか、よかった」
「ありがとうララティ」
「どういたしまして、だ。フウマはあたしのために、経験値を積むために戦ってくれてるんだ。礼を言うのはこっちだよ」

 そう言えば、体内の魔力がかなり高まってる感じがする。
 このダンジョンに入る前と比べたら、何十倍にもなってる感覚だ。

「なあララティ。そろそろ解除魔法が効くくらいになってないかな?」
「そうだな。フウマの魔力はかなり高まってる。もしかしたらいけるかも」
「よし、試してみよう」

 ララティと向かい合って立つ。

 俺は頭の中に、ララティの身体が浄化されるイメージを浮かべた。そして右手に魔力を集中させる。その手を掲げて呪文を唱える。

「彼女にかかりし呪いを祓いたまえ……『呪いを祓う強力な魔法アウストレーベン』!」

 前回試した時よりも遥かに強大な魔力が手から放たれ、ララティの身体を包んだ。
 彼女はじっとして俺の魔法を全身に受けている。

「どうだ?」

 ララティは右手の甲をじっと見つめてる。
 そして驚きの声を漏らした。

「おおっ……」
「どうした?」
「眷属の証が、薄くなってきている」

 ララティの手の甲に現れた『眷属の証』の紋様。
 これが眷属の呪いがかかっている証拠だ。
 見ると、確かにその紋様が徐々に薄くなっている。

「これは上手くいくかも!」

 そう思った。だけど俺の魔力が足りなかったせいか、途中でララティを包む魔力が薄まり始め、それと共に眷属の証もまた元のように色が濃くなった。

「ああっ、くそっ! ダメか」

 ララティが悔しそうに地面を蹴った。

「もう一度やってみようよララティ」
「そうだな」

 俺は再び解除魔法を試してみた。
 しかし今回も眷属の証は薄くなりかけるものの、途中で解除魔法の効力が薄まり、紋様は元に戻ってしまう。

 何度か試したが、結果は同じだった。
 ララティが言うには、どうやらまだ俺の魔力がやや足りないらしい。

 うーむ、やっぱ俺ってできない子だ。
 申し訳ない。

「フウマ。そんな情け無い顔すんな。ここまで来たらあと一歩だ。光明が見えてきたよ」
「そうか?」
「うん。もう少し魔物と戦おう。できればもっと強い相手がいいな」
「うへっ……」

 さっきのミニドラゴンでもかなり傷を負って痛かったのに。もっと強い相手とやるのか。

「さあ、もう一層下に行こうか」

 ララティは言って、目の前にある下層階への下り通路を指差した。

「そうだな」
「そろそろ魔族が現れるかもね。魔族は今までの魔物よりもかなり強いぞ」
「ララティ。そういうこと言うなって。口にしたことが現実に起こるって、あるあるなんだぞ。急にそんな強いヤツが現れたら俺には太刀打ちできない」
「でも今回の最終目的はブゴリに成りすました魔族だ。どっちにしても倒さなきゃならない」
「それはそうだけどさ……」

***

「ほらぁララティ! だから言ったじゃないか! 口にしたことが現実に起こるって」

 もう一つ下の階層に降りたら、目の前にブゴリの格好をした男が立っていた。
 今まで出会った魔物なんか比較にならないくらい強大で凶悪な魔力が身体中から溢れ出ている。

 はっきり言ってコイツヤバい。
 それが最初に抱いた感想だった。
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