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【第44話:久しぶりの学院<最終話>】

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 3日ぶりに学院に登校した。
 ララティと一緒に登校して教室に入った途端、領主の次男、ツバルが媚びるような満面の笑みで近寄ってきた。

「やあララティ。キミがブゴリを助け出したんだってね。さすがだね」

 ララティが助けたって話になってるのか。
 彼女の魔法がすごいってことも、俺の魔法が雑魚だってことも、みんな知ってるもんな。そりゃ、そういう伝わり方するのも無理はない。

「あたしが助け出したんじゃないよ。魔族を倒してブゴリを助け出したのはフウマだ」
「いやいやまさか。ララティは強いからわかるけど、フウマが? 冗談はいいから」
「冗談じゃないよ。本当に魔族を倒したのはフウマだ」
「え? ……まさか」

 ツバルが疑わしい目を俺に向ける。
 そのまさか、なんだけど。
 でも俺が自分で「本当だよ」って言っても、コイツは信じてくれそうにないから黙っとこう。

「ねえ、フー君! その話ホントなの!?」

 驚きと喜びが入り混じった声を上げたのはマリン・モンテカルロだった。
 宝石のように輝く青い瞳を大きく見開いて驚いている。
 さすがにマリンに嘘をつくわけにはいかない。

「あ、まあね。ホントだよ」

 俺たちのやり取りにクラスのみんなも注目してる。
 驚いた顔をしてるのが少しと、疑わし気な顔をしてるヤツらが多数。
 ざわざわし始めた。注目を浴びるのは恥ずかしくてヤダな。

「そうなのね!? 凄いわ! さすがフー君!」

 マリンはグイっと一歩踏み出して近づいてきた。
 両手を出して俺の両手を握る。
 柔らかくて温かい手だ。

「こんな話、信じてくれるのかい?」
「当たり前じゃない。フー君はそんな嘘をつく人じゃないわ。ホント凄いわ。尊敬します!」

 ああっ、近い近いっ!
 興奮気味のマリンが、顔をぐっと近づけて来る。

 まつ毛が長くてぱっちり大きな目がすぐ目の前にある。
 鼻筋が通った高くて美しい鼻がすぐ目の前にある。
 艶々でピンク色の唇がすぐ目の前にある。

 とにかくすっごい美人の顔がすぐ目の前にある。
 こんな眼福を享受していいのだろうか。

「近い近いっ! こらこら離れろっ!!」

 俺とマリンの間にグイっと割り込んできたのはララティだった。
 両手で押して、強引に俺とマリンを離れさせようとしてる。

「別にいいではないですかララティさん」
「よくない!」

 マリンに嫉妬したのかララティが怒ってる。

「なぜですか?」

 強引なララティにマリンもムッとしてる。
 ヤバい。これはもしかして修羅場ってヤツか。

「フウマに他の女が近寄るとモヤモヤするからだ」
「え? ララティさん、まるでフー君の彼女のようなことを言わないでください」
「あたしとフウマは恋人同士だ」
「え?」

 マリンがきょとんとした。
 それまでざわついていた教室が、水を打ったようにシンとなった。

「えっと……ララティちゃん。今、幻聴が聞こえたんだけど? なんかフウマとララティちゃんが恋人同士だとかそうじゃないとか」

 ツバルがわけのわからないことを言ってるな。

「そうじゃないなんて言ってない。恋人同士と言ったんだ。幻聴なんかじゃない」
「……は? マジかフウマ」
「ああ。まあね。あはは」

 怨念がこもったようなツバルの青い顔を見たら、笑ってごまかすしかない。

「フー君、それって本当に本当の話なの?」
「うん」
「いつの間に?」
「正式には昨日かな。まあちょっと色々とあって」
「そう……お、おめでとう」

 マリンは残念そうにつぶやいてうつむいた。
 落ち込んでいるように見えるけど……それはきっと俺の勘違いだよな。
 俺がララティと付き合ったからと言って、マリンが落ち込むなんてはずはない。
 ……だよな。

「あっ、フウマ! ララティ!」

 ブゴリが登校して教室に入ってきた。
 俺たちを見つけるとすぐに声をかけてきた。

「お前ら学校休んでたから心配してたんだ。ホントにありがとうな!」

 ツバルの腰巾着で嫌なヤツだと思っていたブゴリだけど、ダンジョンで助けた時から本気で感謝してくれてる。
 案外いいヤツだってことがわかってよかった。

 登校直後の朝のざわつきが教室を包む中、チャイムが鳴り響いた。
 しばらくすると扉を開けて、クラス担当教官のローゼリア・ギュアンテ先生が入ってきた。

「はいはい! みんな席に着けよ~!」

 すらりと背が高い美人教官は俺とララティの姿を見つけ、話しかけてきた。

「二人とも登校してきたか。元気そうで何よりだ。よくやったな二人とも」

 クラスメイト全員の前で、教官にこんなふうに褒められるのは恥ずかしくてしかたない。
 なんてったって俺は落ちこぼれ生徒だからな。今までみんなの前で褒められるなんて経験は皆無だったわけだ。
 まあ偉そうに言うことでもないけれども。

「ありがとうございます」

 今まで俺をバカにしていたクラスメイトも、尊敬の眼差しを向けてくれてる。
 これは全部ララティのおかげだ。
 彼女が俺に何度も魔力注入をしてくれたおかげ。魔物と戦う機会を作って、レベルアップさせてくれたおかげ。

「ララティも凄いねぇ~!」
「ホントホント!」

 ララティがクラスメイトの女子達に囲まれてる。
 彼女は一見取っ付きにくいところがあるからか、今までは孤高の雰囲気があって、あんなふうに囲まれて和気あいあいとすることはなかった。

「いやいや、あたしは本当に何もしてないんだ。全部フウマのおかげだよ」
「そう言えばララティって、前よりも柔らかくなったよね」
「そうそう。優しい感じだし可愛い感じだし」
「そうかな?」

 そうなんだよ。やっぱりクラスのみんなも、そう感じてるんだな。

「そうだよ! これはやっぱあれだね。彼氏ができて幸せだからだね! でしょ?」
「まあ……そうかな」
「わぁっ、ララティちゃん否定なし! うーん、妬けちゃうな!」
「あ、ごめん」
「いいのよいいのよ! 私たちはララティの幸せのおすそ分けをいただきまぁーす!」

 うわっ、それは俺が恥ずかしいよ。
 まあでも、ララティがすっかりクラスに馴染めてよかった。

 ──なんて思いながら彼女を見てたら。

 俺の視線を感じたのか、ふとララティが振り向いて俺と目が合った。
 幸せそうにニコリと笑う彼女。可愛い。
 俺も笑顔を返した。

******

 やがてフウマとララティは、人間と魔族が協力し合って暮らせる社会を実現するのだが──それはまだ先のお話。

= 完 =
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