8 / 56
【8:カラオケ行こーよ】
しおりを挟む
x 放課後のホームルームが終わった。
高柳がにへら笑いを浮かべて、神凪に話しかけている。相変わらず肩には、陰気な顔した邪神が乗っている。
「さくらちゃーん。昨日は残念だったから、またカラオケ行こーよ」
「そうですね」
神凪は笑顔を浮かべて、俺をチラッと見た。そして何かを思いついたような顔をする。
「もしよければ、今日でもいかが?」
「へっ?」
神凪の返事は高柳にとって期待以上だったようで、彼の顔がみるみるうちに、にんまぁと崩れる。
「いいの? やっぱさくらちゃんは、僕と遊びに行きたかったんだねぇ~」
そうなのか? 神凪は案外ゲテモノ食いなのかも。それとも昨日聞いた、高柳がボクシングをやってるって話に惹かれたのか?
神凪は『強い人が好き』って言ってたもんな。
「柴崎君も昨日行けなかったから、一緒に行きましょうよ」
神凪が俺を向いて、清楚な笑顔を振りまいた。
「えっ? 俺はいいよ」
「柴崎君もいいんだって。じゃあ一緒に行きましょう」
「その『いい』じゃないよ」
なんだそりゃー!
昨日日和がやられてたのと同じ、超古典的な手を使いやがって。
俺が高柳と一緒に、カラオケなんか行くわけが……
──うっわ、神凪が恐ろしく鋭い目つきで俺を睨んでる。従わないと殺されそうだ。
「柴崎君も一緒に、行けるんでしょ?」
「はい」
ありゃ、思わず二つ返事で承諾しちゃったよ。
「え~っ? 柴崎なんか、連れて行きたくないよ。二人で行こうよ、さくらちゃん。ねっ、ねっ!」
「私はクラスメイトの皆さまと仲良くしたいの。優しくて強い高柳君なら、わかってくれるよね?」
神凪はにこりとして、こくんと小首を傾げる。高柳は顔が爆発しそうなくらい赤くなって、「うん」と答えた。
神凪すげー。
清楚な雰囲気で、男心を一発で溶かしやがった。
──でも本性は違うんだから、女って怖い。
「でも……男二人に女の子一人ってのもねぇ」
そう言いながら、高柳は横に立ってる日和をチラ見する。
いや待て。そりゃまずい。
クラス人気ワンツーの女子と俺がカラオケ行くなんて、いくら高柳が一緒だとはいえ、クラス中の男子を敵に回すようなもんだ。
「日和ちゃんも一緒にどう?」
絶対にオーケーするなよ!
牽制のために日和を見た。
俺と目が合った日和は、こくんとうなずく。よしよし。
「はい、ご一緒させていただきますねぇ」
へっ? なんで?
おーい! お前はあほか!?
カラオケルームに向かう道すがら、「なんでオーケーするんだよ?」と小声で聞いたら……
「だって、一緒にカラオケ行こうよって、天心君の目が語ってましたぁ」
なんて言いやがった。
俺の目が、そんなことを語るわけない。
「あほか」
俺がひと言で返したら、日和は「ぐっすぅ」と声を出して半ベソかいてる。しまった。また悲しませてしまったかな。
「ああ、悪かったよ、泣くな……って、痛ってぇ!」
いきなり右の太ももに、つねられたような痛みが走った。前を歩く高柳が振り返る。
「どうした?」
「いや、何でもない。早くカラオケに『行きて~』って言っただけ」
「今向かってるだろ? バカか」
高柳はまた前を向いて歩きだした。
なんとかごまかせたみたいだ。
右側を見ると、神凪が何食わぬ顔で歩いてる。こいつがつねったな。なんでいきなりそんなことをするんだよ? 俺、何か悪いことでもしたか?
「何すんだよ?」
小声で話しかけると、神凪は素知らぬふりで「何が?」って返しやがった。
「どうでもいいけど、イチャコラしてる場合じゃないのよ。あんた今日の目的わかってんの? 単に遊びに行くんじゃないんだから」
神凪は不満げな小声でボソボソと言う。
「え? 遊びに行くんじゃないの?」
てっきり神凪がカラオケしたくて、うずうずして『今日行こう』って言ったのかと思った。
「あほか。高柳君に憑く邪神を観察しに行くに決まってるでしょ」
そうなのか。全然思いもよらなかった。
そうだとわかってたら、一緒に行くのを全力で拒否ったのに。面倒なことは嫌だ。
「なに、ボソボソと喋ってるのかな?」
高柳が怪訝な顔で振り返る。
こりゃ、嫉妬に溢れた顔だ。
俺が人気女子と話すようなことがあると、いつも向けられてた顔。嫉妬だったり、嫌悪だったり。だからできるだけ日和やこの神凪とも、人前では話さないようにしてるのになぁ。
「ごめんなさい、高柳君。この前の地鎮祭《じちんさい》のことで、問題がなかったか、柴崎君にお聞きしてたの」
「そういえば、そのチンチンさい。俺もやってくれよ~」
思い出したように言う高柳に、神凪は苦笑いを浮かべる。
「あの……地鎮祭ね」
「えっ? なんだって?」
「地鎮祭」
「あれ? 俺、さっきなんて言ったっけ?」
「高柳君は間違えて、チンチ……」
神凪はそこまで言って、顔を真っ赤にして口ごもった。こいつ、案外うぶなのか?
「え? なんだって? 聞こえなーい」
高柳は耳の後ろに手のひらを当てて、わざとらしく聞き直してる。こいつはセクハラおじさんか?
高柳の肩に座った邪神もにやにやしてる。
邪神のせいで高柳がこんな態度を取るのか、こんな態度だから邪神に取り憑かれるのか、どっちだ?
「その地鎮祭っていうのはね、建物を新築する前にするものなの。高柳君の所も、新築するご予定はあるのかしら?」
高柳はきょとんとした。
「いや……ないな」
「じゃあまた新築することになったら、ぜひ神凪神社をご利用くださいね」
おおっ、うまいこと切り抜けたな。なかなかやるじゃないか、神凪さくら。
高柳がにへら笑いを浮かべて、神凪に話しかけている。相変わらず肩には、陰気な顔した邪神が乗っている。
「さくらちゃーん。昨日は残念だったから、またカラオケ行こーよ」
「そうですね」
神凪は笑顔を浮かべて、俺をチラッと見た。そして何かを思いついたような顔をする。
「もしよければ、今日でもいかが?」
「へっ?」
神凪の返事は高柳にとって期待以上だったようで、彼の顔がみるみるうちに、にんまぁと崩れる。
「いいの? やっぱさくらちゃんは、僕と遊びに行きたかったんだねぇ~」
そうなのか? 神凪は案外ゲテモノ食いなのかも。それとも昨日聞いた、高柳がボクシングをやってるって話に惹かれたのか?
神凪は『強い人が好き』って言ってたもんな。
「柴崎君も昨日行けなかったから、一緒に行きましょうよ」
神凪が俺を向いて、清楚な笑顔を振りまいた。
「えっ? 俺はいいよ」
「柴崎君もいいんだって。じゃあ一緒に行きましょう」
「その『いい』じゃないよ」
なんだそりゃー!
昨日日和がやられてたのと同じ、超古典的な手を使いやがって。
俺が高柳と一緒に、カラオケなんか行くわけが……
──うっわ、神凪が恐ろしく鋭い目つきで俺を睨んでる。従わないと殺されそうだ。
「柴崎君も一緒に、行けるんでしょ?」
「はい」
ありゃ、思わず二つ返事で承諾しちゃったよ。
「え~っ? 柴崎なんか、連れて行きたくないよ。二人で行こうよ、さくらちゃん。ねっ、ねっ!」
「私はクラスメイトの皆さまと仲良くしたいの。優しくて強い高柳君なら、わかってくれるよね?」
神凪はにこりとして、こくんと小首を傾げる。高柳は顔が爆発しそうなくらい赤くなって、「うん」と答えた。
神凪すげー。
清楚な雰囲気で、男心を一発で溶かしやがった。
──でも本性は違うんだから、女って怖い。
「でも……男二人に女の子一人ってのもねぇ」
そう言いながら、高柳は横に立ってる日和をチラ見する。
いや待て。そりゃまずい。
クラス人気ワンツーの女子と俺がカラオケ行くなんて、いくら高柳が一緒だとはいえ、クラス中の男子を敵に回すようなもんだ。
「日和ちゃんも一緒にどう?」
絶対にオーケーするなよ!
牽制のために日和を見た。
俺と目が合った日和は、こくんとうなずく。よしよし。
「はい、ご一緒させていただきますねぇ」
へっ? なんで?
おーい! お前はあほか!?
カラオケルームに向かう道すがら、「なんでオーケーするんだよ?」と小声で聞いたら……
「だって、一緒にカラオケ行こうよって、天心君の目が語ってましたぁ」
なんて言いやがった。
俺の目が、そんなことを語るわけない。
「あほか」
俺がひと言で返したら、日和は「ぐっすぅ」と声を出して半ベソかいてる。しまった。また悲しませてしまったかな。
「ああ、悪かったよ、泣くな……って、痛ってぇ!」
いきなり右の太ももに、つねられたような痛みが走った。前を歩く高柳が振り返る。
「どうした?」
「いや、何でもない。早くカラオケに『行きて~』って言っただけ」
「今向かってるだろ? バカか」
高柳はまた前を向いて歩きだした。
なんとかごまかせたみたいだ。
右側を見ると、神凪が何食わぬ顔で歩いてる。こいつがつねったな。なんでいきなりそんなことをするんだよ? 俺、何か悪いことでもしたか?
「何すんだよ?」
小声で話しかけると、神凪は素知らぬふりで「何が?」って返しやがった。
「どうでもいいけど、イチャコラしてる場合じゃないのよ。あんた今日の目的わかってんの? 単に遊びに行くんじゃないんだから」
神凪は不満げな小声でボソボソと言う。
「え? 遊びに行くんじゃないの?」
てっきり神凪がカラオケしたくて、うずうずして『今日行こう』って言ったのかと思った。
「あほか。高柳君に憑く邪神を観察しに行くに決まってるでしょ」
そうなのか。全然思いもよらなかった。
そうだとわかってたら、一緒に行くのを全力で拒否ったのに。面倒なことは嫌だ。
「なに、ボソボソと喋ってるのかな?」
高柳が怪訝な顔で振り返る。
こりゃ、嫉妬に溢れた顔だ。
俺が人気女子と話すようなことがあると、いつも向けられてた顔。嫉妬だったり、嫌悪だったり。だからできるだけ日和やこの神凪とも、人前では話さないようにしてるのになぁ。
「ごめんなさい、高柳君。この前の地鎮祭《じちんさい》のことで、問題がなかったか、柴崎君にお聞きしてたの」
「そういえば、そのチンチンさい。俺もやってくれよ~」
思い出したように言う高柳に、神凪は苦笑いを浮かべる。
「あの……地鎮祭ね」
「えっ? なんだって?」
「地鎮祭」
「あれ? 俺、さっきなんて言ったっけ?」
「高柳君は間違えて、チンチ……」
神凪はそこまで言って、顔を真っ赤にして口ごもった。こいつ、案外うぶなのか?
「え? なんだって? 聞こえなーい」
高柳は耳の後ろに手のひらを当てて、わざとらしく聞き直してる。こいつはセクハラおじさんか?
高柳の肩に座った邪神もにやにやしてる。
邪神のせいで高柳がこんな態度を取るのか、こんな態度だから邪神に取り憑かれるのか、どっちだ?
「その地鎮祭っていうのはね、建物を新築する前にするものなの。高柳君の所も、新築するご予定はあるのかしら?」
高柳はきょとんとした。
「いや……ないな」
「じゃあまた新築することになったら、ぜひ神凪神社をご利用くださいね」
おおっ、うまいこと切り抜けたな。なかなかやるじゃないか、神凪さくら。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる