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【42:伝えたいこと】
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今まで俺は自分に自信がなくて、捻くれたことばっかり言ってた。だけどさくらと接して、俺に好意を持ってくれてることがわかった。
さくらはなんだかんだ言って可愛いと思うし、一緒にいて楽しい。気がついたら好きだって気持ちが芽生えてた。
それにロリ神様のおかげで、強い思いがあれば俺にもやれることがあるんだと気づいた。そして今までの自分は、逃げてばっかりだったんだとわかった。
日和がなにを考えてるのかは、正直よくわからない。長年近くにいて唯一俺と仲良くしてくれてる日和には、ホントは感謝してる。──っていうか、感謝すべき存在なんだと、ようやく最近気づいた。
日和は、最初はさくらと俺が仲良くするのを気に入らないのかと思うこともあった。
だけど急にさくらとの仲が進展するように、励ましてるというか、急かすようなことを言い出した。日和の態度の変化は、いったいなぜなのか不思議だ。
でも日和の策略──いや心遣いで、さくらと二人きりで話す機会ができたことは間違のない事実だ。
しかしたった10分しかない。ここで逃げないで俺の気持ちをさくらに伝えることができるのか、試されてる気がする。
誰に? 誰に試されてる?
そんなことはわからないし、まあどうでもいいことか。
「あ、あのさぁ、さくら」
「ん? なに?」
さくらは目を細めた笑顔で俺を見つめる。
「ちょっと伝えたいことがあって」
「うん?」
「いや、あの……俺のファンクラブ会員とか言ってくれてありがとな。陰キャな俺なのに」
「改まってどうしたの? 天心君はちょっとクールだったり、コミュニケーションが苦手だったりするけど、別に陰キャだなんて思ってない」
「そ、そっか?」
「うん、そうだよ。それに何度も助けてもらったし、ホントに感謝してる」
さくらは照れたような笑顔で、少し視線を横にそらした。頰が赤くなってて可愛い。
「お、俺もさ……」
「ん?」
なんだろって顔で俺を見てる。ああ、そんなに見つめられたら余計に言いにくい。でもちゃんと伝えなきゃ。逃げてたら今までと同じだ。
「俺は、さくらのことが、す、す……」
「えっ?」
「すっごくイイやつだと思ってる」
「あ、ありがと」
ああ、ちゃんと言えない。でもさくらはニコッと笑ってる。たかがこんな言葉でも、こんなに喜んでくれるんだな。
──でもやっぱダメだ。無理だよ。言えねぇよ。俺の辞書に「好きです」なんて言葉はない。いや、あるか。なかったら困るな。
俺の周りでも男子が女子に告ったとか、告られたとかいう話を時々耳にしたけど、そんなことができるヤツは、やっぱ勇者だよな。
ああ、ヤメだ、ヤメ。やっぱり俺にはムリー!
俺は勇者にはなれない。せいぜい頑張って、宿屋の主人だ。いや、俺はいったい何を言ってるんだ? 自分で自分がわけわからん。
さくらを見ると、照れたような笑顔。可愛い。胸の奥がきゅーっと絞られるような感覚になる。何か期待してるような顔にも見える。やっぱ逃げちゃダメか。さくらに対しても失礼だよな。
がんばれ、俺! もっとちゃんと気持ちを伝えるんだ。ほら、がんばれ、柴崎天心!!
「それとさ、さくらの顔を見ると、ドキドキしたり、嬉しくなるんだよ。これって……」
ああ、ここから先の言葉が出ない。息苦しい。どうしよう? 俺、呼吸困難で死ぬかも。ああ、お父さんお母さん、今までありがとう。
──なんて、死ぬかいなっ!
俺はいったい何をやってんだ。さくらは戸惑いながらも、俺の次の言葉をじっと待ってるじゃないか。
「あの……これって……俺はさくらに恋してる……んだと思う」
あ、いきなり言葉が出た。しかもなんかカッコつけたようなことを言っちゃって恥ずい。
「えっ? 天心君、からかわないで」
「からかってない。本気で言ってる。俺、さくらのことが好きだ」
よし! 今度はちゃんと言えた。さくらは突然の俺の告白に、目を見開いて口もぽかんと開けたまま固まってる。
あちゃ、失敗したか? あまりに俺がマジ過ぎて、さくらはきっと引いちゃったんだ。
『冗談だ』ってごまかしたい気持ちが湧き上がるけど、それは逃げることだからダメだ。最後までがんばれ俺!
「そういうことなんで、本気の気持ちを伝えとこうと思いました!」
俺はぺこっと頭を下げて、そして顔を上げてさくらの顔を見た。
そしたら──
さくらは顔をくしゃくしゃにして笑って、そして目に涙をいっぱい浮かべてる。泣き笑いって、まさにそんな顔。
「私もね、私もね。天心君が好きだよ」
うわっ、やった! やったよ俺!!
さくらの言葉は、俺の胸の奥にぐぐっと刺さった。良かった。こんなに嬉しい気持ちは生まれて初めてだ。
「あ、ありがとう」
さくらが可愛くて可愛くて、抱きしめたい。だけど日和と二階堂がすぐに戻ってくるだろうから、ぐっと我慢した。
しばらくさくらも俺も何も言わないで、見つめ合ってた。なんだか柔らかな風を肌に感じる。
でもようやく自分の気持ちを素直に伝えられてよかった。それは今まで自分が一番苦手というか、避けてきたこと。
俺もほんの少しは成長できたな。ははっ、自分で自分を褒めておこう。
「ただいま~お待たせしましたぁ」
突然後ろから日和の声が聞こえて我に返った。
「あ、おかえり」
さくらが答えながら、慌てて白衣《びゃくえ》の袖で涙を拭ってる。日和が俺をチラッと見たから、ウィンクで答えた。
日和はニコッと笑顔を返してくれた。二階堂は何も気づいてないのか、淡々とした表現だ。
「じゃあさっき言ってたように、先に境内を案内してから、本殿を見てもらうね」
さくらの後に三人が付いて境内を歩く。さくらは樹齢約700年と言われる大銀杏の樹を見せてくれた。
でけぇ! なんらかの霊力が宿ってる感じがする。
他にも不思議な水音が聞こえる井戸とか、有名な俳人が座ったとされる石など、こんな小さな神社にしては凄いモノがいっぱいあって驚いた。
さくらはそれらを案内して説明しながら、時々俺と目が合うとニコッと笑顔を向けてくれた。俺も笑顔を返す。
何か二人だけで通じ合ってるという感覚が、頭が痺れるほど心地いい。
そっか。これが恋か。これが両想いってやつか。うんうん。ついついにやけてしまう。
「じゃあ次は本殿の中に入りましょう」
建物の中に入る前に、みんなで本殿正面の賽銭箱にお金を入れて、二礼、二拍手、一礼をする。
そして靴を脱いで、目の前にある横幅の広い木製の階段を上る。
階段を上ってすぐ目の前には、木製の大きな格子状の壁というか衝立《ついたて》があり、さくらは真ん中からそれを左右にガラガラと開いた。
普段は閉めてあるけど、神事を行う時にはこうやって開け放つのだそうだ。
格子の衝立を開けると少し広いスペースになっていて、向こうの方にはなんと神主さんが立っている。あ、地鎮祭で見かけた神主さんだ。ということは、つまり、さくらのお父さん。
うわ、どうしよう。別に悪いことをしたわけじゃないけど、さっきさくらに告白して、その直後にお父さんと顔を合わせるなんて、めちゃくちゃ気まずい!
「やぁ、さくらの友達の皆さん。神凪神社へようこそ。今日は特別に、皆さんの安全や幸せをご祈祷してしんぜよう」
神主は満面の笑みを浮かべてる。
「みんなへの、ちょっとしたサプライズよ。せっかく来てくれるし、お父さんにお願いしといたの」
「へ~っ、やったあ!」
「ほぉ、面白い」
さくらと二階堂は喜んでる。
俺は黙ってさくらに笑いかけた。
さすがにお父さんがいるからか、さくらは何も言わずに、照れた笑いだけ浮かべた。
さくらはなんだかんだ言って可愛いと思うし、一緒にいて楽しい。気がついたら好きだって気持ちが芽生えてた。
それにロリ神様のおかげで、強い思いがあれば俺にもやれることがあるんだと気づいた。そして今までの自分は、逃げてばっかりだったんだとわかった。
日和がなにを考えてるのかは、正直よくわからない。長年近くにいて唯一俺と仲良くしてくれてる日和には、ホントは感謝してる。──っていうか、感謝すべき存在なんだと、ようやく最近気づいた。
日和は、最初はさくらと俺が仲良くするのを気に入らないのかと思うこともあった。
だけど急にさくらとの仲が進展するように、励ましてるというか、急かすようなことを言い出した。日和の態度の変化は、いったいなぜなのか不思議だ。
でも日和の策略──いや心遣いで、さくらと二人きりで話す機会ができたことは間違のない事実だ。
しかしたった10分しかない。ここで逃げないで俺の気持ちをさくらに伝えることができるのか、試されてる気がする。
誰に? 誰に試されてる?
そんなことはわからないし、まあどうでもいいことか。
「あ、あのさぁ、さくら」
「ん? なに?」
さくらは目を細めた笑顔で俺を見つめる。
「ちょっと伝えたいことがあって」
「うん?」
「いや、あの……俺のファンクラブ会員とか言ってくれてありがとな。陰キャな俺なのに」
「改まってどうしたの? 天心君はちょっとクールだったり、コミュニケーションが苦手だったりするけど、別に陰キャだなんて思ってない」
「そ、そっか?」
「うん、そうだよ。それに何度も助けてもらったし、ホントに感謝してる」
さくらは照れたような笑顔で、少し視線を横にそらした。頰が赤くなってて可愛い。
「お、俺もさ……」
「ん?」
なんだろって顔で俺を見てる。ああ、そんなに見つめられたら余計に言いにくい。でもちゃんと伝えなきゃ。逃げてたら今までと同じだ。
「俺は、さくらのことが、す、す……」
「えっ?」
「すっごくイイやつだと思ってる」
「あ、ありがと」
ああ、ちゃんと言えない。でもさくらはニコッと笑ってる。たかがこんな言葉でも、こんなに喜んでくれるんだな。
──でもやっぱダメだ。無理だよ。言えねぇよ。俺の辞書に「好きです」なんて言葉はない。いや、あるか。なかったら困るな。
俺の周りでも男子が女子に告ったとか、告られたとかいう話を時々耳にしたけど、そんなことができるヤツは、やっぱ勇者だよな。
ああ、ヤメだ、ヤメ。やっぱり俺にはムリー!
俺は勇者にはなれない。せいぜい頑張って、宿屋の主人だ。いや、俺はいったい何を言ってるんだ? 自分で自分がわけわからん。
さくらを見ると、照れたような笑顔。可愛い。胸の奥がきゅーっと絞られるような感覚になる。何か期待してるような顔にも見える。やっぱ逃げちゃダメか。さくらに対しても失礼だよな。
がんばれ、俺! もっとちゃんと気持ちを伝えるんだ。ほら、がんばれ、柴崎天心!!
「それとさ、さくらの顔を見ると、ドキドキしたり、嬉しくなるんだよ。これって……」
ああ、ここから先の言葉が出ない。息苦しい。どうしよう? 俺、呼吸困難で死ぬかも。ああ、お父さんお母さん、今までありがとう。
──なんて、死ぬかいなっ!
俺はいったい何をやってんだ。さくらは戸惑いながらも、俺の次の言葉をじっと待ってるじゃないか。
「あの……これって……俺はさくらに恋してる……んだと思う」
あ、いきなり言葉が出た。しかもなんかカッコつけたようなことを言っちゃって恥ずい。
「えっ? 天心君、からかわないで」
「からかってない。本気で言ってる。俺、さくらのことが好きだ」
よし! 今度はちゃんと言えた。さくらは突然の俺の告白に、目を見開いて口もぽかんと開けたまま固まってる。
あちゃ、失敗したか? あまりに俺がマジ過ぎて、さくらはきっと引いちゃったんだ。
『冗談だ』ってごまかしたい気持ちが湧き上がるけど、それは逃げることだからダメだ。最後までがんばれ俺!
「そういうことなんで、本気の気持ちを伝えとこうと思いました!」
俺はぺこっと頭を下げて、そして顔を上げてさくらの顔を見た。
そしたら──
さくらは顔をくしゃくしゃにして笑って、そして目に涙をいっぱい浮かべてる。泣き笑いって、まさにそんな顔。
「私もね、私もね。天心君が好きだよ」
うわっ、やった! やったよ俺!!
さくらの言葉は、俺の胸の奥にぐぐっと刺さった。良かった。こんなに嬉しい気持ちは生まれて初めてだ。
「あ、ありがとう」
さくらが可愛くて可愛くて、抱きしめたい。だけど日和と二階堂がすぐに戻ってくるだろうから、ぐっと我慢した。
しばらくさくらも俺も何も言わないで、見つめ合ってた。なんだか柔らかな風を肌に感じる。
でもようやく自分の気持ちを素直に伝えられてよかった。それは今まで自分が一番苦手というか、避けてきたこと。
俺もほんの少しは成長できたな。ははっ、自分で自分を褒めておこう。
「ただいま~お待たせしましたぁ」
突然後ろから日和の声が聞こえて我に返った。
「あ、おかえり」
さくらが答えながら、慌てて白衣《びゃくえ》の袖で涙を拭ってる。日和が俺をチラッと見たから、ウィンクで答えた。
日和はニコッと笑顔を返してくれた。二階堂は何も気づいてないのか、淡々とした表現だ。
「じゃあさっき言ってたように、先に境内を案内してから、本殿を見てもらうね」
さくらの後に三人が付いて境内を歩く。さくらは樹齢約700年と言われる大銀杏の樹を見せてくれた。
でけぇ! なんらかの霊力が宿ってる感じがする。
他にも不思議な水音が聞こえる井戸とか、有名な俳人が座ったとされる石など、こんな小さな神社にしては凄いモノがいっぱいあって驚いた。
さくらはそれらを案内して説明しながら、時々俺と目が合うとニコッと笑顔を向けてくれた。俺も笑顔を返す。
何か二人だけで通じ合ってるという感覚が、頭が痺れるほど心地いい。
そっか。これが恋か。これが両想いってやつか。うんうん。ついついにやけてしまう。
「じゃあ次は本殿の中に入りましょう」
建物の中に入る前に、みんなで本殿正面の賽銭箱にお金を入れて、二礼、二拍手、一礼をする。
そして靴を脱いで、目の前にある横幅の広い木製の階段を上る。
階段を上ってすぐ目の前には、木製の大きな格子状の壁というか衝立《ついたて》があり、さくらは真ん中からそれを左右にガラガラと開いた。
普段は閉めてあるけど、神事を行う時にはこうやって開け放つのだそうだ。
格子の衝立を開けると少し広いスペースになっていて、向こうの方にはなんと神主さんが立っている。あ、地鎮祭で見かけた神主さんだ。ということは、つまり、さくらのお父さん。
うわ、どうしよう。別に悪いことをしたわけじゃないけど、さっきさくらに告白して、その直後にお父さんと顔を合わせるなんて、めちゃくちゃ気まずい!
「やぁ、さくらの友達の皆さん。神凪神社へようこそ。今日は特別に、皆さんの安全や幸せをご祈祷してしんぜよう」
神主は満面の笑みを浮かべてる。
「みんなへの、ちょっとしたサプライズよ。せっかく来てくれるし、お父さんにお願いしといたの」
「へ~っ、やったあ!」
「ほぉ、面白い」
さくらと二階堂は喜んでる。
俺は黙ってさくらに笑いかけた。
さすがにお父さんがいるからか、さくらは何も言わずに、照れた笑いだけ浮かべた。
応援ありがとうございます!
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