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【56:勇気を振り絞って】
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「あのね。私ね。天心君と……キ、キ……」
さくらがすごく言いにくそうに言葉に詰まりながら、何かを言おうとしてる。さっきの日和からさくらへのメッセージで、俺とのキスを促すようなことが書いてあったんだから、きっとさくらが言おうとしてるのはキスという言葉なんだろう。
「はぁ~……私ってダメね」
さくらは下を向いて大きくため息をついた。
「えっ? 何が?」
「いやっ、なんでもない!」
さくらは慌てて首を左右に振った。やっぱりキスしようとか言おうとしてるに違いない。
女の子にそんなことを言わせていいのか? 俺だってホントはさくらとキスをしたい。だけど──俺だって、キスしようなんてセリフは、絶対に言えっこない。
その時俺のスマホがブルブル震えた。画面を見ると日和からのメッセージだ。なんだろ?
『女の子にキスしたいなんて、言わせたらダメですよぉ~天心君!』
うわっ、図星だ。でも自分からキスをしたいって言うなんて、恥ずかしすぎて無理だ。どうしたらいいんだ?
きっとキスって言葉を口にすることすら、俺には不可能。かと言って、何も言わずに雰囲気でキスを求めるとか、高等テクニックも俺には無理ー!
そう考えてたら、日和から続きのメッセージが来た。
『可愛い可愛い日和ちゃんから、天心君へのアドバイスで~す!』
アドバイス? なんだそりゃ。
「どうしたの? 日和ちゃんから?」
続きを読み始めたら、さくらが俺のスマホ画面を覗き込もうとしてきた。
「う、うん」
「日和ちゃんはなんて?」
「いや、なんでもないよ。ごゆっくり……だって」
「あ、そうなんだ」
スマホの画面を消して、さくらとは反対側のベンチの上に置いた。さくらの横でじっくりアドバイスを読むなんてムリだ~!
またさくらも俺も、じっと夜景を眺めて黙り込んでしまった。
俺はベンチの上に置いたままのスマホの電源を押して、日和からのメッセージを表示した。そしてそれをチラッと見る。
あ、なるほど。これならじっくりアドバイスを読むことができるかも。さすが日和だっ! でも……やっぱり緊張する。
「あ、あのさぁ、さくら」
「ん? なに?」
さくらはゆっくりと俺の方に顔を向けた。さくらも緊張してるみたいで、ちょっと目が潤んでる。俺もドキドキが止まらない。
ああ、じっくり見ると、やっぱりさくらってめちゃくちゃ可愛いな。そしてぷるんとした唇がつやつやしてる。ああ、この唇を俺が……いや、焦るな焦るな。
「ちょっと質問したいんだけどいい?」
「えっ、質問? いいよ。改まって何?」
「質問する前に、ちょっと恥ずかしいから、目を閉じてくれる?」
「目を……閉じるの?」
「うん」
さくらは不思議そうな顔をしてちょっと小首を傾げたけど、笑顔を浮かべて「いいよ」と言った。そして俺の方を向いたまま、すっと目を閉じる。目を閉じた顔が、これまた可愛い。
「これでいい?」
「うん。じゃあ質問するよ。絶対に目は開けないでくれよ」
「うん」
俺はスマホを取り出して、日和からのメッセージを読む。こうして目を閉じてもらったら、日和のアドバイスをじっくり読むことができる。それにこの日和のアドバイス通りのことなら、なんとか言えそうだ。
「じゃあ一つ目の質問ね。あのさぁ、日和が俺には秘めたる力のあるって言ってたろ?」
「うん」
「あれ、さくらは信じてる?」
「ん~……」
さくらは目を閉じたまま、また小首を傾げた。迷ってるみたいだ。
「正直わかんない。でも天心君って不思議な霊力を持ってるから、それのことかなぁって思う」
「そっか。実は俺自身も、ホントにそんな秘めた力なんてあるのか、疑問に思ってるんだ」
「そうなの?」
スマホで日和からのアドバイスの続きにさっと目を通して、そのとおりの質問をする。
「うん。じゃあ二つ目の質問。俺にホントに秘められた力があるかどうか、それがホントに解放されるのか、さくらは確認してみたいと思う?」
「えっ?……」
日和が言ってたのは、『俺を愛する女性と俺がキスしたら、秘めたる力が解放される』って内容だ。ということは、それを確認するためには、さくらが俺とキスをする必要があるってこと。
質問の意味にさくらは気づいたか、どうだろうか? 俺はさくらの顔をじっと見つめて、その返事を待つ。喉がカラカラだ。
さくらは戸惑いながら、小さく「うん」と言って恥ずかしそうにコクリとうなづいた。その仕種からしたら、さくらは質問の意図をわかった上で、うんって答えたんだ。さくらは俺と、キスをしてもいいって返事してくれたんだよっ!
日和のおかげだ! キスという言葉を言わずに、さくらの気持ちを確認することができた!!
「そっか……実は俺も、それを確認したいと思ってる」
「えっ?」
さくらは思わず目を開けようとする。
「ダメだ、さくら! 目はまだ開けないでくれ! 恥ずかしすぎる!」
「あっ、ごめん!」
俺の声で、さくらは改めて目を閉じた。あーびっくりした。やばいやばい。
後は俺が勇気を振り絞って、さくらの唇に……さくらの唇に、俺の唇を重ねるだけだ。でも──その勇気が出ない。俺の身体は固まってしまってて動かない。
さくらの顔を見たら、心なしか唇を尖らせてる。ああ、これは! さくらもきっと心の準備をしてくれてるんだ! なのに動けない自分が情けない。
その時スマホ画面が光って、日和からのメッセージが表示された。
『天心君がショッピングモールでみんなを助けようとして、勇気を振り絞った時のことを思い出すですよ~! がんばれー!』
そうだ。あの時。俺はさくらや日和を助けたいって強く思って、普段の自分なら信じられないけど、邪々神に立ち向かっていくことができた。俺がさくらを好きな気持ちがホンモノなら、きっとまた勇気を出せるに違いない。
自分で自分にそう言い聞かせたら、身体が動いた。
──よしっ!
心の中で気合を入れて、顔をさくらの顔に近づける。
──ああ、やばっ。めっちゃ心臓がばくばく言ってる。
さくらの顔が、もう目の前だ。さくらの唇がぷるぷると震えてる。さくらもかなり緊張してるんだ。俺の吐息がかかってさくらも俺の顔がすぐ近くまで迫ってることに気づいたようで、さくらの吐息も荒くなる。
ここで色々考えたら、きっと俺はまた動きが固まってしまう。もう何も考えるな! って自分で自分に発破をかける。
──行けっ! 行くんだ、俺! がんばれ天心!!!!
俺の唇に、さくらの唇のぷにっとした感触が伝わってきた。これがさくらの唇の感触。温かくて、柔らかくて……
──な、なんて気持ちいいんだ~!!
俺はもう頭の中がぐるぐる回って、何がなんだかわからない。唇は合わせたものの、これからどうしたらいいのかもわからない! ああ、どうしたらいいんだぁ!?
うわっ、息が苦しい! どうしよう!?
息を止めてさくらの唇に俺の唇を合わせてたから、もう息が続かない。仕方なく少しだけ唇を離して、息継ぎをした。
するとさくらが両腕を俺の首に回してきた。そしてさくらは腕にぐっと力を入れて、俺の首を抱きしめる。さっきよりも唇が密着してる。
俺も思わずさくらの背中に両腕を回して、背中を抱きしめた。さくらがとっても愛しい。心の奥から、どんどん『さくらが好きだ』って感情があふれてくる。あふれてあふれて、胸が爆発しそう。
また息が苦しくなってきたから唇を少し離そうとしたら、さくらも腕の力を少し緩めてくれた。間近のさくらの顔を見ると、頬が赤く染まってとても色っぽい。
「さくら、好きだ。大好きだ」
考えるともなく、心の底からの気持ちをさくらの耳元でついつい囁いてしまってた。さくらはゆっくりと瞼を開いて、俺の顔を見つめる。
「天心君。私も大好き」
甘い吐息とともに、さくらも囁いた。ああ、もう何がなんだかわからないくらい幸せだ──
俺がまたさくらの背中をぎゅっと抱きしめると、さくらも両腕を俺の背中に回して、ぎゅーっと抱きついてきた。
どれくらい抱きしめ合ってたんだろうか。すごーく長い時間のようにも思えるし、案外短い時間だったのかもしれない。どちらからともなく体を離して、お互いの顔を見つめ合った。なんだか恥ずかしい。
さくらはふと思い出したように言った。
「天心君、何か変化はある? 秘めたる力が解放された?」
「いや……変化があるって言えばあるし、ないって言えばないな」
「どういうこと?」
秘めたる力が解放されるなんてことは全然感じられない。変化と言ったら、さくらへの想いが今までよりも大きくなって、さくらが愛しくて愛しくて仕方なくなってるってことだ。
その時、またスマホがぶるぶると震えて日和からのメッセージが届いた。さくらのスマホも震えてる。二人ともスマホを手にして、画面を見つめる。
「あっ、日和ちゃんからだ」
さくらの方も日和からのメッセージ。どうやら日和は、俺とさくらに同時にメッセージを送ったようだ。
「はぁ~っ!?」
日和からのメッセージを読んで、俺は思わず呆れた声を出してしまった。
「くそっ、日和のヤツめ! 秘めたる力なんて、適当なことを言いやがって!」
さくらも日和のメッセージを読んで、ぷっと吹き出した。
「ねえ天心君。適当なことって言うか、日和ちゃんの心遣いだね」
「あ、ああ。そうとも言うな」
「だって日和ちゃんのおかげで……私たち、き……キスすることができたんだから」
「ああ、そ、そうだな。それは間違いない」
俺は恋愛なんてからっきし苦手だし、正直言って今でもさくらとどう接したらいいのかわからない。だけど今までと違うのは、さくらのことがホントに大好きで、大切にしたいって想うこと。そしてそれをさくらには正直に言えるようになったってことだ。
「あ、夜景がなんだかさっきよりも綺麗!」
急にさくらが出した声に、俺も夜景を見た。
「ホントだ。さっきよりも綺麗だな!」
「うん!」
実際には夜景が急に変化するはずもない。さっきよりも綺麗に見えるのは、夜景が変化したんじゃなくて、俺たちの気持ちが変化したせいなんだと思う。
そうやって俺とさくらは、ずーっと飽きもしないで夜景を眺めていた。
──さくら、ありがとう。大好きだ。
そう思いながら、夜景を熱心に見入るさくらの姿を見つめたら、さくらがふと俺の方を向いた。俺の視線に気づいたさくらは、にこっと笑った。
「さくら。これからもよろしく」
「うん、天心君。私のほうこそよろしく」
さくらは照れた顔で、ぺこっと頭を下げた。やっぱりさくらは可愛い。
さくら、これからもホントによろしくな!
◆◇◆
日和から二人に宛てたメッセージはこうだった。
『さくらちゃんが天心君にキスをすると、覚醒する天心君の秘めたる力。それは、天心君がさくらちゃん大好きだーっ!って想いが強くなって、素直にそれを言えるようになる力でーす!』
確かに俺は、日和のメッセージを見る前に、さくらに『大好きだ』って言ってしまってた。まさに日和の思う壺だったってワケだ。日和のヤツめ。
──日和……ホントにありがとな。
-- 完 --
さくらがすごく言いにくそうに言葉に詰まりながら、何かを言おうとしてる。さっきの日和からさくらへのメッセージで、俺とのキスを促すようなことが書いてあったんだから、きっとさくらが言おうとしてるのはキスという言葉なんだろう。
「はぁ~……私ってダメね」
さくらは下を向いて大きくため息をついた。
「えっ? 何が?」
「いやっ、なんでもない!」
さくらは慌てて首を左右に振った。やっぱりキスしようとか言おうとしてるに違いない。
女の子にそんなことを言わせていいのか? 俺だってホントはさくらとキスをしたい。だけど──俺だって、キスしようなんてセリフは、絶対に言えっこない。
その時俺のスマホがブルブル震えた。画面を見ると日和からのメッセージだ。なんだろ?
『女の子にキスしたいなんて、言わせたらダメですよぉ~天心君!』
うわっ、図星だ。でも自分からキスをしたいって言うなんて、恥ずかしすぎて無理だ。どうしたらいいんだ?
きっとキスって言葉を口にすることすら、俺には不可能。かと言って、何も言わずに雰囲気でキスを求めるとか、高等テクニックも俺には無理ー!
そう考えてたら、日和から続きのメッセージが来た。
『可愛い可愛い日和ちゃんから、天心君へのアドバイスで~す!』
アドバイス? なんだそりゃ。
「どうしたの? 日和ちゃんから?」
続きを読み始めたら、さくらが俺のスマホ画面を覗き込もうとしてきた。
「う、うん」
「日和ちゃんはなんて?」
「いや、なんでもないよ。ごゆっくり……だって」
「あ、そうなんだ」
スマホの画面を消して、さくらとは反対側のベンチの上に置いた。さくらの横でじっくりアドバイスを読むなんてムリだ~!
またさくらも俺も、じっと夜景を眺めて黙り込んでしまった。
俺はベンチの上に置いたままのスマホの電源を押して、日和からのメッセージを表示した。そしてそれをチラッと見る。
あ、なるほど。これならじっくりアドバイスを読むことができるかも。さすが日和だっ! でも……やっぱり緊張する。
「あ、あのさぁ、さくら」
「ん? なに?」
さくらはゆっくりと俺の方に顔を向けた。さくらも緊張してるみたいで、ちょっと目が潤んでる。俺もドキドキが止まらない。
ああ、じっくり見ると、やっぱりさくらってめちゃくちゃ可愛いな。そしてぷるんとした唇がつやつやしてる。ああ、この唇を俺が……いや、焦るな焦るな。
「ちょっと質問したいんだけどいい?」
「えっ、質問? いいよ。改まって何?」
「質問する前に、ちょっと恥ずかしいから、目を閉じてくれる?」
「目を……閉じるの?」
「うん」
さくらは不思議そうな顔をしてちょっと小首を傾げたけど、笑顔を浮かべて「いいよ」と言った。そして俺の方を向いたまま、すっと目を閉じる。目を閉じた顔が、これまた可愛い。
「これでいい?」
「うん。じゃあ質問するよ。絶対に目は開けないでくれよ」
「うん」
俺はスマホを取り出して、日和からのメッセージを読む。こうして目を閉じてもらったら、日和のアドバイスをじっくり読むことができる。それにこの日和のアドバイス通りのことなら、なんとか言えそうだ。
「じゃあ一つ目の質問ね。あのさぁ、日和が俺には秘めたる力のあるって言ってたろ?」
「うん」
「あれ、さくらは信じてる?」
「ん~……」
さくらは目を閉じたまま、また小首を傾げた。迷ってるみたいだ。
「正直わかんない。でも天心君って不思議な霊力を持ってるから、それのことかなぁって思う」
「そっか。実は俺自身も、ホントにそんな秘めた力なんてあるのか、疑問に思ってるんだ」
「そうなの?」
スマホで日和からのアドバイスの続きにさっと目を通して、そのとおりの質問をする。
「うん。じゃあ二つ目の質問。俺にホントに秘められた力があるかどうか、それがホントに解放されるのか、さくらは確認してみたいと思う?」
「えっ?……」
日和が言ってたのは、『俺を愛する女性と俺がキスしたら、秘めたる力が解放される』って内容だ。ということは、それを確認するためには、さくらが俺とキスをする必要があるってこと。
質問の意味にさくらは気づいたか、どうだろうか? 俺はさくらの顔をじっと見つめて、その返事を待つ。喉がカラカラだ。
さくらは戸惑いながら、小さく「うん」と言って恥ずかしそうにコクリとうなづいた。その仕種からしたら、さくらは質問の意図をわかった上で、うんって答えたんだ。さくらは俺と、キスをしてもいいって返事してくれたんだよっ!
日和のおかげだ! キスという言葉を言わずに、さくらの気持ちを確認することができた!!
「そっか……実は俺も、それを確認したいと思ってる」
「えっ?」
さくらは思わず目を開けようとする。
「ダメだ、さくら! 目はまだ開けないでくれ! 恥ずかしすぎる!」
「あっ、ごめん!」
俺の声で、さくらは改めて目を閉じた。あーびっくりした。やばいやばい。
後は俺が勇気を振り絞って、さくらの唇に……さくらの唇に、俺の唇を重ねるだけだ。でも──その勇気が出ない。俺の身体は固まってしまってて動かない。
さくらの顔を見たら、心なしか唇を尖らせてる。ああ、これは! さくらもきっと心の準備をしてくれてるんだ! なのに動けない自分が情けない。
その時スマホ画面が光って、日和からのメッセージが表示された。
『天心君がショッピングモールでみんなを助けようとして、勇気を振り絞った時のことを思い出すですよ~! がんばれー!』
そうだ。あの時。俺はさくらや日和を助けたいって強く思って、普段の自分なら信じられないけど、邪々神に立ち向かっていくことができた。俺がさくらを好きな気持ちがホンモノなら、きっとまた勇気を出せるに違いない。
自分で自分にそう言い聞かせたら、身体が動いた。
──よしっ!
心の中で気合を入れて、顔をさくらの顔に近づける。
──ああ、やばっ。めっちゃ心臓がばくばく言ってる。
さくらの顔が、もう目の前だ。さくらの唇がぷるぷると震えてる。さくらもかなり緊張してるんだ。俺の吐息がかかってさくらも俺の顔がすぐ近くまで迫ってることに気づいたようで、さくらの吐息も荒くなる。
ここで色々考えたら、きっと俺はまた動きが固まってしまう。もう何も考えるな! って自分で自分に発破をかける。
──行けっ! 行くんだ、俺! がんばれ天心!!!!
俺の唇に、さくらの唇のぷにっとした感触が伝わってきた。これがさくらの唇の感触。温かくて、柔らかくて……
──な、なんて気持ちいいんだ~!!
俺はもう頭の中がぐるぐる回って、何がなんだかわからない。唇は合わせたものの、これからどうしたらいいのかもわからない! ああ、どうしたらいいんだぁ!?
うわっ、息が苦しい! どうしよう!?
息を止めてさくらの唇に俺の唇を合わせてたから、もう息が続かない。仕方なく少しだけ唇を離して、息継ぎをした。
するとさくらが両腕を俺の首に回してきた。そしてさくらは腕にぐっと力を入れて、俺の首を抱きしめる。さっきよりも唇が密着してる。
俺も思わずさくらの背中に両腕を回して、背中を抱きしめた。さくらがとっても愛しい。心の奥から、どんどん『さくらが好きだ』って感情があふれてくる。あふれてあふれて、胸が爆発しそう。
また息が苦しくなってきたから唇を少し離そうとしたら、さくらも腕の力を少し緩めてくれた。間近のさくらの顔を見ると、頬が赤く染まってとても色っぽい。
「さくら、好きだ。大好きだ」
考えるともなく、心の底からの気持ちをさくらの耳元でついつい囁いてしまってた。さくらはゆっくりと瞼を開いて、俺の顔を見つめる。
「天心君。私も大好き」
甘い吐息とともに、さくらも囁いた。ああ、もう何がなんだかわからないくらい幸せだ──
俺がまたさくらの背中をぎゅっと抱きしめると、さくらも両腕を俺の背中に回して、ぎゅーっと抱きついてきた。
どれくらい抱きしめ合ってたんだろうか。すごーく長い時間のようにも思えるし、案外短い時間だったのかもしれない。どちらからともなく体を離して、お互いの顔を見つめ合った。なんだか恥ずかしい。
さくらはふと思い出したように言った。
「天心君、何か変化はある? 秘めたる力が解放された?」
「いや……変化があるって言えばあるし、ないって言えばないな」
「どういうこと?」
秘めたる力が解放されるなんてことは全然感じられない。変化と言ったら、さくらへの想いが今までよりも大きくなって、さくらが愛しくて愛しくて仕方なくなってるってことだ。
その時、またスマホがぶるぶると震えて日和からのメッセージが届いた。さくらのスマホも震えてる。二人ともスマホを手にして、画面を見つめる。
「あっ、日和ちゃんからだ」
さくらの方も日和からのメッセージ。どうやら日和は、俺とさくらに同時にメッセージを送ったようだ。
「はぁ~っ!?」
日和からのメッセージを読んで、俺は思わず呆れた声を出してしまった。
「くそっ、日和のヤツめ! 秘めたる力なんて、適当なことを言いやがって!」
さくらも日和のメッセージを読んで、ぷっと吹き出した。
「ねえ天心君。適当なことって言うか、日和ちゃんの心遣いだね」
「あ、ああ。そうとも言うな」
「だって日和ちゃんのおかげで……私たち、き……キスすることができたんだから」
「ああ、そ、そうだな。それは間違いない」
俺は恋愛なんてからっきし苦手だし、正直言って今でもさくらとどう接したらいいのかわからない。だけど今までと違うのは、さくらのことがホントに大好きで、大切にしたいって想うこと。そしてそれをさくらには正直に言えるようになったってことだ。
「あ、夜景がなんだかさっきよりも綺麗!」
急にさくらが出した声に、俺も夜景を見た。
「ホントだ。さっきよりも綺麗だな!」
「うん!」
実際には夜景が急に変化するはずもない。さっきよりも綺麗に見えるのは、夜景が変化したんじゃなくて、俺たちの気持ちが変化したせいなんだと思う。
そうやって俺とさくらは、ずーっと飽きもしないで夜景を眺めていた。
──さくら、ありがとう。大好きだ。
そう思いながら、夜景を熱心に見入るさくらの姿を見つめたら、さくらがふと俺の方を向いた。俺の視線に気づいたさくらは、にこっと笑った。
「さくら。これからもよろしく」
「うん、天心君。私のほうこそよろしく」
さくらは照れた顔で、ぺこっと頭を下げた。やっぱりさくらは可愛い。
さくら、これからもホントによろしくな!
◆◇◆
日和から二人に宛てたメッセージはこうだった。
『さくらちゃんが天心君にキスをすると、覚醒する天心君の秘めたる力。それは、天心君がさくらちゃん大好きだーっ!って想いが強くなって、素直にそれを言えるようになる力でーす!』
確かに俺は、日和のメッセージを見る前に、さくらに『大好きだ』って言ってしまってた。まさに日和の思う壺だったってワケだ。日和のヤツめ。
──日和……ホントにありがとな。
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あたふたしていて、バカにされている。このコンボは最高で、これから2話以降を楽しませていただきます。
感想ありがとうございます!
嬉しいです。
頼りない神様なので、困ったものです(笑)
神凪かわよ
ありがとうございます!