学園のアイドルは料理下手。目立たぬ俺は料理講師~いつの間にやら彼女を虜にしていた件~

波瀾 紡

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【49:春野日向はフォローする?】

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「さ、さあ。勉強するかな」
「そ、そうね。邪魔しちゃ悪いから、私はそろそろ帰ろうかな」

 好きな人がいるのかをお互いに聞こうとして気まずくなったものだから、二人ともその話題から逃げるような感じになった。

「あ、ああ、そうだな。学年トップの日向に少しでも近づけるように、頑張らなきゃいけないからな」
「あ……そうなんだ。じゃあ私も負けないように頑張る」
「お、おう。小宮山に負けられないもんな」
「えっ……? そ、そうだね」

 ──しまった。なんで小宮山の名前なんか出してしまったのだろう。

 そう考えているのに、なぜか俺の口は止まらない。

「小宮山って凄いよなぁ。勉強はできるしイケメンだし、お父さんは国会議員だし。女子はみんなあんな男が好きなんだろうなぁ」
「そ、そうね。ああいう男子が好きな子もいるよね」

 ──好きな子"も"いる?
 日向は少し焦った感じで、まるで自分は違うかのようにも聞こえる言い方をした。実際のところはどうなのだろうか。

「やっぱり女の子は、ああいうハイスペックな男子がいいの……かな?」
「そういう女の子もいるよね。私は……ハイスペックとか全然魅力に思わないけどねーあはは」

 笑いながら日向は、なぜか少しうるうるとした何か言いたげな目で、ジッと上目遣いにこちらを見た。

「あの……ゆ、ゆ、ゆ、ゆ……」
「ん? どうした? お湯なら、下の料理教室に行かないと……」
「違うよっ! ゆ、ゆ、祐也君の方が、み、魅力的だよ……って言いたかったの」
「へっ……!?」

 思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
 俺が……魅力的?
 ──な訳ないのに。

 そこではたと気づいた。
 ハイスペックな小宮山の話を出したものだから、俺が小宮山にコンプレックスを感じているのかと日向は俺に気を使って、フォローするためにお世辞を言ってくれたのだと。

 ──日向はホントにいいヤツだ。

「ありがとう、日向」
「あっ、う、うん……」

 日向は頬を桃のようなピンク色に染めて、恥ずかしそうにしている。そんなに恥ずかしいなら、無理してお世辞なんか言わなくてもいいのに。

 でもこれは話の流れからすると……日向は小宮山のことは、なんとも思ってはいない……ということか?

 ということは、この前高城が小宮山を受け入れるような態度を取ったのは、やはり単に高城の判断だってことだ。

「そう言えば日向」
「えっ?」
「高城って、日向に近づく男子を遠ざけようとしてるのか?」
「あっ……えっと……う、うん」

 急に日向はちょっと困ったような顔になった。やっぱりそうなんだ。

「なんで?」
「千夏は、私がアイドルとしてデビューするために、変な男が近づかないようにしてる……って言ってる」
「えっ? どういうこと?」
「変な男に捕まったらデビューの支障になったり、デビュー後のスキャンダルになるとマズいからって」
「なんでそれを高城が?」
「私がスカウトされた時に千夏も一緒にいたし、私よりもあの子の方が盛り上がってるのよねぇ……」
「そ、そうなのか? でも小宮山は歓迎してたみたいだけど……」
「千夏にとったら、小宮山君は変な男じゃないってことだと思う……まあ私にしたら、他の男子も小宮山君もおんなじだけど……」

 小宮山も他の男子も同じ……
 日向にとっては、小宮山は別に特別な存在でもなんでもないってことか。

 それを聞いて、なぜか胸の奥に温かくて柔らかい何かが、ほわんと湧き上がるような感覚がした。

「それにあの子、ウチの母とも顔見知りで、母からもアイドルデビューするまで日向をよろしくねなんて言われて、自分が頑張らなきゃって思ってるみたい。そんなのやめてって言ってるんだけど、千夏は私のためだと思い込んじゃって、なかなかやめてくれないの」

 日向のお母さんも?
 日向がアイドルとしてデビューすることを望んでいるということなのか?

 いや、そもそも日向がアイドルとしてスカウトされたという話は、その後どうなったのだろう?

「あの……日向って、ホントにアイドルになるの?」
「いや、私は……正直、まだわかんない」

 ──わからない?
 ということは、可能性はあるということか。

 目の前にいるはずの日向が、ギュウーンとはるか彼方に離れて行く感覚に包まれる。

「スカウトされたのは事実だし、母もぜひチャレンジしなさいって言ってるけど、私は……」

 私は……どうなんだ?
 俺は黙ったまま、日向の言葉の続きを待つしかなかった。

「デビューするなら東京に引っ越して来なさいって言われてるし、まだ迷ってるから、しばらく考えさせてくださいって返事をしてる」

 東京に引っ越し?
 ということは、転校するということか。

「迷ってるってことは、日向はアイドルになりたいって気持ちがあるってこと?」
「いや、私は……自分がなりたいって言うより、それが母の望みならそれを叶えてあげたいっていう感じかな」

 ──そうか。アイドルになるっていうのは、決して日向本人の夢とかじゃないんだ。

 日向は俺から逸らした視線を宙に彷徨わせて、眉間に皺を寄せて、唇をキュッと真一文字に結んでいる。

 あっ。──この物憂げで考え込むような表情。

 そうか。日向が初めてウチの料理教室に来た日。その日の昼間に日向は街中でスカウトされたと聞いた。

 あの日、橋の上で見かけた日向は、今のように、アイドルになるべきかどうか考え込んでいたに違いない。

「ああっ、ごめん! もうこんな時間。祐也君の勉強時間を邪魔しちゃったね」

 時計を見ると、確かにさっき俺が休憩時間だと言っていた10分を過ぎている。

 別に10分を過ぎてはいけないわけじゃないけれども、引き止めようかどうしようか迷っているうちに、日向はさっと立ち上がった。

「アイドルになるかどうかは、芸能事務所も待ってくれるって言ってるし、まだ今すぐ決めないといけないわけじゃないから。またゆっくり考えるよ」
「あっ、ああ。そっか」
「じゃあね。試験勉強頑張ってね!」

 日向はニコリと笑い、顔の横で可愛く手を振って、部屋から出て行った。
 その姿があまりに可愛くて、階下まで日向を送って行くことも忘れたまま、俺はその後ろ姿を呆然と見送っていた。
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