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第1章
桜の木
しおりを挟む桜が満開になった暖かい春の日。
私は小さい頃に何度か訪れたことのある、公園の裏で咲き誇っている桜の木の下に座って、ボーっとしていた。舞い散る桜の花びらは、ふわりふわりと踊るように落ち、ピンクの絨毯を作っていく。
その花びらを見るのに飽きた私は、白いトートバッグに入れた推理小説の本を取り出し、読み始めた。小さい頃から本が私の友達で、図書館でずっとこもっているような子供だった。そのおかげで、友達はいなかったし、外で遊ぶこともなかったからか、体は細く、肌は真っ白だった。
もともと、体が弱かったこともあると思うけど。
外で遊んでいる子達が羨ましいと思った。走れる子達が羨ましかった。
推理小説を読んでいるうちに眠気が襲ってくる。読んでいる文字が霞んでくる。私は春の暖かい風に吹かれ、目を閉じた。
1人、公園の隅にある砂場で、山を作って遊んでいた時の事だった。
『ねぇ。』
誰かに声をかけられて振り返ると、可愛らしい黒髪の男の子が私を見ていた。私よりも背が小さく、私よりも幼かった。
『どうしたの?』
小学3年生だった私は、一人っ子だったこともあり、少し緊張しながらも、見るからに私よりも年下の男の子にお姉さん気取りで尋ねた。
『秘密の場所教えてやるよ』
男の子は私に、小さい子扱いされたことがわかったようで、ぷいっとそっぽを向いて拗ねたように言った。
『秘密の場所…?』
そう尋ねた私の、かすれた声は男の子に聞こえないようで、ぱっと私の手を掴むと、スタスタと公園の奥に歩いていく男の子。
手を引かれながら男の子について行くと、レンガの塀の見えないところに、大人でも入れるような穴があった。
『入っていいの…?』
『いいんだよ』
少し震えた声で私が尋ねると、怒ったような口調で男の子は答えた。
男の子に手を繋ががれたままついて行くと、そこには大きな桜の木が私たちを迎え入れるように咲いていた。
『うぁ…!キレイ!』
『だろ?お前、いつでも来ていいよ』
『ホント?嬉しい…!』
その時、私は男の子を見ていなかったけれど、きっとそっぽを向いて、ほっぺをピンクに染めていただろう。
『なぁ、なんで1人で遊んでたの?』
痛いところを突いてくるな。と思いながらも、苦笑いしながら答える。
『友達いないから…』
『…』
私が答えると、男の子は急に黙った。
『あ、えっと…?』
あまりにも長い沈黙に焦った私は、全く口を開いてくれない男の子の顔を見みようと横を見る。
しかし、男の子は顔を背けていて、表情が見えなかった。
『…じゃあ、待ってろよ。俺のこと』
『えっ?』
男の子はズボンのポケットをゴソゴソとし始めたと思ったら、手を出して私にその手を突きつけた。
『やる。』
男の子の手の中に入っていたのは流行っているクマのキャラクターのキーホルダーだった。
『いいの?私このクマさん好きなんだ。』
『そ。』
喜んでいる私を見て、またほっぺをピンクにした男の子はそっぽを向いたまま。
『それが…えっと…約束の印な。』
『うん!』
『次会う時にお前がそれ持ってたら…う……い』
最後の言葉が小さすぎて聞こえなかったけれど、私はまたすぐ会えるような気がして深くは聞かなかった。
ギュッと握られた手が暖かくて、この時間が続いてほしいと思った。
しかしその日、男の子に会ってから、毎日のように「秘密の場所」に行ってみたが、男の子は1度も現れることはなかった。
「ふぁ…。あれ?私寝ちゃってた?」
24歳になって、どこでも寝れちゃうのは良くない気がする…
でも、なんだか懐かしい夢を見たな。あの男の子どこいったんだろう。そういえば名前も聞けなかったな。顔は今でもハッキリと覚えているのに。
もう十五年も前なんだな。
「帰ろうかな」
そうして私が腰をあげた時。
「えっ…?」
秘密の場所の入口で、サラサラの黒髪を桜の花びらと一緒になびかせて、男の人が立っていた。
その姿は、夢で見た思い出の男の子に似ていた。
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