ティエン・タン

山本ハイジ

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 おれはそれよりも壁一面の棚に並べられた小さな水槽のなかの白い魚に気を取られていた。
 ひらひら、ひらひらと光沢のあるきれいな布のような尾びれをひるがえして泳いでいる。
「ベタが気になるかね?」
「ベタ? ベタって用水路とかにいる小さなナマズみたいな魚だよね? こんなのじゃないよ」
「この子たちはそんな野生のベタを品種改良したものだよ」
 品種改良ってなんだろう? 訊く前に子どもが口をはさんできた。
「天使みたいできれいだよね。現人神のリンさまに似てる」
「そうだ、タン。神に会う前にこれを吸ってリラックスしなさい」
 グエン導師がポケットから小箱を取り出し、なかから煙草を一本抜いて渡してくる。
「煙草、ちょうど吸いたかった。グエン導師はおれがほしいものくれる」
「神はもっとくださるよ」
 受け取ってくわえるとグエン導師がマッチも取り出して火を点けてくれる。吸い込んだ途端、青くさいような甘ったるいようなにおいが口のなかいっぱいに広がった。
 至るところでしたにおいの正体はこれか。あまりおいしい煙草じゃない。でもココナッツミルクを口にしたときみたいに頭がふわふわとした。
「よし、神を呼んでこよう」
 吸いおわると、グエン導師が奥にあるドアの向こうへ消えていく。
「いいなあ、はじめは奉仕や供物なしで神に会わせていただけるんだよ」
 おれより背の低い子どもがきらきらした目で見あげてくる。こんな目をした子どもは見たことがない。おじさんたちと同じく、ランタンの光の下にいても暗い目をしていた。
 ややあってドアが開きまずグエン導師が出てきて、それから――神が現れた。
 子どもなのに髪が白かった。でも白いベタの尾びれみたいな髪をしていて、老人のばさばさした黄ばんだ白髪とは全然ちがう。
 肌も白い。内側から白く発光しているみたいにみえる。なにもかも真っ白ななか、目は赤い宝石のようにきらめいていた。こんなにきれいな人間がいるわけがない。神さまだ。
 神はみんなに姿をよく見せようとしているかのように、部屋のまんなかでゆっくりと回ってみせた。
 花の刺繍がされた袖のない赤いブラウスとおそろいの丈の短いズボンを神は着ていて、ブラウスの背中は大きく開いている。
 神の両肩には羽根と、背筋には十字架の刺青があった。
「リンさま、この迷い子タンに救いと幸せをお与えください」
 グエン導師がおれを指し示し、はっとした。まわりの子どもやおじさんもはっとしおれを見つめてくる。
 リンさまと呼ばれた神がおれにそっと近づいてきて言った。鈴が鳴ったみたいな声だった。
「ついてきなさい」
 おれはうなずいて、奥のドアへ向かうリンさまについていった。

 この部屋も壁一面に並べられた水槽のなかで白いベタが泳いでいる。
 部屋のほとんどのスペースを占めている大きな赤いベッドにリンさまは腰かけた。
「隣に座りなさい」
 言われた通り隣に腰をおろすと尻が柔らかく沈む。ベッドってこんなに柔らかかったっけ? リンさまがおれの太腿を撫でてきたけれど、おれはベッドに感動して思わず呟く。
「やわらかい……」
「寝てもいいですよ」
 言葉に甘えて倒れてみる。まるで雲の上だ。
 腿を撫でられる感触に視線を天井からそこに移す。リンさまが腿を撫でる手でそのままおれのワイシャツをまくり、下着からちんこを取り出した。
 リンさまが身を乗り出し、なにかを手にすぐ戻ってくる。ヘッドボードにでも置いていたのであろうピンク色のボトル。なかの液体をとろりとリンさまは片手に垂らし、おれのちんこを握ってきた。
「んっ……」
 ぬるぬると液体を擦りつけられると、じわじわちんこが熱くなってくる。リンさまのきれいな手のなかでふくらみ、硬くなっていく。十分液体で濡れたちんこを擦る手をリンさまはとめない。
 雲の上で、水槽のなかの天使たちから見られながら神にちんこを扱かれる。変な感じ――気持ちいいという感覚が強い。これが幸せ?
「おれ、今救われているの?」
「ええ、神の手で救われているのですよ」
「リンさまが本当の神で、おれの本当のおかあさん?」
「え? ……ええ、そうですよ」
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