ティエン・タン

山本ハイジ

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 路地裏のランタンの下で立つ。行き交うおじさんに掴まれたくなくて、目をあわせないよううつむいた。
 そんなにせず、アオザイのひらひらした裾が視界に入り顔をあげる。
「こんばんは、タン。天壇へ行こう」
 グエン導師が優しくおれの手を掴み、引いた。
「さっそく?」
「今夜は君を買いにきたわけではないし、この辺の宿のベッドは硬いからね。来たくなければいいが」
「ううん、行く! リンさまに会いたい」
「リンさまから救いと幸せを与えられたければ、供物か奉仕を捧げるのだよ」
「供物ってなに?」
「金銭になる」
「おれ今お金ないよ。第二の神に全部渡したから」
「なら奉仕だ」
「奉仕ってなにするの?」
「行けばわかる」
 そんなやりとりをしながら道路でトゥクトゥクに乗って、おりて建物の入り組んだ狭い路地を少し歩き、天壇に入る。
「こんばんは、タン」
「こんばんは」
 ソファーにいる子どもが挨拶してきたから返す。おかあさんとおじさん以外で話したりすることなんてなかったからなんだか嬉しい。
「さぁ、タンこれを吸って」
 グエン導師が渡してきたあまりおいしくないけれどふわふわする煙草を吸う。それからグエン導師が言った。
「さぁ、奉仕だ。部屋のまんなかへ行き、ワイシャツを脱いで、私に背中を向けて四つん這いになりなさい」
 言われた通り部屋の開けたまんなかでワイシャツを脱いで下着だけになると、背後に立ったグエン導師に尻を向けて四つん這いになる。まわりの子どもとおじさんたちの視線が注がれるのがわかる。ちょっと恥ずかしい。
 ややあって空気を切る音がして、すさまじい衝撃を尻に覚えた。
「いっ……!?」
「奉仕を耐え抜くのだ、タン。そうすれば神から救いと幸せが与えられる」
 おじさんから手のひらやベルトで叩かれるのとわけがちがう。また空気が切られ、一瞬の恐怖のあとすごい音と同時に激痛という言葉じゃ軽すぎるような痛みに襲われる。
「いああっ!」
 おれの尻、ずたずたに引き裂かれているんじゃないか? これが奉仕? 耐えられるのかな……。
「がんばれ、がんばれ」
「乗り越えれば救いが待っているぞ」
 子どもたちとおじさんたちが声をかけてくる。救い……幸せ……それを考えると頭のふわふわが強くなってきた。
 壁に並ぶ水槽のなかの白いベタをなんとなく見つめる。リンさまに似ている。
「うああっ!」
 そうしていたら打たれた。悲鳴をあげたあと、ひらひらと羽根のように舞う尾びれを見ながら歯を食いしばる。がんばる。
「よし、最後の一発だ。奉仕に耐えるタンは美しい……」
「っっ……!」
 グエン導師のややうわずった声が聞こえ、最後の一発を受けると四つん這いを維持できず崩れた。
「よくがんばった!」
「えらい!」
 子どもたちとおじさんたちの拍手が響く。
「さぁ、神の待つ奥の部屋へ行きなさい」
 グエン導師から促され、リンさまのもとへすぐいきたかったが尻が痛すぎてなかなか立ちあがれなかった。グエン導師が伸ばしてきた片手を掴み、どうにか立ちあがる。グエン導師はもう片手に編まれてロープのようになっている革が何本も垂れさがった把手(はしゅ)を握っていた。
 ふらふらと救いと幸せを求め奥のドアへ向かい、開ける。神がベッドにすらりとした脚を組んで座っていた。
「よく奉仕してくれました。そこに座りなさい」
 リンさまが自らの足もとの床を指差す。尻が痛むのを我慢して座った。
「ふふ、もう勃っていますね。よほど救いが欲しかったとみえます」
 爪先でおれのちんこを下着越しに形をなぞるようにリンさまが撫でてくる。もどかしくて震える。そう、おれの下着の前は張っていた。
「痛いと普通萎えるのに……」
「救いがあればつらい奉仕も快楽に変わりえます。さ、下着を脱ぎなさい。今宵は足で救ってあげましょう」
 急いで下着を脱ぐ。跳ねるように現れたちんこにリンさまが手にしていたピンク色のボトルを傾けて、なかの液体をとろりと垂らす。くちゅり、と濡れた先端にリンさまは爪先で触れてくる。
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