異世界奇譚

天藤志郎

文字の大きさ
上 下
7 / 8

穴の中の子ども

しおりを挟む
ゴブリン族のゲルボ氏のが小さい頃、ゲルボ氏の叔父が家を引っ越すというのでその手伝いに行った時のことである。
ゴブリン族の住居というのは基本的に山間部などの洞穴で家ごとに大穴と呼ばれる玄関のようなものがあり少し先に進むとまた穴が開いていてそこを通っていくと我々で言うところのリビングのような空間に入り、そこから各人の部屋などにつながる穴があるというのが一般的なゴブリン族の家の作りなのだ。
ゲルボ氏の叔父は永えらく独身生活を続けていたのだがいい加減身を固めたらどうかという親や兄弟のすすめにより見合いをしてハーフリング族の女性と結婚することになり今まで住んでいた部屋を出て新居に引っ越すことになった、一人暮らしが長かったせいか荷物は多く大人たちは次々とリヤカーに荷物を積んでいく、運ぶのは知り合いのオークやキュクロプスなどの力自慢たちである。まだ子供だったゲルボ氏は特にすることもなくオークやキュクロプスの子供と家の近所を探検して遊んでいた。
すると近くに大穴に縄が張られた家を見つけた、これは空き家であると言うことを意味している。
「中入ってみようぜ」
オークの子供が提案をし二人とも特に反対せず入ろうということになった。
縄をくぐり抜け、穴を下っていく陽の光で照らされているものの下って行くに従ってどんどん暗くなっていく、しばらく下っていきリビングの空間に着いたものの昼間とは思えないほど暗く明かりを持ってきていなかった子供たちは段々と不安感に襲われていく。
「もう出ようか、暗くて何もわからないよ」
言い出しっぺであるオークの子供が言う。
するとキュクロプスの子も
「うんそうしようか」
といいゲルボ氏もそれに賛同した。
外に出ようとした瞬間遠くの方でパタパタという音が聞こえた。
ゲルボ氏はとっさに後ろを振りかえるも誰かいる気配がしない。
「どうしたの?」
「いや、なんか足音が・・・」
「怖いこと言わないで――」
キュクロプスの子が言った瞬間3人の真後ろの方でダダダッという走る音が聞こえた。
3人とも息をのみその場に立ち尽くす、すると今度はケタケタと幼児が笑う声が聞こえた。
あまりの恐怖に声が出なかったものの3人は暗がりの中を全力で走り叔父の家に戻った。
その後荷物をリヤカーに乗せ終わり新居へと向かった、子供たち3人は叔父の用意した馬車に乗り込み新居へと向かう。
新居への道中例の洞窟の前を通った、一瞬の事だったがゲルボ氏には大穴からこちらを見ているゴブリンの子供の姿が見えた。恐ろしくなり目線をそらすと両脇に乗っていた2人も同じように目線をそらしていた。
(同じものを見たんだ)
直感的にそう思った。
それから1年ほどして叔父から手紙が届いた、叔父曰く新居を引っ越すのだそうだ。理由は引っ越した日から子供のいる気配がすると書かれていた。
しおりを挟む

処理中です...