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魔芸師と念写
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今から遡ること200年前魔族と人間の間で戦争が起き、人類側はその対策として多くの魔術師の育成を行った。各地に魔法学校が作られ数多くの魔術師が輩出された。
しかし戦争終結後魔術師たちは職にあぶれ、あるものは魔法学校の教師にあるものは私塾を開くなどして食い扶持を稼いでいた。そんな中自分たちの魔術を芸として披露するグループが現れた魔芸師という、この話を語ってくれたゲハール氏もそんな魔芸師の一人である。
ゲハール氏が行うのはいわゆる千里眼と念写である。元々は災害が起きた際の状況確認や敵地の様子を見る等軍事的に使われていたものでお客さんに地名を言ってもらいその場所を千里眼で見る、そしてその見た場面を魔力のこもった紙に写し出すという芸である。
その日ゲハール氏は劇場の出番を終え、自宅へ帰ろうとしていた時劇場の入り口で呼びとめられた。
「あのー、すみません先ほど舞台で念写を行っていた方ですよね?」
小太りの中年男性が申し訳なさそうに話しかけてきた。男の右側には5、6歳くらいの少年がもじもじとした様子で腕にしがみついている。
「実は私たちこの先のタルケの丘に行きたかったのですが聞くと土砂崩れで行けないようでして、息子はとても楽しみしていたのでどうか丘の景色見せてやりたいんです。もちろんお金はお支払いします」
タルケの丘というのこの近くにある有名な観光スポットで丘の上からの景色は絶景で有名なのだが二ヶ月ほど前の台風で道が土砂崩れで塞がれてしまい通行ができなくなっていた。
聞くと父親が来週遠くの街に単身赴任するので最後の思い出に来たのだという。そういう事ならとゲハール氏はその依頼を引き受けた。親子は明後日までこの町の宿に滞在しているというので明日届けると約束しその日は別れた。
次の日の朝ゲハール氏は自宅で念写の術を行っていた。幸いに天気は晴れであり景色は良く写りそうだった。
まず千里眼を使い丘の上にの景色を見る、晴れ渡った空に町全体が遠くまで見渡すことが出来、絶景と呼ぶにふさわしかった。そのまま紙に手をかざし念写を行うこれで完成である。
手をかざした紙にジワリジワリと少しずつ景色が映しだされていく、おおよそ1時間続けると景色をはっきりと写し出すことが出来る。
完成したと紙から手を放すとある違和感に気付いた。目線は丘の先端から2メートル程後ろの辺りになるのだが目の前にうしろを向いた人物が立っているのだ。
「千里眼で見たときにはいなかったぞ。」
土砂を取り除いている業者の人間かとも思ったがそれにしては服装が軽装だった。いずれにせよこのままでは渡せないのでもう一度千里眼と念写を行う、するとまた誰か立っている、そして1枚目とは違う部分があるこちらに背を向けていた人物が左側を向いているのだ。その時にその人物が男であるということが分かった。
「えぇ、どういうことだよ」
2枚目も破棄して3枚目の作成に取り掛かる。
2枚続けて謎の人物が写り込んでいるのだから3枚目も映り込むのではないかとついつい考えてしまう。
(まさか・・・、3度目は・・、でも次は正面だよな)
1枚目は後ろ、2枚目は左向き、3枚目は正面を向いて顔が完全に見えてしまう。そんなことを考えながらもどんどん紙に景色が写し出されていく、全体がぼんやりと浮き出た時にゲハール氏はその男の正面からの顔を一瞬見てしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
ゲハール氏は椅子から転げ落ちた。その男の顔は昨日自分に依頼をしてきた男の顔だったのだ。
術を途中で止めてしまったので結局3枚目も破棄することになってしまい、恐る恐る作成した4枚目は特に変わったことは無くそれを持って親子のいる宿へと向かった。
宿屋の主人に詳細を話したもののそんな親子連れは泊まっていない言われ、その親子は忽然と姿を消してしまったのだ。
今でもその念写したものはゲハール氏の机の引き出しに隠されている。
しかし戦争終結後魔術師たちは職にあぶれ、あるものは魔法学校の教師にあるものは私塾を開くなどして食い扶持を稼いでいた。そんな中自分たちの魔術を芸として披露するグループが現れた魔芸師という、この話を語ってくれたゲハール氏もそんな魔芸師の一人である。
ゲハール氏が行うのはいわゆる千里眼と念写である。元々は災害が起きた際の状況確認や敵地の様子を見る等軍事的に使われていたものでお客さんに地名を言ってもらいその場所を千里眼で見る、そしてその見た場面を魔力のこもった紙に写し出すという芸である。
その日ゲハール氏は劇場の出番を終え、自宅へ帰ろうとしていた時劇場の入り口で呼びとめられた。
「あのー、すみません先ほど舞台で念写を行っていた方ですよね?」
小太りの中年男性が申し訳なさそうに話しかけてきた。男の右側には5、6歳くらいの少年がもじもじとした様子で腕にしがみついている。
「実は私たちこの先のタルケの丘に行きたかったのですが聞くと土砂崩れで行けないようでして、息子はとても楽しみしていたのでどうか丘の景色見せてやりたいんです。もちろんお金はお支払いします」
タルケの丘というのこの近くにある有名な観光スポットで丘の上からの景色は絶景で有名なのだが二ヶ月ほど前の台風で道が土砂崩れで塞がれてしまい通行ができなくなっていた。
聞くと父親が来週遠くの街に単身赴任するので最後の思い出に来たのだという。そういう事ならとゲハール氏はその依頼を引き受けた。親子は明後日までこの町の宿に滞在しているというので明日届けると約束しその日は別れた。
次の日の朝ゲハール氏は自宅で念写の術を行っていた。幸いに天気は晴れであり景色は良く写りそうだった。
まず千里眼を使い丘の上にの景色を見る、晴れ渡った空に町全体が遠くまで見渡すことが出来、絶景と呼ぶにふさわしかった。そのまま紙に手をかざし念写を行うこれで完成である。
手をかざした紙にジワリジワリと少しずつ景色が映しだされていく、おおよそ1時間続けると景色をはっきりと写し出すことが出来る。
完成したと紙から手を放すとある違和感に気付いた。目線は丘の先端から2メートル程後ろの辺りになるのだが目の前にうしろを向いた人物が立っているのだ。
「千里眼で見たときにはいなかったぞ。」
土砂を取り除いている業者の人間かとも思ったがそれにしては服装が軽装だった。いずれにせよこのままでは渡せないのでもう一度千里眼と念写を行う、するとまた誰か立っている、そして1枚目とは違う部分があるこちらに背を向けていた人物が左側を向いているのだ。その時にその人物が男であるということが分かった。
「えぇ、どういうことだよ」
2枚目も破棄して3枚目の作成に取り掛かる。
2枚続けて謎の人物が写り込んでいるのだから3枚目も映り込むのではないかとついつい考えてしまう。
(まさか・・・、3度目は・・、でも次は正面だよな)
1枚目は後ろ、2枚目は左向き、3枚目は正面を向いて顔が完全に見えてしまう。そんなことを考えながらもどんどん紙に景色が写し出されていく、全体がぼんやりと浮き出た時にゲハール氏はその男の正面からの顔を一瞬見てしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
ゲハール氏は椅子から転げ落ちた。その男の顔は昨日自分に依頼をしてきた男の顔だったのだ。
術を途中で止めてしまったので結局3枚目も破棄することになってしまい、恐る恐る作成した4枚目は特に変わったことは無くそれを持って親子のいる宿へと向かった。
宿屋の主人に詳細を話したもののそんな親子連れは泊まっていない言われ、その親子は忽然と姿を消してしまったのだ。
今でもその念写したものはゲハール氏の机の引き出しに隠されている。
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